第3話


僕が待ち合わせの書店に入ると、ベストセラー作品の列に〈ラプラスの小説家〉(しんや 著)と印字された本が多数並んでおり、その片隅に〈ラプラスの小説家〉(ラプラスの小説家 著)が少数並んでいた。


それを、ぼんやりと眺めていると、後ろから声が掛けられた。


「ミリオン突破、おめでとう!」


「加奈……」


加奈は眩いばかりの笑顔を浮かべていた。




「ミリオン突破といっても、大部分は『ラプラスの小説家』の話題性のおかげ……僕の実力じゃないよ」


書店を出た僕は、少し俯いた。


「でも……本当に、〈ラプラスの小説家〉に書いた通りになったじゃない! それって、真也の書いた方が、やっぱりみんなの心に響いて……コンピュータなんかには真似できなかったってことよ!」


加奈の底抜けに明るい言葉に、僕の顔は綻ぶ。



僕達はこの日のデートプラン通り……

夜景の綺麗なレストランに入った。


「わぁ~、すごい、綺麗。流石、印税が入ると違うよねぇ」


加奈は瞳を輝かせて夜景を見る。

そんな彼女を、僕は真っ直ぐ見つめた。


「なぁ、加奈」


「ん?」


加奈が顔を向けた。


「どんな形であれ、ベストセラー作家になるという約束……守ったからさ。ほら、もう一つの約束……」


「えっ?」


僕は加奈の左手を持ち、その薬指にダイヤの指輪をはめた。

彼女はそれを見て、瞳をさらに輝かせる。


「すごい……素敵……」


僕は右手をそっと手の甲に重ねた。


「加奈……結婚してくれ」


彼女は頬を赤らめて微かに頷いた。


しかし、それはすぐに悪戯な笑顔に変わった。


「でも……真也。今よりも、もっと、もっと頑張らなきゃダメよ。だって、〈ラプラスの小説家〉によると……これから、ライバルがじゃんじゃん出てくるんだから!」


「ああ……そうだな」


頬を桃にして照れ隠しを言う加奈の手をギュッと握って、僕は目を細め頷いた。

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ラプラスの小説家 いっき @frozen-sea

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