第4話
「ゲホッ、ゴホッ……」
今日も、咳と戦いながら書く。
もう、物語はクライマックス。
銑司が、彼の身を案じる想い人に刃を向ける。
「ガホッ、ゲホッ、ガホッ!」
咳は激しさを増すが、書き続ける。
銑司が想い人に刃を突き立てた、その瞬間!
「グワッ、ガッ、グワッ……」
僕は、酷い呼吸困難に襲われた。
嫌だ、待ってくれ!
あと少しで、完成なんだ。
あと少しで……
目が覚めると、世良の潤んだ瞳と目が合った。
「ここは……」
「病院よ」
「病院……僕は、一体……? そうだ、作品だ。あと少しで、『剣鬼』完成するんだ。あと少し……」
「もう、やめてよ!」
世良は、両眉を内側に下げ、悲しげに僕を睨む。
「『剣鬼』の銑司。あれは楷、あなたそのものよ。銑司が人を傷つけて、自分自身を切り刻むほどに、あなたも自分自身を切り刻んでゆく。あの小説は『作品』としては素晴らしいし、評価されるのかも知れないけれど、楷……あなた自身を傷つけるし、読む人を傷つける」
「世良……僕の時代ホラーを読んでくれていたの?」
「当たり前じゃない」
世良は、悲しげな温かい眼差しを僕に向ける。
「あなたの作品を、読まないわけがないじゃない。私は、どんな作品でも、楷……あなたの作品を読み続ける」
そして、僕を抱き締める。
「だから……あなたが、ホラー作品で自分自身を切り刻むのを見るのが、辛くて堪らなかった。楷、どんな作品を書いてもいいから……お願い。自分をもっと大事にして。自分自身を傷めつけないで」
世良のその言葉が、僕の瞳を熱く濡らして……僕を抱き締める世良の肩を温かく湿らせた。
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