第4話 リストラなの?

次の日、結果を持って職場に行った。封筒は封印されているから本人は読めない。そのまま上司に渡すとその場で読んではもらえず、上司は言った。「で、いつから休むの?治ってから出社をお願いしたはずだけれど」と顔も見ずに言われてしまった。忙しいのだろう。頭の病気なのかもしれないが、骨折ではないし、休んでも知能は治らない。それに、休職診断書ではないのは知っている。返事ができない。しかし、上司の気持ちがわからないでもなかった。とにかく私のできないということには差があった。どうして会議通訳ができて、集計作業の桁が違うミスを繰り返すのか。自分でもおかしいと思う。がんばっても、できない。桁が違えばわかるだろう?と言われてることがわからない。気持ち悪くなるほど頭を使っても、アルファベット以外はわからなかった。数字はとにかくわからないのだった。書類の順番。ページ順に並べること。足し算。人から見て簡単と思われることほどできなかった。怠けていないのにできない。けれども英語の仕事は山ほどあった。仕方ないので静かに席に戻って仕事をした。

 すると、何日かたったある朝、突然、それはやってきた。

 「おーはーよー。」

そう言いながら、書類を投げた上司が近づいて来る。封筒を開けたのだろうか。一体何が書いてあったのだろうか?トイレに行くのも、昼休み中も、私を観察している。曜日がわかるだけでほめられる。もうひとりでは何もできなくなった。これならこれで楽だな。そう思った。特別支援学校の時と同じだ。そしてある日、不思議なことを言われる。

 「あのさぁ、ここは 人がいっぱいで 疲れちゃうから だあれもいないお部屋でお仕事しようか?」

私は、ざわめきが苦手だ。誰もいないなら仕事がはかどる。電話もないという。そんな理想的な部屋に行っていいなんて!私は、にこにこしながら「はい!」と言った。

元から会議室に辞書を持ち込んで翻訳をしていることが多かった。人なんていらない。願ってもないいい話だ。私はもう待ちきれなくわくわくして「いつから行きますか?」と返事した。

「そっか、そっか。ちょっとお話しむずかしいのかな?」そう言って上司は自分の席に戻ってしまった。おかしいな。行くって言っているのに。わからない時は仕事するに限る。私は翻訳作業に戻った。この日からたびたび上司は来て、私にわからない「お話し」をするのだった。世の中は時々私の頭にむずかしい。

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