第3話 仲間ができたよ?
「おい、おい姉ちゃん、ついたぞ」
「ん・・・」
馬車に揺られて数時間、私は眠ってしまったらしい。
運転手さんに起こされて、周りを見てみると、そこは何やら活気のある市場だった。
「ここがエルフの森・・・?」
「違うよ。ここは商業都市ヴェニスランド。エルフの森まではここからあと半日はかかって着くのは夜になる。食糧と寝袋は買っておかないと飢え死んじまうぞ」
「そんな・・・」
あと1500Gしかないのに世知辛い。
「俺は馬に水とエサをやってるから、用が済んだら話しかけてくれ」
「分かりました」
私はエクスカリバーを外套の中に隠して外に出た。
王都でこの剣を見られた瞬間、勇者だと認識されたからだ。
追われる身としては正体を隠したい。
適当に歩いて人が集まっている所に行くと、やはりどの世界でも人は美味しい食べ物に集まる。
「商業都市名物ヴェニスまんです〜! いかがですか〜!? 」
一つ15Gの格安食糧を見つけた!
王都でちらりと見た果物屋のリンゴ一個50Gより安い。
見れば私と同じ冒険者風の若者達もこぞって並んでるではないか。
これは買いだ。
私は行列に並びながら、ふと背中に縛りつけたエクスカリバーが気になった。
これから先、どう頑張ってもこいつを使う機会が必ず来るだろう。
「剣の整備安くやってくれるところないかな〜」
思わず出た大きな一人言。
それがいけなかった。
「なんやなんや、姉ちゃん安い修理屋探しとるんか? 」
「ひっ・・・」
いきなりやんちゃそうな若い男が話しかけてきたのだ。
髪はくすんだ金髪猫っ毛で顔は甘いベビーフェイス、きちんとターバンを頭に巻き、服のボタンを上まで閉めているので不良ではないことは分かった。
詐欺師かマフィアだな、うん。
「そんな怖がらんといてーな!僕はヴェニス。この街のしがない商人やさかい」
ニコーッ!と輝かしい営業スマイルを浮かべるヴェニス。
しかしその手には鎖が握られており、鎖の先には・・・、なんてことだ、エルフの少女が粗末な服を着せられて首輪で繋がれているではないか!
「いえ、結構です! 自分で探しますから! 」
「この街は広いで? 僕が案内してあげるさかい、おい」
「はい、ヴェニス様」
ヴェニスが一声かけると、家来がやってきて鎖を渡されていた。
坊ちゃんだ!
「ほな行こか〜」
売られる!
恐怖で震える私の肩をヴェニスが抱いて、私は案の定、路地裏に連れて行かれ、800Gでエクスカリバーの整備をしてもらい、剣を返してもらった。
「あれ? 」
「どしたん? 」
「いやあの・・・」
「もしかして僕が君を売り飛ばすとでも思った?ふふ、女性の冒険者なんて珍しいからおせっかい焼いただけやよ。困ってたみたいやったからね」
だとしても、見ず知らずの女にここまでおせっかいを焼くのはおかしいだろう。
何か裏があるはずだ。
「本当に気まぐれやよ。君、エルフの森行きの馬車から出てきたやろ?僕もあれに乗るんよ。そろそろ調達せなアカン頃やし」
「調達って・・・、エルフの女の子をですか? 」
「そんなこわい顔せんといてーな。別に僕は違法にエルフを売り飛ばしてなんかないんよ?エルフから望んで僕の所にくんねん」
「じゃあなんで鎖で繋いであんな粗末な服を着せるんですか 」
「それが商売やからやよ」
ヴェニスは不敵な笑みを浮かべた。
「君にもいずれ分かるさ。エルフの森がどんな所か一目見れば、な」
「そんなの、金髪の可愛い男の子が駆け回って狩りをしているに決まってます! 」
「ん?え?あー、まあ、男の子ばっかり残されてるのは確かやけど、君ってそういう感じだったんやね・・・」
何故かガッカリした風のヴェニスにヴェニスまん×20個と寝袋を「こわがらせたお詫び」と言われもらった。
どうせくれるんならエクスカリバーの整備代も払ってもらいたかったもんだが。
厚かましい私の考えも知らずにヴェニスは私の手を取って馬車にエスコートした。
馬車が動き出してヴェニスが言う。
「女性に優しく、というのがウチの家訓やさかい」
その割に鎖で女の子を繋いでいたが。
「まだ疑わしそーな目をしとるね。僕は商人やさかい、人を見る目はあるんよ。君はめっちゃ優しくて真面目な女性やろ? 」
「その質問にはいって言う女いるんですか? 」
「はは、確かに。けど、僕の見てきた女性の中で君は一番優しいよ。エルフに同情する女性なんかおらんからね」
「何故」
「既婚男性の浮気する種族ナンバーワン、なんやと思う? 」
「・・・エルフ? 」
「その通り。あいつら狡猾で自己中やさかい、嫌われとるんよ。でもいくらエルフやからって女性があんな目にあわないといかん理由にはならん」
ガタンッ!
馬車が石を踏んだらしく少し大きな音が鳴る。
一時期の静寂。
深刻そうな顔をしたヴェニス。
わざとらしいシリアスな雰囲気。
「エルフの森はどんな所なの? 」
尋ねてやると、ヴェニスはこう答えた。
「魔王軍のピンクスポット。やけどエルフの男達は何にもしようとせん。胸糞悪い所やよ」
そこで奴隷を見繕ってるお前も同類だろ。
そう言いたくなったが、狭い車内で気まずい雰囲気になるのも面倒だったので言葉を飲み込んだ。
ヴェニスの巧みな話術を聞き流しつつ、車窓から外を眺めていると、赤く燃えるエルフの森が見えてきた。
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