第7話 時給95円なの?

当たり前だけれど、骨がつくまで復職できなかった。冬に折れた骨は夏までつかなかった。


復職面接では、まず体第一だからと勤務は週二回の一日三時間になった。往復三時間かけて通勤し、仕事時間の方が短い。それに、バスの揺れが体に大変になっていた。コロナでバスの本数も減り、通勤は想像を超えて大変だった。歩けるなら乗り換えに間に合うだろうに、車椅子の止め金具を外したりスロープを出したりしてるうちに目の前で乗りたいバスが行ってしまう。

電動車椅子を見かけない街で、遊びに行くと思われて「毎日よく行くところがあるねぇ。」と運転手に言われたり、朝からずうずうしいんだよ!と乗客のおじいさんに言われたりもした。


体も心も疲れていった。リモートワークならどうでしょう?とその面接に行ったつもりだった日に、知らないうちにやめてもいいですよ。と言われていた。冬になっていた。テレビではコロナ対策でリモートワークが推奨されていた。それなのに、非正規だからできないそうだ。それなら、もうやめようと思った。障害者の作業所を探してくださいと、福祉の相談員に廊下で電話した。長年通った見慣れた景色が、窓から見えた。不思議な気持ちになった。非正規ってこんなに簡単に退職なんだ。組合もないし失業者保険もないまま、人生初の失業者になった。


福祉作業所は、体が動けば畑仕事。できない人は手仕事だった。田舎町でパソコンの仕事などなかった。手も足もダメだから、行くところがなかった。落ち着かないったらない。一日スマホを握りしめて求人を検索した。歩けないから通勤ができない。エクセルが使えても関数ができない。英語ができても接待ができない。主婦おすすめの内職は車で納品。数字ができないから見積もりが出せない。フリーランスサイトの募集にも応募できない。なんにもできないのだった。


仕方ないのでとりあえず家の近くの作業所に行ってみた。ゼロ円よりはいい。居心地満点だった。シュレッダー作業をサクサクこなした。けれどお給料が時給95円なのを知った。訓練扱いで工賃だから違法ではない。週二回だからどうにもならない。職探しを始めた。犬がいるから今さらアパートに引っ越せない。住むためのお金がとにかくいる。家もある。ローンがある。働くしか道がない。

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