#3

 巻き上がる炎の中で、アルレクスの槍とアルヴィンの剣が交差した。その細腕のどこにそんな力があるのか、アルレクスの薙ぎ払いを、アルヴィンは受け流してみせる。

「ひとつ聞きたい」

 アルヴィンが繰り出した袈裟斬りを槍の柄で受け止め鬩ぎ合いながら、アルレクスはアルヴィンが振るう剣を見つめた。

「それは、〈楔〉か?」

「そうだと言ったら?」

「砕かせてもらう!」

 熱気が喉を焼く。だが、そんなことはお構いなしに、アルレクスはアルヴィンの体を剣ごと押し退けると、槍を叩きつけるように上から振り下ろした。体勢を崩したアルヴィンがそれを剣で受け止めようとして、あまりの衝撃にぐっと呻く。

「兄さんっ!」

 アルヴィンの操る炎が勢いを増す。この炎のために、誰も手を出せずにいた。どうして、なぜ、と叫びながら振るわれる剣を、アルレクスは受け止める。

「僕を——選ばなくても、いい。だから、分かってよ!」

 鋭利さを増した突きがアルレクスの肩を狙う。失血で動きが鈍っていたアルレクスは、咄嗟に反応できずにたたらを踏んだ。

「ゾラ! アルルを守って!」

 レネットの叫び声に応じて、アルレクスの目の前に妖精が姿を表す。額の宝石が輝き、薄い膜がアルヴィンの剣を阻む。それにアルヴィンは顔を歪めた。

「あの女、だけは。やっぱり殺しておくべきだった」

 アルレクスは大きく踏み込んだ。アルヴィンは体勢を戻すことができず、悔しげに叫ぶ。

「でなければ兄さんが死んでしまう!」

「私の運命は——私が選ぶ!」

 渾身の力で振り上げられた槍が、アルヴィンの剣を弾いた。剣はアルヴィンの手から離れて空中に舞った後、床に叩きつけられた衝撃で、甲高い音を立てて折れた。

 その瞬間、その場の空間そのものに亀裂が入るような、奇妙な感覚が全員を襲った。ガラスが割れるような音とともに、膨大な魔力の炎が放出される。エステラとグレイが咄嗟に結界を張らなければ、肺から焼かれていただろう。吹き飛ばされたアルレクスは、炎の中に取り残され倒れ伏すアルヴィンを視界に収めると、すぐさま立ち上がった。

「アルヴィン!」

 呼びかけに、ぴくりと閉ざされた瞼が動く。瞼の下から青い瞳が覗いた。

「今行く——待っていろ」

 炎の中に手を伸ばす。じりと、皮膚ではなく体の芯が焼けるようだった。アルヴィンは炎の中を突っ切ってくるアルレクスを呆然と見ていたが、ふと、腕を持ち上げて手を伸ばした。

 指先が触れ合う。その瞬間、炎が視界を塗りつぶした。

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