第15話
【起きてきた娘がこんなことを言いだした。「あたしがつくったポーション売れた?」と。
娘はまだ4歳だ。当然ポーションなんて作れるはずがない。何を言っているのかと思ってよく話を聞けば、僕が昨日作っていたポーションを一緒に作ったのだという。
「あのね、材料いれてあげたの。道にね、咲いてたお花を石でつぶして汁を出してね、混ぜ混ぜしたの」
なんということだろう。
娘は僕がポーションを作るときの真似をして、何らかの植物をつぶして汁を出したと言うのだ。親の仕事を誇りに思って真似をしてくれるのは嬉しいが、僕が席を離れた一瞬のすきに、その汁を……昨日僕が作っていたポーションに混ぜてしまったと……。
何か一つでも別のものが入れば、たちまちポーションは変質してしまう。
効果が高くなるか低くなるか、まったく効果がなくなるか。……物によっては毒にさえ変わってしまう。
あわてて裏の小屋へ昨日作ったポーションを1本持っていく。
新しいポーションを開発するために、傷ついた動物を見かけたら保護して小屋で飼っているのだ。
実験するためと言えば動物に悪いが、傷を治すためにと言えば少しだけ心が楽になる。
片方の羽がもげ、片目もつぶれいる鳥。僕の作るポーションで命は助かった鳥に、娘が何かを混ぜてしまったポーションを与える。
バサバサバさっと残った片方の羽を激しく動かし、止まり木から落ちた。そしてそのまま痛みに耐えるように必死に体を動かしている。
「ああ、なんてことだ、なんてことだ……」
小屋を飛び出した。
ジョーンさんの店に。昨日作ったポーションはすでに何本もジョーンさんに売った。効果中のポーションが大量に欲しいからと言っていたので、できた分はほとんど持っていったのだ。
ジョーンさんはどうしただろうか。
1本ずつ鑑定していた?
何本か抽出して鑑定しただけだったか?
鑑定結果で「確かに効果中ですね」と買い取ってくれた。だが、その結果は……ポーションとしての効果なのか?鑑定結果はどう表示されるのか僕には分からない。
もし、毒としての効果中なんてことになっていたら……。
「ジョーンさん、ジョーンさん」
店のドアをどんどんと叩くけれど、人は出てこない。
僕の作ったポーションを誰かに売ってしまう前に回収しなければ。
「ああ、ジョーンさんなら昨日、隣町へいく馬車に乗っていったよ」
騒がしくしていたためか、近所の人が教えてくれた。
「と、隣町に?」
どうしたらいい、どうすればいい……。
そうだ、ギルドだ、ギルドに依頼を……。隣町に移動したはずのジョーンさんに伝えてもらうように……。】
ああ、なんてこと。行き違いなんですね。小さな子供のちょっとした行動が引き起こした……。
誰にも悪気のない事件。
それにしても、検索結果に「ジョーンさんは昨日街を出た」とありました。ということは、今日の朝の出来事が、こうしてすぐに検索結果に反映されてるってことですよね?
インターネットですら、そこまで迅速に検索サイトに反映されないんじゃなかったでしょうか?
なんでしょう、この鑑定の検索って。
とりあえず、マイクさんがギルドに依頼をしたのであれば……いや、これから依頼をするのであれば、ギルドに行けば真実が分かりますよね。
真実が分かれば、ジョーンさんがポーションを毒として売るつもりがなかったことが証明されるはずです。
あ。
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