第13話

「病気……なの?大丈夫ですか?」

 そっと手を伸ばしてみますが、顔を上げる力も手を動かす力ももうすでに残っていないようです。

「おう、坊主、ほかっておけ。その腕の印、奴隷だろう?大方、病気かなんかで主に捨てられた破棄奴隷だろう。残念だが、破棄された奴隷は長く生きられないよ」

 フードを目深にかぶった冒険者のなりをし男が、私の手をつかんで立ち上がらせました。

 それから、破棄奴隷の手の平に、小さなパンを握らせます。

「食べられないかもしれないが、食べられそうなら食べな」

 ああ、いい人です。

「ありがとうございます」

「なんで坊主が頭を下げる?」

 ぷっと笑われました。

「さぁ、もう行け」

 しっしと追いやられたので、慌ててその場を離れます。

 奴隷。

 ……奴隷……。

 どうして奴隷になったんでしょう?

 どういう人が奴隷になるんでしょう?

 奴隷になったらどんな扱いを受けるんでしょう?

 バクバクと心臓が痛いです。

 日本で奴隷という言葉から受けるイメージが悪すぎて……。

 ああ、妹の望結は大丈夫でしょうか。

 こっちの世界に来て、悪い人につかまって売られて奴隷になっていたりしないでしょうか……。

 どうか、どうか無事でいて。

 

 ジョーンさんの泊まっているという4番通りの6番宿の前にに、人垣ができてました。

 何があるんでしょう?

 人垣に近づくと男の人の罵声が聞こえてきました。

「お前のせいでひどい目にあったんだ」

 がっ。と、物をぶつけるような音。

「毒をポーションと偽って売りつけるなんて」

「そ、そんな。私は毒なんて売ったりしていません」

 え?今の声はジョーンさん?

 人垣を分けて前に出ると、地べたにひざまずいているジョーンさんの姿が見えました。目の周りが青くなっています。

 殴られた?

「はっ。よく言うな?俺は、昨日お前から買ったポーションを飲んでひどい目にあったんだ。飲んだ瞬間全身が激しく痛んで、立っていられなくなった」

 え?

「まさか……鑑定結果には確かにポーション、効果中と……鑑定した確かな品しか取り扱っていません」

 ジョーンさんが目の前の冒険者か山賊か分からないような粗野な容貌の男を見上げます。

「うそじゃねぇ、証人もいる」

 男の後ろから、ひょろりと背の高い、槍を持った男が現れました。

「びっくりしたぜ、リーダーがポーションを飲んだ途端に急に地面でのたうち回るんだから。慌てて俺の持ってた一番効果の高いポーションを飲ませたから生きてるようなもんだ」

 ジョーンさんが信じられないという顔で、証人と言う男の顔を見ています。

「おい、俺が使ったポーションの代金金貨1枚、それからリーダーを危険にさらした慰謝料金貨10枚、合わせて金貨11枚払ってもらおうか」

 証人の男がジョーンさんの襟首をつかんで持ち上げました。

 本当にジョーンさんが売ったポーションが毒だったのでしょうか?

 ざわざわと、周りに集まっている人たちも顔を見合わせてささやきだしました。

 見た感じ、ごろつきに難癖付けられて金を巻き上げられようとしているようにしか見えないのです。

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