第3話 仕事はできている?

こんな頭で、どうやって仕事をしてきたのだろう。今まで任せてもらっていた仕事は本当にできているのだろうか?単純作業じゃない。翻訳だ。日本語から英語だ。読めない漢字は元々あった。そもそも知らない理科の世界だ。豆電球がなぜつくかもわからない。勉強をしているヒマがなかった。手術のちリハビリ歩く練習の繰り返し。生きているだけでOK。勉強はそっちのけだ。どうやって それで就職したかといえば、たったひとつ できた英語だった。歩けないから来客接待もできないけれど、英語はできるので、こんなに大きな会社なら、英語が使えると思いますと面接で言ったら、英語で自己紹介をと言われた。直前まで卒業旅行で一ヶ月あまりアメリカでホームステイをしていたから簡単だった。言語を切り替えるだけのことだ。日本語より楽なくらいだ。「トイレなどはそのままで大丈夫ですか?」と質問されたが、まだなんとか歩いていたので特にバリアフリーも必要なかった。そのまま内定採用された。期待の新人として、入った日からチェックもないまま資料の英訳や校正チェックを任される。助けてくれる先輩もいない。家に持ち帰り仕上げた。会議通訳もした。もう二十年以上経つ。それなのに、知能テストでは、何をしているか忘れてしまう。それともやり方がわからない。ようやくわかった頃に、次に移ってしまう。頭は切り替えができなかった。仕事は本当にできているのか?怖くなった。

 しばらくしてから、ドクターの部屋呼ばれた。部屋に入りながら、私は言った。

 「せんせい、あのね、りんごが なんとかって 聞こえてきたんだよ。でもね、」の言葉を受けて

「どうして バナナじゃないんだろう?りんごなんだろう?って、ちがうこと考えてたね?」とドクターにはお見通しだった。私、頭の病気なのか?体は生まれつき歩けないから病気だ。だから頭に職つけたのに。あまりのことにこれからを思った。この結果をそのまま提出したらクビだ。信用ゼロだ。ショックだった。ドクターは言った、

「あのさ?元からテストには向いてない頭なの。だからやめようって言ったのに。」

翻訳には定評があった。英文がきれいでわかりやすいと言われていた。やっと生きて行けると思っていたのに。テストに向いてない頭ってなんだろうか?そもそもなぜ検査が必要になったかといえば、会計の仕事がどうしてもできなかったからだ。自分でエクセルの計算式を組んでおきながら、集計が合っているかがわからない。計算式はアルファベットだから書けた。でも計算結果のミスを指摘されても直し方がわからない。自分でやっておきながら何してるのか。と、そんなに英語以外はやりたくないのか!と言われ続け、医学的に証明してほしかった。無理にお願いしたのだった。知能テストではなく、計算機能を調べる検査を。散々な結果で仕方がないので、医者の報告書という形の書類を持って行くことになった。




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