第6話 座れるのか?
夜が明けて、食事が運ばれて来た。まだ座ってはいけないから、食事は食べやすいように、おかずは全部刻んであって、スプーン一つで食べられるようになっていた。けれど中身が見えない。ちょっとベットの頭の角度を上にあげてみた。痛くない。もう少し上げてみた。痛くない。もう少しで直角というところまで上げてみたかったけれど勇気がなくてやめた。冷や汗でびっしょりになりながら、とにかく朝ご飯を食べた。すぐにベットを元に戻した。ひとりでは座らない約束だから。
疲れてそのまま寝てしまい、お昼ごろリハビリの先生が来た。それは慎重にからだを抱えて「まだだよ!まだだからね。痛かったらすぐ戻すよ。いい?」と言って汗だくで 私を座らせてくれた。どこも痛くない。どっこもなんともなかった。ベットに足を垂らして座った。「あれ?座れるね。痛くない?」リハビリの先生は不思議そうに言った。お祈りはいつだって、そのとおりになる。そう信じていれば。教会の人も様子を見に来た。
病院の車椅子は大きくて動かせなかった。家のを持って来ようか? そうしよう!と許可も取らずに、自分の車椅子を持ち込んだ。ベットから車椅子に移ることはまだひとりでできなかったけれど、乗ってしまえばどこへでも行けた。スイスの車椅子で、赤ちゃんが指でさわっても前に進む軽さだ。ダンスにも使われる。その場でくるくる回ることもできる。廊下遊んでいるとリハビリの先生に見つかった。「すごいね。練習?」何がすごいのかわからなかったけれど、私は「はい。練習です。」と言って廊下を行きめぐった。ナースステーションも行った。ちょうど主治医が「あれ。座っていると、寝てる時とはイメージ違いますね。」と笑顔で出て来た。オムツを変えてもらう間も寝てしまっていて、メガネもしていなかった。けれど車椅子上では違う。足をそろえてメガネをして、コルセットの胸のあいだにスマホを挿して音楽をヘッドホンで聴いていた。ほとんど家にいるのと同じだ。
そして、無事に退院が決まった。帰る当日からヘルパーさんが入って、玄関での移乗や着替えを引き受けてくれた。日中は大好きなデイケアに行くことが決まった。起きてから、お迎えの車に乗るまでの着替え、食事、支度もヘルパーさんが引き受けてくれた。玄関からはデイケアの人たちが運んでくれた。仕事は診断書でおやすみだ。コルセットが取れたら復職しよう!これなら仕事に行ける!希望に満ちて退院した。病院始まって以来の背骨骨折のち自宅退院らしかった。
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