出会って一年目
実の誕生日(side:満)
私達は恋人でも友人でもない
7月18日、日曜日。明後日は終業式、そして幼馴染であるうみちゃんの誕生日。
「3点で315円になります」
百均でシャーペンの芯の詰め合わせを一つ、赤いリボンを一つ、それから袋を一つ買う。袋詰めをするスペースでシャーペンの芯をリボンで飾り付け、袋に入れる。
「おし」
「…年々雑になるね。うみちゃんの誕生日プレゼント」
弟に呆れた顔をされてしまう。そう。このシャーペンの芯がうみちゃんへの誕生日プレゼントだ。
「大量にあっても困らんだろ?」
「困らないけどさぁ…」
「お前がシャーペンだからこれでちょうど良いしな。…さて、後は…」
まだもう少し先だが、8月8日が柚樹さんと実さんの誕生日。今日はそっちが本命だ。夏休みに入ると部活が忙しくて買いに行く余裕なんて無くなってしまう。
「柚樹さんの妹さんって、前にねぇちゃんに勉強教えに来てくれてた人だよね」
「そう。流石にあの人にシャーペンの芯渡したらキレられる。柚樹さんは芯でも良いけど」
「…柚樹さんの扱いはうみちゃんと同じなんだ…一応先輩なのに」
「あいつはうみちゃん以下だ」
「あいつ呼ばわり」
何が良いだろうか。二人お揃いのものにしたら柚樹さんは喜びそうだが、実さんは嫌がりそうだ。お揃いはやめよう。
「お前は?柚樹さんになんか渡すの?」
「ギターやってるって聞いたからピックケースを」
「…あー…なるほど。あ、じゃあ私はちょっとお高い爪切りを…」
「…流れ的にピックじゃない?」
「どういうピック使ってるか知らないし。人によって違うらしい」
「…で?なんで爪切り?」
「爪の手入れこだわってそうだから」
「そうなの?」
「うん」
柚樹さんのプレゼントは決まった。後は実さんだ。
「…何が良いと思う?」
「俺に聞かれても。関わりないからわからないよ」
考えながらショッピングモールをうろついていると、楽器のキーホルダーのガチャガチャを見つけた。
「…それ渡す気?」
「いや、これは自分用」
小銭を入れてガチャガチャを回す。出てきたのはドラムのキーホルダー。
「…ヴァイオリンが欲しいんだけどなぁ…もう小銭ねぇわ」
「じゃあ、俺も一回だけ回すから、ヴァイオリン出たら交換しよう」
「絶対出せよ」
弟が小銭を入れてガチャガチャを回す。見事にヴァイオリンを引き当てた。弟は昔から引きがいい。流石だ。ドラムのキーホルダーと交換し、カバンにつける。
「ヴァイオリン好きだっけ?」
「最近好きになった」
「ふぅん」
さて…実さんは何を渡したら喜ぶのだろうか。
ふと、雑貨屋のミニサボテンが目に止まる。
「…サボテンか…時期的にもちょうどいいか?」
「いいじゃん。可愛い。あ、この小さいジョウロもつけたら?」
新が持ってきたのは手のひらサイズのジョウロ。250mlのペットボトルくらいのサイズだ。水が入る量はそれより少し多いくらい。サボテン一つに対してやる量なら足りるだろうか。まぁ、ないよりはマシだろう。
「んじゃジョウロと、サボテンと、あと爪切りな。ピックケースって売ってる?…あ、あるわ。ほら、選べ」
「んー…やっぱいっぱい仕舞える方がいいかな」
「ピックってそんな大量に使う?」
「予備で何枚か持ってる人も多いみたいだよ。割れた時用に」
「ふぅん…」
「妹さんには何がいいかな」
「適当にノートでも渡しとけ。これとかいいんじゃね?」
「…雑」
「いいだろ別に。どうせそんな関わりないんだし」
「…じゃあ、ねぇちゃんが勧めてくれたこのノートにするね」
「おう」
別れて会計をして、別々にラッピングをしてもらう。
「ちゃんと世話できんのかな。あの人…」
枯らさければいいが…。
8月8日。その日は音楽部も部活があると聞いていたため、休憩時間に持ってきたプレゼントを持って音楽部の部室へ。前を通るとヴァイオリンの音が聞こえてきた。音が止まるのを待ってから扉を開ける。
「おっ満ちゃん。何?誕生日祝いに来てくれたの?」
「うん。そう。ほい、あんたにはこれね」
紙袋から袋を二つ取り出し渡す。
「わーい。って…二つ?何?誰から?」
「弟」
「マジで?新くんから?やったぁー。なんだろうなぁー…おっ!ピックケース?と…お…爪切りと爪ヤスリ」
「どっちが私のだと思う?」
と聞くと、柚樹さんは迷わず「こっち」と爪切りとヤスリが入っていた袋を上げる。
「…正解」
「やっぱり?
「そうっすかね」
「ありがとね。新くんにもお礼言っておいて」
「へい。…んで、実さんにはこれね」
実さんには紙袋ごと渡す。
「えー。なんか実のデカくない?俺のとの差」
袋を覗き込んでぶーぶー言う柚樹さん。
「そのノートが弟から。で、箱は私」
「…ありがとうございます」
「あ、取り出す時トゲに気をつけて」
「…何入れたんですか貴女」
「んな警戒すんなよ。ほら、開けて開けて」
顰めっ面でラッピングを解く実さん。中を見ると眉間のシワが消えた。
「…サボテン…ですか…」
しかし、なんだか微妙な反応だ。
「サボテン嫌いだった?」
「…いえ。別に。…ありがとうございます」
「枯らさないでくださいね」
「あ、部室でお世話する?」
きららさんが提案するが、実さんは首を横に振った。
「…いえ。部屋で、私一人で世話します」
そう言ってそっぽを向いた彼女の横顔は、照れているのか赤くなっているように見えた。
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