第9話 春色の面接
当日はくもりだった。指定された場所へ行くと、仕事をする部屋に案内された。机とパソコン。仕事の手順書も用意されていた。
何より素晴らしいのは、車椅子用トイレがどこにでもあることだった。求人票にも車椅子で移動可能とあった。志望動機にさえなった。新しい職場は総合病院。コロナで人手が足りなく、手付かずの仕事があるんじゃないかと思った。実際山積みの仕事が待っていた。トライアルをすぎ、労働契約を正式に結んだ。そして三回目の更新の面接だ。
仕事の話しが終わり、「ところで、体調が悪くて職場に来れない日も、犬の散歩には行くんだ。」と言っている人がいるのですが、それついてはどうですか?」と聞かれた。生活圏内に職場の人がいて、私を目にしているということだ。犬だから散歩に行く。ひとり暮らしで私しかいないから、調子が悪くても行く。それだけのことだけれど、犬の散歩に来れるなら、仕事にも来れるでしょ?と聞かれているのか?私の気持ちとしてを聞かれているのか?電動車椅子が珍しい街で、ひとり暮らしで犬の散歩なんて滅多にないことなんだろう。
私の説明はすれ違った。けれど時間をかけてわかってもらえた。春色のセーターを来た、面接官の目が優しく笑っていた。もうすぐ初めての職場で冬が来る。冬は体調がよくない。私はコミュニケーションもうまく取れないままで、職場では居場所を間違えた空のくじらのように苦しい。
でも、もうすぐ一年になる。仕事もある。デイケアも行けるように配慮してくれた。そのデイケアではいつも絵を描く。空にはくじらが泳ぐ。体も頭も変えられない。私はわたしを生きて行こうと思う。あしたも朝焼けの中を犬と散歩しよう。そして 間に合うように職場に早めに行こう。時間も数字だから、少し私にはむずかしい。目標は10時前だ。面接で約束した。がんばりたい。
空のくじら @utau-aruku
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★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 2話
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