Junk Wars(ジャンク・ウォーズ)

書い人(かいと)@三〇年寝太郎

第一章

第1話

 人間というものは自分を含め、つくづく価値がないものだと思う。

 ジャンはそう思うことが多い。なんとなくだが、そう思うのだ。

 ジャンは相方のカルーノ――共に一七歳の少年だ――と共にジャンク屋その他を営んでいる。

 我らが国家の登記上は民間軍事会社PMC、ということになっているが。

 ジャンク屋は死骸漁りなどという。

 心外だ、とカルーノなら切り返すのだろう。

 人間の死体には基本的に価値がないので、放置して当然だ。

 サイボーグ兵などならまだ別だが、それでも大きく破損していればロクな値段で売れないのは明白なのだった。

 基本的には運良く綺麗に残った兵器の電子機器や弾薬などを持ち帰る仕事になる。勝手に。

 ジャンはややたくましい素の肉体に、黒髪・灰色の目。

 以前に何回も染めたり、元の黒に戻したりしているもので、その髪はずいぶんと傷んでいた。

 カルーノは金髪・碧眼へきがんで、右腕に大きなトーヨー風の龍の入れ墨がある。つい最近彫ったお気に入りらしい。

 二人は軍隊のお下がり品である旧式の四輪駆動車で、夜の荒野を走っていた。

 運転するのはカルーノで、暗視ゴーグルをその頭につけている。

 今回の仕事は、砲撃を受けた敵国の戦車部隊の残骸の回収。

 砂漠のような荒野が職場だ。

 顔がわからないよう、頭には布を巻き、ゴーグルで砂塵を防御。水分補給は怠らない。

 長袖の防弾・防刃仕様の服に、護身用のアサルトライフルを持っている。

 銃は強化樹脂や強化プラスチックでできており、その大きさよりも驚くほど軽い。拳銃もだ。

 勝手な廃品回収は違法で、見つかればその場で死刑もありうる――というのは恐怖政治をやっている隣国の独裁者の主張。

 ジャンたち側の国では半分は合法だ。

 つまり、ジャンたちの国のジャンク兵器の持ち帰りは多分違法で、敵国のはそうではない。

 実際は壊れた兵器なんてずっと放置され、集落から近ければ子どもの遊び場になって、余った弾薬が暴発して誰かを吹き飛ばすなんてこともよくある話だ。

 あらかじめ危険そうなものは回収してやるのだから、なんて良い自分たちなのだろう、とジャンは自分にそう言い聞かせた。

 場所ポイントにつく。

 全長10メートルほどの戦車が、空間を開けて残骸となっていた。

 敵の長距離砲撃を浴びて、粉砕されたのだ。

 周囲には黒焦げか赤茶色になった随伴歩兵だった者の残骸ざんがいが肉片となって散らばっている。

 役目を終える事なく、終わった命たちだ。

「回収できそうなものは、戦車の中か」

 ジャンが言った。アサルトライフルの横に取り付けたLEDの強力なフラッシュライトで、一両目の戦車を照らす。

「待て、誰か動いている」

 暗視スコープを付けたままのカルーノが、動きに反応した。

 カルーノが指差した先には這いずる兵士が居た。

 ジャンとカルーノが警戒しつつ、近寄る。

「ちくしょう……」

 戦車部隊に随伴していた兵士らしい男が無念の声を上げる。

 男の口は、歯がいくつも欠けているぼろぼろで、なによりも右腕の先が途中からなかった。

 もう長くは持たない命だ。

「軽機関銃と拳銃は無事っぽいな」

 男に近づいたカルーノがそう言い。男の頭にライフルを向ける。

 引き金を軽く引いて、戻す。

 発砲音が戦場だった場所に響き渡る。

 三点バースト射撃だが、別に二発でも問題はなかった。

 頭に五、五六ミリ口径の杭打ちのような高初速ライフル弾を受けた男は、頭蓋骨が吹き飛び、脳漿のうしょうを荒野に撒き散らして即死。

「拳銃とマシンガンを回収しておいてくれ。

 おれは戦車を見てくる」

 カルーノがそう言い、ジャンも軽く応じる。

 仮に男が生還したら、こちらのジャンク屋稼業がバレるし、生かしておく義理はなかった。

 缶ジュース一本かそこらの弾薬代で殺せるので、ライフルは効率がいい。

 それを言ったら拳銃の弾の方が安いのだが、近づいて撃って返り血を浴びたくはない。

 どうせ、絶対に助からない命だったろう。問題はない。

 問題はない。

「ジャーン!」

 カルーノが相方の名前を叫び、続ける。

「ものの見事に粉砕されているぜ。砲弾も全部ぶっ飛んでる。電子機器も多分ダメだな」

「なら、随伴歩兵とかからできるだけ回収するしかないか」

 結局、四輪駆動車で周囲を探し周り、幾つかの銃器類、無事に残っていた頑丈なコンバットナイフなどを回収するに留まった。手榴弾もあったが、戦火の後の爆発物なので、暴発に備えて回収をするのはやめておく。

「よっぽど戦車が憎かったのか。

 綺麗な一二〇ミリ砲弾の一発くらいは欲しかったな」

 一二〇ミリは戦車の主砲の口径のことだ。

 その弾芯のなかには放射性物質の重金属もあるので、確認は慎重になる。もっとも、今回は全て成形炸薬――HEAT弾が吹き飛んでいたのだが。

 タングステン重金属弾(弾芯)であればけっこうな高値で売れるが、一切ないようだ。

 戦車を破壊したのは、より口径の大きな榴弾砲りゅうだんほうだろう。一五五ミリや二〇三ミリとか。特に後者などは、着弾から半径五〇メートルが綺麗に吹き飛ぶ。

 文字通り木っ端微塵になった戦車の残骸を後にして、彼らは直線距離で約五〇キロ先の街に戻ることにした。

 カルーノはけなげにも、戦車の金属片を軍手で掴んで運べるだけ四輪駆動車に積載した。

 また、最初に射殺した男の軽機関銃はそれなりの値段で売れることだろう。

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