第4話

 これから必要なだけの弾薬類を購入して、二人はルーカスの店を後にした。

 これからモーテルかどこかに部屋を借りる予定だ。

 四輪駆動車を運転中のカルーノが口を開く。

「お前、あの武器欲しかったんじゃないのか?

 案外銃器マニアなところがあるしな」

「男の趣味としては普通な方だろ?

 あれはどちらかというとサイボーグ兵や、生身ならさらに筋力補助のアクチュエーターみたいなのが必要になる武器。

 反動はそれでもそこそこするし、自分の筋力や技能と比べても、やや過剰な戦力だよ」

「冷静だな。

 サイボーグ兵といえば、最近この国でも。強化兵士の名目でサイボーグ兵の育成にやっきだな」

「知ってる。

 元々は負傷兵の補助技術だったのを、意図的な装備に変えようとしているものだったな」

「サイボーグ兵の筋力は軽く倍以上で、重い武器を持たせてもほぼ疲労がない。

 相当な火力の強化が期待できる。軍事予算の確保には苦労したみたいだがな」

「隣国との戦闘の激化で新型の兵器が次々と生まれている。戦争は発明の母だよ、本当に。

 明日はまた街を出て、別の街へ移動する」

 電子の海の戦争ニュースを見たジャンがそう言う。

「新しいジャンク品か」

 カルーノが応じる。

「まだ戦争中だから、移動中にどうなるかを探る。

 俺は取引できそうな店の確認と、あとは他のフリーランスの仕事」

「最後のはやめとけ。

 企業に頼めない金なしか、きな臭いグレーゾーンの仕事しかない」

「だな。

 一応、目に通すだけ通しておくよ」

 なにも期待していなかったが、登録サイトから案件を見ておくジャンだった。


 モーテルに着いてから、休むまもなく『タフ・モバイル』を眠りスリープから起こす。

 文字通り頑丈なのが取り柄の、スマートな国軍正式採用型の多機能携帯電話だ。

 電卓機能でマクローリン展開。知らんが。

 インスタント・コーヒーを飲みつつ、収支を計算する。

「月末か。

 六月の収支はどれくらいだ?」

 カルーノが気軽に聞いてくる。

 ジャンが苦々しげに答える。

「生活費や納税額を入れれば、差し引き二万五〇〇〇クレジットかな」

 カルーノが目を閉じてうなずく。

「この仕事を始めてから日が浅いのは事実だ。

 気長に頑張ろう」

 やはりカルーノは気軽だった。そして気長だ。

「うまくすれば収益をかなり上げられるかもしれない。

 この街で急募の仕事が入っていたんだ」

「おいおい、完全に足元見られているような安い作業は御免――」

「五〇万クレジット。

 経費は別。

 ついさっき更新された仕事だ」

 カルーノも意識が変わる。

「……今すぐ、コンタクトを取るか。

 あと、詳しい条件を見せてくれ」

「OK」

 と、ジャンはタフ・モバイルではなく、防弾性すらあるアタッシュケースに収納したノートPCを起動する。けっこうな防塵性もある戦場仕様の頑丈なタイプ。

 こちらの方が入力に慣れているため、仕事上の反応は早い。

 よく整備された通信環境に感謝しつつ、ジャンとカルーノはことに当たる。

「なんかむすめを戦場から戻してくれとか、いまいちよくわからん依頼だった」

 ジャンがPCの起動中にそう言った。

 起動後、一分程度でタフ・モバイルと同様だが広い画面がPC上に映る。

「ふん……。露骨なドンパチじゃなさそうだな」

 カルーノが依頼文を読んで感想を漏らす。

 依頼の内容は、士官学校で成績優秀だった一七歳の娘が、砲兵の実戦部隊に配置されてしまい、その父親が軍に金を支払ってでも即時の戦線からの娘の離脱を依頼するというもの。

 娘本人が強い愛国心などでそれを拒否しているため、戦場に行ってでも説得に当たりたいとのことだった。

「事情は知ったこっちゃないが、砲兵の戦線に出向いて送迎するだけ。

 帰りは娘さんも送るのかもな」

 カルーノが軽く言った。

 ジャンはこちらの人数、装備を伝えるなどして、明朝以降ならいつでも出られると付け加えて相手への返信を待つことにした。

 すぐに返信が来る。快諾かいだくだった。

 相手はこちらの年齢も知っているはずだが、対して気に留めている様子はない。

 朝七時にと伝えると、六時にならないかと言われた。

 上客だ。交渉はせず、相手の要求をむことにした。

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