第8話 ありがとうの花束
現実逃避にスマホでゲームをしていたら下にピロンと何か出ている。一般企業の障害者求人だった。資格不問パソコンを使った事務仕事。場所は作業所からすぐ近く。でもフルタイムだった。そんなことをしたら生命維持のデイケアに行けなくなる。悩んだ。そして「短時間勤務で働きたいです。職ください。」と祈って、もう一度「短時間 障害者求人」と検索したら、同じ募集のアルバイト版がスマホの画面に表示された。神さまは生きている。けれど、ハローワーク求人だったため、紹介状をもらいに行かなければならない。
先に履歴書と職歴書をワードで作り封筒に入れ、求人票をダウンロードしてハローワークに向かった。求人票を見せたら、障害が重すぎるので、主治医の意見書をもらって来てくださいと言われる。来た道を戻るのかぁと考えていたら履歴書を見た窓口の人が「これだけ長く働いてきたから、きっと大丈夫ね。先に募集元に電話してみますね?」と紹介状を印刷してくれた。それを封筒に入れ、そのまま主治医の元にバスで向かった。苦労しながら就労可能と書いてくれた。すべての必要書類がそろったので、近くの郵便局で出したかったけれど、どこに?と繰り返していたら看護師さんがついて来てくれた。無事応募完了だ。ところが待っても待っても返事はない。いつも通りデイケアに行った。
ひとりでいると疲れすぎて食べるのも忘れてしまう。デイケアでの手作りごはんは必要な栄養だった。そこには自分で食べれる人、食べれない人。噛める人、胃から栄養を摂る子。いろんな人が来ている。それぞれに合わせて、同じメニューを刻んだり、ペーストにしたりして、おいしく出てくる。しゃべれる人も 言葉を持たない人も みんないっしょに楽しく過ごせる。楽しいことを自由にしていいからだ。寝たい人は寝てもいい。矯正はない。指示もない。こじんまりとした雰囲気で家族のように過ごせる場所。「来てくれてありがとう!」「食べてくれてありがとう!」「笑顔だね、やったぁ!」とありがとうが行き交う場所。帰りの会では毎回「ありがとうのはな」を手話で歌う。言葉を知らない人も手話で歌える。
大好きな場所からの帰りの車の中で、電話がなった。採用決定の知らせだった。ただし最初はトライアルで三ヶ月。でも、その車を降りたら、しばらくデイケアとお別れだった。寂しくて泣いた。うれしくて震えた。新しい場所で何をするんだろう。怖かった。いらないと言われた後だから。それでも、やっぱりせっかくだからと服もそろえた。制服はなかった。いよいよ指定された場所に行く日が近づいて来た。大雨なら電動車椅子が壊れてしまう。歩けないとはつくづく不便で悲しい。天気は天の仕業だ。天地の主、イエスに祈った。
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