第2話

 帰路の途中。戦場跡と街との中間地点あたりで、ジャンがすぐに異変に気付く。

 助手席からサイドミラーを確認。

「後方からバイク二台だ。

 嫌な予感がする」

 確かにバイクが走っている。

「殺すか?」

 カルーノがそう呟いた。

「撃ってきた。

 多分、サブマシンガン」

 荒野に吸収されていく小口径マシンガンの音。

 バイクから片手で発砲しているのだ。

 何発かが車体の後部に命中し、火花を散らす。

「野外強盗か。馬鹿なやつらだ。

 起動は?」

「とっくに」

 カルーノに言われる前から、ジャンは電子パネルを操作していた。

 パネルに繋がっているそれは、車両トップにある、遠隔操作式の五〇口径機関銃だ。

 ジャンたちが持つ一番高価な武装で、マシンガン上部には銃身と同軸方向に光学・暗視カメラが取り付けられており、銃本体の円周回転に合わせて三六〇度を確認できる。

「俺らの命が第一だ。

 弾薬をケチるなよ」

「ああ。わかった」

 カルーノの声に応じるジャン。声は酷薄なものとなっていた。

 電子パネル上の最終安全装置を解除。

 さらにパネルを押し、ライフルなどとは比較にならない轟音と共に、発砲が行われる。

 一般的な成人男子の手にもごろり、と転がるほどの砲弾のような弾丸だ。

 当たれば、まともな肉体ではいられない。

 ジャンらの四輪駆動車と距離を詰めている大型単車バイクが発砲を受け、炎上。

 一瞬遅れて、上半身と下半身が切断され内臓をぼろぼろとこぼし、強盗犯が『射殺』される。

 二台目は性懲りもなく蛇行運転しながら、サブマシンガンを放つ。

 ジャンとカルーノの四輪駆動車が拳銃用の弾丸を何発も浴びるが、それを防ぐ程度の防弾性能はあった。仮にも軍用車両だ。

 銃身が蛇のようにしなって発砲。弾丸の波濤はとうを作る。

 野外強盗にとってそれは、死神の鎌となって襲うものだった。

 二人目の強盗を始末したが、今のはただの斥候せっこうかもしれない。

 どこかの岩影からまた敵が出るとも限らないので、注意だけはして、二人は速度を上げて街へと急いだ。

 結果としてそれ以上の追撃はなかったが、それなりの弾薬代だ。

 命で支払ってもらったわけだが、カルーノは悪態を吐き、ジャンはそれを無視する役目だ。


 銃痕じゅうこんで外観のたくましさを増した四輪駆動車が街へと入る。

 治安は国家が定める等級でBランクに位置づけられている。普通にしていればそこそこ安全な街だ。

 かなり戦場に近いので、おおむねそのとばっちりだろうとジャンもカルーノも思っている。

 別に生まれ故郷ではないが、ある種の親しみやすさを感じている街だ。

 ガソリンスタンドで車体の洗浄と燃料補給を行う。

 車体の弾痕に恐れを抱いている青年に向かって、ジャンが「まけてくれ」などというと哀れ、青年は「店長と相談してきます」と奥へと引っ込んだ。

 店長らしき男がスタンドの奥からこちらを覗く。

「割引はできませんが、こちら、サービスです」

 AIロボットの対応のような口ぶりで、青年が九ミリ口径の弾丸の入った箱を持ってきた。

 何の冗談か、前の銃撃戦で殺した強盗の使っていた弾丸と全く同じ口径だ。

「ありがとう」

 ジャンがわざと優しい声を出し、青年は給油に移る。

「やるじゃん」

 カルーノは調子外れなかすれた口笛を吹いた。

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