第19話
「おい、ちょっと来て、これを見てくれっ!」
ジョーンさんと私もリーダーと一緒に破棄奴隷の近くに行きました。
「ああ、よかった。もとに戻ったんだ」
ちぎれていた指がそろっています。綺麗な爪の色です。薄ピンクで健康だと言うことを示しています。
「死んでない、眠っているだけだ……」
槍の男が破棄奴隷の顔を覗き込んでいった。
「それに、どうしたことだ、さっきまでとはまるで別人だ。顔色は健康そのもの、体のあちこちひん曲がっていた骨もまっすぐになっている。鞭で打たれたのか火で焼かれたのかぼこぼこだった顔も腕も首も、ところどころ剥げていた髪も……綺麗になってる……」
あー、よかった。すごく苦しんでいるときは、本当に効果があるのかちょっと心配だったんです。
「あの、これが、効果特大のポーションです。欠損部位も治ります。マイクさんが作ったポーションの中で偶然が重なり何本かできたみたいなのですけど、その……おじさんが経験したように、とても激しい痛みが1時間ほど続くため……苦しみ分がマイナス評価されて鑑定では効果中って出るみたいなんです」
リーダーがあんぐりと口を開いています。
そして、ゆっくりと手を耳たぶへと持っていっきました。
「耳たぶが、ある……。数年前確かにかみ切られてちぎれたはずの耳たぶが……あのポーションの効果か……」
リーダーがジョーンさんの顔を見ます。
「おい、さっきの話し合いはなしだ。なし。返せと言われても、昨日買ったポーションは返さないからな?それでいいな?全部チャラだ」
「え?あ、はい……」
ボー然としているジョーンさんを残して、二人の冒険者は去っていきました。
「効果特大のポーション……」
ぺたりと、ジョーンさんが座り込みました。
「ユーキは、なんでそんなこと知ってたんだ?」
「え?」
やばいです。えっと、どう説明すれば……。
「あーっと、もうすぐたぶんマイクさんからギルドにも報告があると思います……その、娘さんがポーションに何か混ぜちゃったんだそうで。えっと、それで偶然できて、再現できるかは分からないから、その、マイクさんから昨日買い入れたポーションだけが特別なはずで……」
「なんだって?確か昨日は10本買い入れて……。さっきの冒険者に5本、それから槍使いに3本売ったから……。残りは2本か!いや、こうしちゃいられない、どれだったか。個人的に売買するには手に余る。ギルドに販売を委託しないと……。ああ、ユーキ、ユーキのおかげで助かったよ。これ、お礼だよ」
ジョーンさんが銀貨を4枚差し出しました。
4万ほどの価値。
「え?こ、こんなに?」
「ああ、これでも少ないくらいだ。あの1本でもどれだけの価値があるのか。また売れたら追加でお礼を持っていくよ。高価なものだからいつ買い手が現れるのかは分からないけれど……」
お金は欲しい。でも……。
「えっと、僕はその、もう別の町に移動すると思うから、お金は……そう、孤児院に寄付してあげてほしいです。何かあれば孤児院を助けてあげてください」
お金を受け取るために動きを制限されるわけにはいきません。妹を……望結を探さないといけないのですから。
「わかった。うん、ユーキ。約束する。孤児院に毎年寄付を続けるよ」
ジョーンさんが私の両肩をポンポンと軽くたたいて去って行きました。
毎年?ジョーンさんは本当にいい人。そう、面倒見のいい人ですから、きっと毎年本当に孤児院のために何かし続けてくれるんでしょう。
ジョーンさんの後姿を見送りながら、ほこほこと心の奥が温かくなるのを感じます。
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