第2話 IQが出ないって?

 小学一年生の算数につまずく頭の検査は、計算テストから、知能テストに切り替えられた。

まずは お手本を見る。「そんなの簡単じゃん!」と自信満々で本番を待った。音声だけじゃなくてカードを使う。順番にお話しどおりに並べるだけだ。散々な結果に終わったあとなので、白衣のお姉さんは心配そうにしていた。「やり方、わかった?」と私に確認する。できるに決まってる。ただ並べるだけだし、数字も出てこない。一体なんの検査だろう、これは。そんな気持ちで注意が泳ぎ出す直前に「じゃあ、本番だよ。」とカードを渡された。

 「これ、さっきのと ちがう!」

 何がちがうかと言えば、カードの枚数だった。見本は手に一枚。もう片方の手に一枚。そしてテーブルに 置く一枚を入れ替えた。本番は手に持ち切れないほどカードがある。特に右手には頭の指令が届きにくい。そんなにいっぱいのカードが来るなんて。お手本とちがうじゃないか。持てないじゃないか! どこが同じなんだよ。何言ってるんだよう。と心では思っているが、目は、カードに書かれている花びらをキャッチした。

 「きれいだなぁ。なんのお花だろう?誰が書いたんだろう?ばらの花かなぁ。ばらだったら、星の王子さまが好きなお花だ。」

一枚のカードの上に 倒れ込んで見ていた。もう星の王子さまと小さな星に飛んでいた。

 「どうしたかな?」と声がする。

私は大発見を伝えるしかないと思った。カードに星の王子さまが好きなお花があることを。

 「見て! このお花 きれい。」

もう、何をするのかなんて忘れていた。

すべてはこの調子で、結局テストは中止された。測定不可だ。こんなことになるとは思わなかった。誰も言ってくれなかった。身体障害に気を取られて、気がつかなかったのだろうか?もうすでに大企業に就職済みなのに、なんて説明すればいいのか。その就職だって、身体障害者手帳があったからだ。「障がい」だとか「しょうがい」だとか書き方変えても別に治るわけじゃないから病気じゃなくて障害なので手帳がある。症状が固定しないと手帳はもらえないからだ。私は生まれつきの障害で、小学校直前に手帳を持った。普通じゃないのは承知していた。特別支援の学校に行き、補欠で高校に入るくらいに勉強もできなかった。でも、就職できたのは身体障害者手帳があるからだった。歩けなくなって来て車椅子にはなっても、頭は普通だと思ってた。そうやって世界はまわって来た。何かが崩れていきそうだった。


 



 

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