第2話



その時代。

書物は専ら『ラプラスの小説家』の創作する作品のみとなっていた。


誰もが求めること……それは、『未来を知る』ということだった。


そんな時勢を反映し、小説家という職業も消滅しつつあった。




しかし、僕は頑なに『小説』を書くことに誇りを持ち、ひたすら創作することをやめなかった。


「ちょっと、真也(しんや)。まだ、諦めてないの? もう『小説家』なんて、時代遅れ。皆が求めてるのは、未来を読むことができる小説よ。他の職業を探したら?」


加奈(かな)が眉を顰めて僕に言った。


「いや、ダメだ。僕の魂を込めた作品……僕の渾身の作品が、コンピュータに負ける筈がないんだ」


ひたすら原稿用紙に向かい合う僕を見て、加奈は呆れたように微笑んだ。


「全く、強情ね。でも、そんなあなたを信じてしがみつく私も、大概強情だけどね」


「加奈、待っててくれよ。僕は絶対に『ラプラスの小説家』なんかには負けない。あんなコンピュータには書けない……魂の作品を産み出してみせる!」


「うん。いつまでも、待ってるわ」


加奈は、にっこりと笑った。


そして、僕は……自分の魂を込めた一つの作品を完成した。

タイトルは〈ラプラスの小説家〉。


しかし、それと全く同時にコンピュータ『ラプラスの小説家』も同名の……〈ラプラスの小説家〉という作品を産み出したのだった。


その粗筋は、全く同じものであった。




書物といえば、未来を知ることができるコンピュータ『ラプラスの小説家』が産み出す作品のみ、『小説家』という職業がほぼ消滅した時代……

そんな時代にも関わらず、書くのをやめない男がいた。


彼は、読者の魂に訴えかけたい……その一心で小説を書き続けていた。


「コンピュータが書いた作品に、自分の魂を込めた作品が負ける筈がない」


彼は、その想いを胸に書き続けた。


そして、彼は自分の魂を込めた一つの作品〈ラプラスの小説家〉を完成した。


それと同時に、コンピュータ『ラプラスの小説家』も同名の作品〈ラプラスの小説家〉を産み出した。


両者の産み出した〈ラプラスの小説家〉の粗筋は、全く同じ物であったが……


男の産み出した〈ラプラスの小説家〉は、気迫に溢れた作品であった。

臨場感、細部に渡る表現は鬼気迫るものがあり、コンピュータには決して産み出すことのできないものだった。


それを読んだ者は皆、魂を揺さぶられ、深い感動を覚えた。



世の大衆は両者を読み比べ、やはり、『ラプラスの小説家』の作品は小説家の魂が込められた渾身の作品には敵わない、ということを理解した。


その二作が世に出て以降。


また、昔のように、読者は本物の感動を味わうことのできる小説を求めるようになった。

そして、読者に涙が溢れんばかりの感動を与えるため、より多くの小説家が創作活動を始めたのだった。


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