第5話 陽子崩壊の世界1 宇宙の崩壊と言う終末

なんだか途方も無い夢を見ていたような気がして目が覚めた。目の前に、何時になく優しい顔をした薫の顔があった。


「成功したのか、爆弾は、隕石は・・・」その言葉に、キョトンとした顔になった薫が


「まだ、頭が混乱しているのね!もうしばらく休んでいて・・・何か欲しい物はない?」薫が優しく訊ねてきた。ふと気づくと、(薫の胸が大きいい。薫て・・・・)混乱する頭で


「ああ・・・おっぱい、あぁいや牛乳・・・」そんな、返答をして、暫くたってから兄がやって来て、


「どうだった、卵の中の世界は?」(卵の中の世界・・・)


「お前が、他の次元に転移した状況は、センサー(量子エンタングルメントセンサー)で追跡出来ていたんだが、その先がわからん!」


どうも、兄の話の様子からすると、僕はあのドラゴン島の卵と再び対峙したらしく、その際、僕の体には色々なセンサーが取り付けられていた。その一つに、この施設の装置と予め(量子もつれ)をもたせた通信装置の様な片割れを取り付け、僕の行方を追跡していたとの事だった。僕は、混乱する頭の中で、またあらぬことを口走ていた。


「薫の胸がおおきいんだけど?」兄は、呆れたような顔しながら、それでも笑顔で


「そりゃー当たり前だろ。妊娠してるんだから!」


「妊娠・・・誰の・・・」


「あほか、お前の子供に決まっているだろうが!半年前に結婚したじゃないか!」(ええー、僕は、またやられた。)と思った。(そうか、ここは最初の世界じゃないのか!)


(そう言えば、兄の顔も少しふけている感じだし。第一、自分の体がもう高校生の体ではないのだ。)


「僕って、今何歳?」ふと呟くと


「私と同じ25歳よ!ああーまだ誕生日前だから、私は24歳か!」牛乳を持ってきてくれた薫が答えた。僕は、ベットから起き上がり、周りを見回すと、前回目覚めた野戦病院の様な医務室と違って、綺麗に整備された立派な部屋だった。


「まあー、追い追い、お前が経験した事を説明してもらうから、頭を整理しておいてくれ。」そう言って、PCパソコンを渡してくれた。(普通のパソコン・・・)


PCの中には、今回の実験内容の情報が事細かに記載されていた。(直前の世界だと、こんなレクチャーを受けなくても自然と周囲の内容が理解できていたのに・・・)


「ところで、ミドリはどうなったか知らない?」僕は、PCを見ながら兄に聞いた。


「ミドリ・・・ああー高校時代のお前の同級生か?・・・たしかお前たちの結婚式にきてたな。最初、えらい美人さんなんで誰の知り合いかと思ってたら、


お前の高校時代の同級生と分かり、お前も惜しいことを・・・・あ!いけね・・・」兄は、一寸周りを見渡して


「ミドリさんだっけ、高校時代の友達にしてはあまり印象の無い子だったと思ったけどな。お前の回りてやたらキャラが濃い人間ばかりだったからな。」


実験内容とネットの情報で、あらかた自分が置かれている立ち場が理解できたころ、兄と薫と僕の3人で施設内の会議室の様な所へ行った。その部屋には、大きな窓があり、美しいフィヨルドの全貌が見え、近未来的な机や椅子が置かれていた。僕は暫くその窓から、フィヨルドがたたえる海を行く、大きなフェリーを眺めていた。


やがてここの職員と思われる数名が入室すると、あの大きな窓が一挙にスクリーンに変わった。各拠点をつないだ所謂ネット会議が始まった。そしてその最大の議題が「Ⅹディー」の話題であった。これまでの予備知識で、かなり話題に上っているは認識していたが、今一その内容がつかめていなかった僕だが、その内容を知って戦慄を覚えた。


 この世界は、陽子が崩壊する事が観察されていた。その寿命は約40憶年、そしてこの世界の宇宙の寿命もほぼ40億年。この世界でも、ビックバン理論は健在で、宇宙の膨張は観測されている。ただし、最初の世界(僕が元々いた世界)の様な加速度膨張は観測されていない。膨張率イコール宇宙の年齢の関係で、長年の観測でその精度も結構上がっていた。つまり宇宙開闢以来、40億年後に、陽子が崩壊しクゥオークかその先のストリングス(糸)に戻ってしまう。それからどうなるかは、誰も分からない。クゥオークが適当に集まって、再び物質化するのか、無限希釈され、雲散霧消するか・・・・。巨大隕石の終末を迎えていた前の世界では、出来事としては、非常にローカルな問題で、あの世界の宇宙にある、一惑星が消えようが宇宙全体としては、大した問題では無かった。だが、この世界は(宇宙の崩壊と言う終末)を迎えようとしていた。


「Ⅹディーの制度て度の位?」僕は、隣の兄に聞いた。


「99点の9が三つ位か・・・」


「えぇー、それてってほぼ確定じゃないか・・・他に、この窮地を打開する知恵を持った生命体とか、この宇宙に居ないの?」


「お前、何言ってんだ。だから、この次元転送計画を進めているだろうが。この星、いやこの宇宙にある唯一の望みがあの(たまご)なんだよ!」


兄のその言葉を聞いて、僕はかなり落胆した。本当は、もう暫くしたら、僕は、この世界の人間では無い事を説明しようとも考えていたが、兄の言う唯一の望みが、どうも僕らしい。しかも、今時点で解決策を持っていない。前の世界では、ある意味お膳立てが出来ていた。それなりのスペースシップも高度なAIも、そして切り札の量子泡爆弾も。


鎮痛な雰囲気で、その議題は終了した。続いて、この次元転送計画の話題になった。僕は(たまご)の中の世界(実際は違うのかもしれないが)で、僕が経験した事柄を語った。僕しか知覚していない、物的証拠もない、僕の作り話の様な話を全員が聞き入っていた。どうも、此れまでの研究で、次元移動した物質は、移動先の次元世界では重力以外は認識されない。情報のやり取りはできる。などの幾つかの基本的な事は分かって来ているらしかった。そして、この惑星あるいは宇宙の生命体の総意は、自分達の意識や情報を丸ごと他の次元に移し変える、転送する事なのだ。


その夜、僕は薫を抱いていた。妊娠したお腹に負担がかからぬ様に抱きかかえながら、


「あぁー・・激、今日は・・・なにか違うけど・・・でも、イイー・・・」高校生の薫しか知らない、(高校時代こんな事してないけど)僕にとって、今の薫は大人の女であった。


果てて横になった薫を抱きながら、おっぱいの感触を確かめていた時、寝てしまったかと思った薫から


「あなた・・・・だれ!」と聞いてきた。はあーバレたかと思いながらも、いずれ明かさなければならない事なので


「僕は、激だよ。でも、中身は高校生の。この次元とは違った世界から来た激さ。」


「高校生なの!」向き直り、僕の目を見た薫が言った。


「最初の世界は、ほぼこの世界と同じ様な世界だけど、まだ陽子崩壊は確認されていない。宇宙の年齢は130億年位で、陽子の寿命は10の33乗位、だから、宇宙が消滅する前に陽子が崩壊する事はない。でも、この世界と違い、60億年前位から加速度膨張している。だから、最終的には無限希釈されて物質は無くなるのかな。」


「お前、やけに詳しいな。それに、高校生のくせに、どこで覚えたんだあんなテクニック・・・」


「テクニック・・・? ああ・・・それは、今日報告した、巨大隕石の世界かな、その世界では、30代のおっさんだった。だから、この体より10年程年とってたな。最初の世界では、薫とこんな事してないよ。だいいち高校生だからね。」


「この世界の激は何処に行ってしまったんだ?」


「分からないけど、僕と入れ替わったとしたら、最初の世界で高校生になってるかも。体は高校生、頭脳はおっさん?・・・でも中身はそんなに変わってない気がする・・・ところで、この世界の激の方が、テクニックは有ったの・・・・」


「バカ・・・カー。」薫はすねるように、頬っぺたを膨らまして、


「まあーいいや、大して変わらないと言う事にしておこう。本当はお前の方が・・・・で、その他の教育は何処で教育されたんだ。」


「三好家の教育カリキュラムと兄のスパルタかな!最初の世界では、孤児だった僕は三好家に引き取られていたから。」


「ふーん・・・その辺の事情も、此方と同じみたいだな。まーこの話は、私達だけの事にしておこう。事態がややこしくなるから。」そう言うと、再び薫がキスをし始めた。


「ショタと分かったら急に虐めたくなってきた。」


「ショタじゃないよ。僕は高校生だ。」薫は、執拗に攻め立て来た。


 翌朝、眠り込でいる薫を残して、兄の所を訪ねていた。施設の5階と8階にそれぞれの部屋を貰っていて、義理の姉さんが朝食を用意してくれていた。(この辺も最初の世界と変わらないいだなーと思いながら、)朝食を頂いた。


「陽子崩壊が観測されたと言う事は、大統一理論が完成したんだよね。」


「ああ、三つの力は統合される事が分かった。」


「なら、その方程式を使って、物質を作り直せばいいじゃないか。」


「理屈はそうだが、重力場が必要なんだ。出来れば周りに何もない空間に、重力を使って、クゥオーク達を引き寄せて再び新しい原子を作り出す。でも重力場を作り出す事ができると言うと、太陽とか巨大な惑星、まあデカい岩塊かな。でも、所詮この宇宙の物質だから崩壊し重力は無くなり、すぐにクゥオーク達は、拡散してしまうな。」


「じゃー、崩壊しない物質なら、ダークマターとか?」


「ああー可能かもしれないが、ダークマターが何処にあるんだ。」


「たぶん、近くにある。」


「はあー・・・」


「僕が、たまごの中で見てきた、あの世界で、僕は巨大隕石を異次元に吹っ飛ばした。月の半分位の質量を持っている。そいつがこの付近をうろついていると思う。」兄は、うーんと言いながら


「そいつは面白い、磁場力場変換コイルを使えば、重力場で集まったクゥオーク達を陽子にできる。最初は少しだが、物質化が進めば惑星位できそうだ。問題は、その隕石が何処にあるかをつきとめる事だな。」


「あの世界とこの世界が似たり寄ったりなら、太陽方面から月のラグランジェ点の3倍位の所を通過してこの惑星に向かっているはずだ。なにせ、直撃コースだったからね。」


「ダークマターをどうやって見つけ出すかだな?」


「重力変動や、空間が歪むから電磁波の屈折、太陽風の揺らぎとかどうかな!」


「ううーん、やってみる価値は有るかもしれないな・・・」兄は暫く考えてから、関係部署へ連絡を入れた。


「ところで、お前・・・何者だ?」ここえきて兄も気づいた様子で詰問してきた。僕が事情を答えようとすると、


「体は大人、中身はませた高校生、異次元の!」入ってきた薫が、眠そうな目で喋り始めた。


「ファーストコンタクト処か、第四次接近遭遇位までされちゃった感じ。このませショタは・・・」


「異次元生命体?・・・」兄が怪訝そうに言うと


「まあーそんなに警戒する必要もないみたいだけど。」と薫が言った。


結局、兄にもこうなってしまった経緯を洗いざらい説明する事となった。


「この世界の激は、何処に行ったかわ分らないけど、可能性があるのは、僕の元居た本来の世界で、その時の僕と入れ替わっている。丁度、こちらでやった実験、僕を卵の中に送り込むと言う実験を始めようとしていたから。」


結局、兄と薫は、僕を異次元生命体扱いする事はやめて、ほぼ身内の扱いにする事で落ち着いたらしい。


その後、ダークマター化した隕石の探索やら、僕の考案した新しい宇宙船のエンジンの製造やら、量子演算子を使ったAIの構築やらで、時間が過ぎていった。(前の世界のパクリだけど。)そんな、この世界にしては、慌ただしい時の中で、ふとした暇が僕たちを、フィヨルドのクルージングに誘った。僕は、(異次元世界で何で観光旅行しているのかな?)と思いながらも楽しんでいた。この世界の人々は、何処か醒めている。何か、覚悟ができているとでも言ったら良いか。それは、「Xデェィ」を知っているからか。元々そういう文明なのか。そんなゆったりした時間の中で、フェリーの欄干に、だいぶ大きくなったお腹を持て余している薫と身を寄せていた。


「この子を産もうと思ったのわね・・・激と生きた証、ホントの激よ!まあ、あんたでもいいか、が欲しかったの。家族を持ちたかった。あの人ね、まだプロポーズもしていない内から、皆の前で堂々と、子供を作くろうとか言い出したのよ。私は赤っ恥よ!・・・」


(僕なら・・・)


「元の世界では、僕は孤児だった。あぁこの世界もそうか、親の顔も知らないし、家族も居なかったけど、教会をやっていた養父母に引き取られてから、血の繋がっていない姉や兄とくらして、家族っていいなと思ったんだ。」


「ふーん、こっちの激も孤児だけど、私達(三好家)が引き取ってから、家族として暮らしているわ。でも、それは三好家としての家族ね。だからそのまま行くと兄弟みたいな関係で終わってしまいそうだったから、結婚したのよ。私たちの家族を作るためにね。」薫は少し真剣そうに言った。


「直前の世界では、僕はいきなり2児の父親だったから、だいぶ戸惑ったよ。でもそんな家族を見て、絶対にこの世界を守ろうって決意したのさ。たぶん、その世界では、死んじゃっているんだろうけど。」


 フェリーは、フィヨルドの一番奥の町まで進んで停泊した。そこは、この界隈では一番大きな町で、オペラハウスがあった。


「ニーべリングの指輪か!」


「あなたは、聞いたことある?」薫が聞いてきたので


「生で聞いた事はない、あっちの世界じゃ僕の家はそんな裕福な家庭じゃなかったからね。それに、三好の家を飛び出してたから・・・」

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