第4話  次元量子エンタングルメントと最初の終末

ある組織が、ハワイの天文台の近くとオーストラリア大陸のど真ん中、そして、このドラゴン島に特殊な装置を組み上げようとしていた。僕の兄たちが研究している「量子もつれ」を応用した装置の一部である。量子とは、微小な複数の次元の積み重ねのような物で、次元毎のエンタングルメント(もつれ)が成立している時にその量子性を持つ。だから、一度観測してしまうと、ただの粒子となり、その量子性が失われてしまう。そんな仮説を元に、次元間の交信が可能かどうかを試す計画が進められていた。実際、僕のいる世界が何次元なのか分からないけど、感覚的に3次元(時間を入れれば4次元?)としたとき、前後の次元は2次元と4次元である、2次元は平面なので、波には都合が良い世界で、4次元は3次元に奥ゆきを足したものと考えると、ボゾン体(ボゾン粒子:何人でもすわる事ができる無限に長いベンチのような物)の説明がつく。たまたま、僕らの世界は、前後の2次元と4次元との量子エンタングルメントを持つことができたため、この世界が、このように存在している。実際はどうか分からないけど。


そんなん装置の組上げを横目に、薫と僕は帰国した。このまま、三好家に軟禁されるのかと思っていたら、あっさり開放され、我が教会に戻ってきていた。


今までのいきさつを知ってか知らずか、義理の母は優しく出迎えてくれ、久しぶりに、母の手料理のシチューを食べている夕食時に、ミドリと見知らぬ金髪の美少年と美少女が訪ねてきた。北欧系の八頭身ですらっとした、僕らと大差ない年に思える2人は流暢な日本語を喋った。(この喋り方、何だか、何処かで聞いた覚えがあるな?)と思いながら、ミドリからの補助説明を聞いていた。要は、季節外れの転校生である、どう見ても怪しい。ベティーとスミス(少女がベティーで少年がスミス)は、僕が見つけた彗星の事を聞きたい、と言うのは口実で、どうやら僕の身辺調査をしているみたいなのだ。彼らが帰った後で、ミドリからこの突然の転校生についての情報を聞いて、益々疑いを深める僕とミドリであった。


「明日は、学校へ行くつもりだけど、僕の席まだ有るよね!」と言う僕の問いに


「激は、いつもそんなつまらない事を心配しているの?今まで何処に行ってたのよ。あの女に拉致られてから!もう帰ってこないんじゃないかと思ってたわ!」


そう言って、留守中の山の様な課題(宿題)を僕に渡した。


「あの怪しいカップルは何処に住んでいるんだ?」ミドリに聞くと、既に調査済みとでも言わんばかりに


「学校の近くの丘の上にある、豪華そうな洋館よ。」


「例のお化け屋敷か!」


「そう、暫く住人が居なかったけど、突然、人の出入りが激しくなったかと思ったら・・・・」


僕は、ミドリを近くの駅まで送りがてら、怪しいカップルの素性を聞いていた。暫く歩った所で、人気のない公園があり、差し掛かった時に


「激、私を抱いて!」ミドリが急に言い出した。


「はあぁー・・・。なに、何を言い出すの?」


「だって、激てば、また何処かに消えちゃいそうだから?激の温もりを感じていたい。」そう言うと、いきなり抱き着いてきた。ミドリがそんな行動にでるとは予想だにしなかった僕は、面食らいながらもミドリを抱きしめた。


「ミドリて、結構、おおきんだな・・・」思わず口から出てしまった言葉に、


「はあー・・・男子てやっぱそんな事しか考えてないのね!折角、いい感じになれると思ったのに!」ミドリの容赦ない嫌みが帰ってきた。


「でも、激が一緒にいてくれるなら、好きにしてもいいわよ。」そう言いながら、さらに密着してきたミドリは、上目遣いに僕の顔を見上げていた。


眼鏡越しに見える、ミドリの瞳が潤んでいて、とっても可愛く、その唇も何かを欲しているようだった。(あぁ・・・ヤベ)と思った時、ふと人の気配を感じて、目をやると、ミドリの背後に例の二人がいた。


「良い雰囲気のところ、誠に申し訳無いのですが・・・」ベティーにそう声を掛けられて、ミドリが振り向いた瞬間に、例のあの青白い光に包まれた。




 ×〇△□ ×〇△□ ×〇△□ ×〇△□ ×〇△□ ×〇△□




 「パパ・・・パパ・・・」(うーんパパて誰の事だ)目を開けると、小さい頃の僕そっくりの男の子と、ミドリそっくりの女の子が目に入ってきた。


僕の横には、ベットから起き上がって、情報ディスプレーを見入る大人のミドリがいた。状況から、クリスマスイブの日にローマ法王から重大な発表がされているらしい。


「あなた、(えー誰の事)、この彗星てあなたが見つけた彗星じゃないの?」大人のミドリが(ネグリジェ姿の・・・しかも美しい)不安そうに聞いてきた。


「ミドリ(大人)てこんなに綺麗になるんだ。」思わづ口に出した言葉に、


「何よ、今更・・・」そう言いながら、肩を寄せてきた。二人の子供が、じゃれる様に二人の間に割り込もうと動き回っていると、多分、電話の様な物だろうが、鳴った。小さな瓢箪の様なその装置が喋りだし、その声は兄の声だった。話の内容は、ともかく直ぐに来いとの内容なのだが、僕が戸惑っていると、瓢箪のような装置がすべてを指示してくれた。ミドリが着替えを用意してくれている間に、ダイニングでは、朝食ができていた。


「もう少し、ミドリと一緒に居たいなぁ・・・」そう言って、ミドリを抱き寄せると、子供たちが


「パパは、私の物」「じゃーぁ、ママは僕の物」そう言って、子供たちが抱き着いてきた。


僕は身支度をして車に乗り込んだ。例の瓢箪端末(ガルコンと言うらしく、小型AI端末であらかたの身の回りの事を制御している優れものだ)を、ダッシュボードの所定の位置にセットすると、自動的に目的地が設定され自動運転モードとなった。ミドリママに抱っこされた長男を、ママのスカートを掴んだまま羨ましそうに見上げている長女が、それでも満面の笑顔で


「パパ、いってらっしゃい!」と手を振ってくれた。その時、僕は(この世界を絶対に守らなければ)と決意した。


この世界は、さっきまで居た世界に比べ、少し科学技術が進んでいるようで数十年後の未来に来たような感じさえするが、後になってかなり違った世界である事が分かっていく。自動運転で、兄の研究所に着くと、待ち構えていたように仕事が降りかかってきた。


「最終終末警報が出された。」(たぶんそれは、法王の声明の事だろう。)


「量子泡爆弾が不発に終わった。起爆が旨くいかなかったらしい。」兄は淡々と語り始めた。なぜか、ほんの数時間前にやってきたこの世界なのに、周囲の事情は、かなり分かっている。こんな事なら、もう少し前からこの世界に覚醒させてくれていれば、ミドリのあのおっぱいに顔を埋める事も、可愛い子供たちが生まれてく過程も、経験できたのになぁとあらぬ事を考えていると


「何か、代案はあるか?」兄が真剣な表情で言ってきた。僕は一寸考えるフリをしてから


「量子泡爆弾て、まだ予備が有るよね!」


「ああ、有るが今更、シップで送り込んでも遅いぞ!破片が地球を直撃するから。」


「いや、隕石の進行上に落とし穴をつくるんだ。」


「落とし穴!」


「量子泡爆弾を使って、空間に穴をあける。その穴に隕石ごと落っことす。」兄は納得したように


「うん・・・良いかもしれない!色々課題はありそうだが。」


確かに、色々と課題はあった。地球のまじかまでやって来ている隕石が急に居なくなった場合の重力の影響、潮汐力のバランスだけど。


「ラグランジェ点の前までに実行すれば、大きな影響はなさそうだ。」


多分、この世界の英知が集まっているこの組織の能力をフル活動させ結論を見出していく。


「どうやって起爆させる。ハル8000でもトラブッタのに!」


「まあ、それは僕が行くしかないだろうね。失敗したら地球も終わっちゃうけど!」(どうやら、この爆弾は僕が作ったものらしく、ちなみにハル8000はこの世界での最新鋭のAIである)


「分かった。成功すれば、お前は英雄だ。まあ、失敗しても誰も覚えちゃいないだろうけど、皆死んじゃうからな!」兄の不自然に明るい声に、その場の全員が引き気味のなか


(今晩は、絶体にミドリのおっぱいに・・・・)そんな事を考えながら、着々と作業を進めていた。


この世界では、恒星間航行まではまだ無理だが(要はワープ技術)恒星系の外延部まで有人宇宙船を飛ばす技術力はあったので、月ぐらいまではそんなに苦労なく行って帰って来られていた。それなりの月面基地も作られていて、僕の任務は、その基地から出発する予定であった。


月への出発を明日に控えた夜に、僕はミドリのおっぱいに顔を埋め居ていた。外見は30代のおっさんだが、中身はまだ高校生のぼくは、有り余る情熱をミドリに注入していた。


「激、今夜はなんだか激しい・・・」


「英雄になって帰ってきたら、3人目生んでくれよな!」


「うん・・・」と言ったミドリだが、寂しそうだった。


「そう言えば、僕とミドリがこんな関係になったのて,何時からだっけ?」僕は、カマをかけながら情報取集をしていた。


「うーん・・・多分、高校の屋上でキスした時ぐらいからかなぁ・・・」(フム・・・あっちの世界でそのイベントはまだ来てない。)僕はミドリの胸のなかで、にやりとした。


 昨晩の激しい行為のためか、考えてみれば、ミドリも30代のおばさんだったのだけれど、深い眠りについていた横顔に軽くキスしてから、子供の愛らしいすこやかな寝顔をみた後で


(ああ、家族を持つと言う事はこう言う事なんだなぁー)と思いながら僕は月へと旅立った。(次に会ったら、何故起こさなかったて絶対に攻められる事は必定だろうけど。)




月面基地には高速シップが準備されていて、ハル8000の後継機であるサル9000が搭載されていた。


「こんな高級なAIを搭載して大丈夫なの?戻って来れないかもしれないのに!」


「まあ、戻って来れなければ、全部終わりだから。」月基地の責任者が事もなさげに言ってから


「本当は、戻ってきてほしいんだけどね。これ無いと、僕らの娯楽が無くなっちゃうからね。」


「あのAIはフォログラム再生用に使っていたんだけどねぇ・・・」(何のフォログラムを再生してたんだと、突っ込みを入れたい所だったけど、地球にいる家族や恋人達とも今生の別れも出来ぬまま消滅してしまうかもしれない。)


「なるべく戻って来る様にするけど・・・・」僕は、そう言葉を残して出発した。


巨大隕石は、刻々と地球に近づいて来ているため、ラグランジェ点も刻々とかわり、サルが正確なポイントを計算しつつ、量子泡爆弾の投下点を割り出している。この爆弾の原理は、どうも僕が生み出したものらしいのだが、要はブラックホールとは真逆のホワイトホールを作る爆弾である。量子ゆらぎの際、ミクロ空間ではゆらぎの空白が生じる。言わばミクロの穴が発生するのである。この状態の量子をボゾン同志で共鳴させてやると、このミクロの穴は無限に重なり合い、一挙にインフレーションを起こすのである。


最初は、隕石の内部にこの爆弾を仕掛け、隕石を内部から爆発させる計画であったが、起爆が旨く行かず、一瞬にして、隕石を消滅させない限り、破片が地球を直撃する状況となってしまった。隕石がかなりの大きさに見え始めた時に、サルが投下ポイントを割り出した。サルの起爆用タイマーがセットされ起動した。ハルの事もあったので、僕は別系統で、直接起爆のシステムを作り、そのスイッチをしっかり握っていた。投下点のすぐ近くに来て、突然、サルのシステムがダウンした。再起動を掛けると、ハルのコマンドが邪魔をしていた。


(そう言う事か・・・)AIが優秀すぎて死ぬのを怖がっているのだ。僕は、サルと外部からのインプットを遮断してから、スタンドアローン型のコンピュータを立ち上げ、ほぼ手動で投下ポイントへ突入した。ここまでの経緯を圧縮データで電送してから覚悟を決めた。


「やっぱり帰れないや・・・ミドリのおっぱい・・・」その瞬間に僕はスイッチを押した。

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