第9話
困った顔をしていた私をかわいそうに思ったのか、宿のおかみさんが声をかけてくれます。
「君、一人?」
はいと、返事をしても大丈夫でしょうか。返事を躊躇している間にも、おかみさんが言葉を続けます。
「だったら、教会へ行けば何とかなるかもしれないわ」
「教会?」
「大人は無理だけど、子供なら……。教会の隣に孤児院があるから、泊まれないか聞いてみるといいわよ?」
孤児院……。
いくら男の子に見えると言っても、本当は大人です。それはさすがにずるい気がします……って、ちょっと待ってください?妹も、困って孤児院にいる可能性もあるんじゃないでしょうか?
「はい、ありがとうございます。行ってみます」
「ああ、じゃぁ、ちょっと待って」
おかみさんが奥に何かを取りに行きました。
「これ、宿泊客が置いて行った物なんだけれど、孤児院に持って行って寄付してくれる?」
「置いていった?」
忘れ物かな?それとも荷物が増えて出ていくときに邪魔だからゴミとしてわざと置いていった?のでしょうか。
首を傾げると、おかみさんがしぃっと唇に人差し指を立てました。
あ。
手渡されたものは、とても忘れていくとは思えない着替えがそのまま入った袋なんかもあります。
冒険者が宿泊しているとしたら……ダンジョンに行って、そのまま戻ってこないこともあるのかもしれません。
ごくりと、唾を飲み込みます。帰ってこないお客さん……。
改めてこの世界で生きていくことの大変さに身震いしました。
孤児院では温かく迎え入れてくれました。
黒髪の少女……妹を知らないかと尋ねましたが、知らないとのことでした。
シスター曰く、見知らぬ子どもが1人でいれば、どこからか孤児院に情報が入るだろうということです。
ということはどうやらこの町に妹はいないということでしょうか。
……めぼしい情報は得られませんでしたし。黒髪はかなり目立つはずなのです。
妹がいないのであれば、次の街に行かなくちゃいけません。乗合馬車の代金、早く貯めないと。
……。
「おはよう、昨晩はよく眠れた?狭い場所で寝苦しかったんじゃない?」
「あ、おはようございます。いいえ、ありがとうございました」
子供たちと雑魚寝をしました。子供たちの体温が温かくて逆によく眠れました。
そういえば、人のぬくもりを感じるなんてこっちに来てからなかったですものね……。
「何もないけれど」
シスターが皆にパンを配っています。シスターは、私の手にもパンを乗せました。
明るくなって、いろいろとはっきりと見えるようになると分かります。
孤児院は非常に粗末な作りです。子供たちの服装もつぎはぎだらけ。面倒を見ているシスターのエプロンもひどい有様です。
たった一つのパンといえど、貴重な食料だということはすぐに察することができます。
「ありがとうございます」
遠慮することもできましたけれど、それはそれで、彼らに同情し見下しているように思えてできませんでした。
断るよりもお礼をしようと思います。
私にできることは何があるでしょうか……。んーと考えて見つけました。
孤児院には、裏庭がありました。少しの作物が植えてあります。
5歳前後の子供が4人、10歳前後の子供が3人ではなかなか手が行き届かないのでしょう。広い裏庭の半分は雑草に覆われています。
お礼に畑仕事のお手伝いをしましょう。
そう決めて、午前中は孤児院で畑仕事をして過ごすことにします。
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