第2話 勇者生活のはじまり
城を出てすぐに、私は2000Gをもらった。
旅の支度金という訳だ。
それだけならよかったのだが・・・、2000Gを持ってきた女がちょっとめんどくさかった。
「アタシは聖騎士セリア。あんたが魔王を倒すまで旅についていかせてもらうよ」
私の抜いてしまった聖剣エクスカリバーはとても貴重なものだったらしい。
勇者が旅の途中で死んでしまって、剣がなくなったら困るので、回収係の騎士をわざわざ城から付けるようだ。
「話は分かりましたが・・・、あの、セリアさん? 」
グビッ。
「プハァ! なんだい? 」
ダンッと音をさせながら、女騎士セリアは酒の入ったグラスを置く。
この騎士、昼間っから親睦会と称して酒を飲み出したのだ。
「グラスに酒が入ってないじゃないか。だめだよ勇者、人間同士すぐに仲良くなるには酒が一番なんだから」
そう言いながらセリアは私のグラスにお酒を注ぐ。
たしかに、私が普通の男の勇者だったら、あんたみたいな爆乳で小麦肌で豊かな赤毛の長身美人騎士とお酒を飲んだらすぐに色んな意味で仲良くなってしまうだろうが・・・。
残念ながら私はお酒が好きではない。
「なんだい? 飲めないのかい? 勇者ともあろう者が情けないねぇ・・・。アーサーはそんなことなかったよ! 」
「アーサー? 前の勇者の名前ですか? 」
「正確には勇者候補、だね。中々いい男でね、姫さんもすぐに気に入っちまって。こんな事がなければ今頃結婚してた頃だろうに・・・」
残念だね、と言いながらセリアは長いまつ毛を伏せる。
そんなすごいアーサーがいるのなら、そいつに魔王を倒しにいってもらいたいもんだが。
所持金2000Gしかないのにこの女がバカスカ飲むから気が気じゃないんだが。
「アーサーは今どこに? 」
「それが分からなくてねぇ、選定の場の扉の前にいる所は見たんだけど」
私がこの世界に来て最初に立っていた所だ。
何故か私と彼が入れ替わった。
「本当にどうしてこんな事に・・・」
思い出して私は思わずため息をついた。
「大丈夫だよ! アタシがいるじゃないか! 」
お前が不安なんだよなぁ・・・。
そんな私の気持ちも知らずにセリアはグビグビとお酒を飲み続ける。
私は現実逃避することにした。
地図を広げて魔王の城までいくらかかるか調べる。
馬車代 500G
※魔王の城付近には魔王軍が巡回しておりますので、馬車で行けるのはエルフの森までになります。
と、あった。
「セリアさん、エルフの森まで馬車で行こうと思うんですが、大丈夫ですか? 」
「別に構わないけど・・・、あんたエクスカリバーの整備はいつするつもりだい? 」
「整備? 」
「100年も地面に突き刺さったまんまの剣がすぐに使える訳ないだろう。3000Gはかかるよ」
「えー!? 」
これ、一般人が勇者の代わりするの無理じゃね?
普通の勇者は足りないお金はモンスターを狩って補うんだろうけど、私モンスター倒せないし。
積みやん。
そう分かった瞬間、私は立ち上がった。
「ん? どこに行くんだい勇者? 逃げたら死刑だよ」
セリアの言葉は怖かったが、どちらにせよ戦ったら死ぬのだ。
「どうせ死ぬならエルフの森に行って、エルフの美少年拝んでから死んでやるぅ! 」
私はそう叫んで酒場の外でちょうど待機していた馬車に飛び乗った。
「ちょっとー!アタシお金ないんだけどー! 」
セリアの呼び声が聞こえる。
やっぱりか。
「ふん、自慢のおっぱいで払うんだな!運転手さん、エルフの森まで!」
私の声を受け、馬車は走り出した。
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