第2話

「ゴホッ、ゴホッ」


まただ……。

また、『咳』が出始めた。


僕は、一旦、原稿用紙を休ませる。


何度医師の診察を受けても、原因が分からない『咳』。

それは、僕が『時代ホラー作品』を書くようになってから現れるようになった。


現在書いているのは、時代ホラー文学賞に応募予定の『剣鬼』という作品だ。



舞台は幕末。

主人公は佐幕派の志士、銑司。

銑司はある日、剣に巣食う鬼〈剣鬼〉と契約を結ぶ。

その契約とは、『〈剣鬼〉が無敵の剣の腕を銑司に与える代わりに、人を斬る度に銑司自身を喰らってゆく』というものだった。

契約を結んだ銑治は、人を斬り続け、〈剣鬼〉に己を喰われ続けてゆく。


ラストも、自分の中で朧げながら浮かんでいる。

銑司の想い人が、涙ながらに彼を止めようとする。

しかし、自らの殆どを鬼に支配された銑司は、彼女を斬る。

その血飛沫を見た瞬間、銑司は自分の全てを『鬼』に支配され、深い闇の中へ消えてゆく、というものだ。



しかし、この作品を書くにつれ……銑司が人を斬る毎に、そして悲劇のラストに近づく毎に、僕の『咳』は酷くなってゆく。

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