第48話
「ユーキ、どうした?何か困りごとか?」
ん?
声をかけられ振り返る。
「熊!……」
おっと、失礼いたしました。慌てて口を押える。かわいい熊耳の持ち主の、えーっと名前は……。
そうそう、ルクマールさんです。残念ながら、普通に立っている状態では、身長差があって、見上げるばかり……。
耳が見えないですよ。しゃがんでくれないかなぁ……。
「ルクマールさん、先ほどは看板を作っていただいてありがとうございました。あ、そうだ、これ。新メニューに加えようか悩んでいる料理なのですが、食べて感想を聞かせてもらえないですか?」
レバーフライの乗った皿を差し出す。
「ほー、変わった見た目だな。どれ」
ルクマールさんは薄っぺらだけど手の平くらいあるフライを3口で食べた!大きな口!
「なんだ、これ、うんめぇ。パンみたいなもんかと思ったら、肉系だよな。こんだけニンニク聞かせてるのに、肉独特の風味が全く負けてねぇ。しかし、何の肉だ?食べたことない食感だな」
首を傾げるルクマールさんに最後のフライを差し出す。
「もう一ついかがですか?食べて何か当ててみてください。食べたことはなくても見たことはあると思います」
おいしそうに鮭をぱくりと加える熊さんの姿を想像すると、ルクマールさんが大きなフライをパクっと口にする姿がなんともかわいらしく思えないて、おかわり渡しちゃいました。
「おう、いいのか?じゃ、遠慮なく。あー、癖になる味。なんだ、見たことあるけど食べたことないって……うめーな。これメニューにしてくれ。買いに行く」
「メニューにするかは分かりませんが、ルクマールさんのために作っておきますね。忘れずに無料券持ってきてくださいね」
ルクマールさんが嬉しそうな顔をした。
「え?いいのか?嬉しいけど。じゃぁ、もう1回ダンジョンに潜ったら、行くよ。で、いったい何の肉なんだ?」
ちょいちょいと、ルクマールさんを手招きする。
「ん?」
身をかがめたルクマールさんの耳に内緒話。
うふふ。熊耳可愛すぎます。
「ごにょごにょ」
レバーなんてばれたら、売れるものも売れなくなっちゃうかもしれないので……。
「は?まじで?今まで捨ててたぞ?なんてもったいないことしてたんだっ」
ルクマールさんが両手で頭を抱えて天を仰いだ。
「もしかして、ほかの動物でも食べられるのか?」
「あー、たぶん。毒のあるなしみたいなのは確認しないといけないと思いますが……。ボクの知ってる限り、鳥のはもうちょっとほくほくした感じで、えっと、モモシシは比較的脂が多いかな?」
牛レバーに近い感じ。鳥って、鶏みたいなのいるのかは知らないけれど。
「おーい、買い取り終わったぞ、行くぞ!」
「おっと、話の途中ですまん。じゃぁ、また後でな!」
パーティーメンバーに呼ばれてルクマールさんが走っていった。
荷物が増えると買い取ってもらって、身軽になってまたダンジョンに行く感じなのかな?ファンタジーでよくある、不思議な収納ができる道具や魔法ってないんだろうか?
「なぁ」
ルクマールさんが去ってすぐに別の冒険者から声をかけられた。
「さっきルクマールさんがうまそうに食べてたやつ何?」
「ああ、あれは、ダタズさんのお店の屋台、あっちで夜に売ろうかどうしようか試作した料理で、味の感想を聞かせてもらったんです」
「屋台?そういえば、昼間はおいしそうな肉食べてたやつらがいたな。あっちで買ったといってたが……ルクマールさんがあんなに美味しそうに食べてたんだから、さぞうまいんだろうな……」
冒険者さんがよだれをたらしました。
「あっちだな。何時から営業だ?」
「えーっと、みなさん夜ご飯は何時くらいに食べられるんでしょうか?」
「そうだなぁ。大体日が暮れる前には食事の準備を終わらせるな」
なるほど。明るいうちに食事の準備はしたほうがいいですもんね。食べるだけなら暗くなって焚火の光でも十分かもしれませんが。
「ありがとうございます。だいたい、それくらいの時間に開店できるように頑張って準備をします」
ぺこりと頭を下げる。
「ありがとう?」
冒険者さんがちょっと不思議な顔をする。
教えてもらったんで、お礼を言いますよ。
冒険者さんに背を向けてバーズの元に戻る。ダタズさんの姿はまだない。
奥さん、どうかなぁ。検索情報だと、食べて飲んで割とすぐに効果が現れてたよね?
屋台を出す場所に近づくと、鍋を見ていたバーヌが突然振り返って私を見た。
ん?なんか、怒ってる?
「遅かったですね?」
バーヌが低い声を出しました。ええ?
そんなに遅かったかな?
「また、いやなにおい……」
バーヌが顔をしかめました。
ええ?いやなにおい?レバーの匂い苦手な人がいるとかそういうこと?うーんでも、さっき食べたときは平気だったよね?
あれ?それとも、私、知らない間に何か変なものでも踏んづけてきたかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます