第五話 収容所解放作戦立案!

国防陸軍第十一戦車連隊所属の黒田大尉は、もはや職務上の愛車と化したといっても過言ではない10式戦車に乗車し、

砲手の伊丹や操縦手の富田らと共に自身が率いる第五中隊の戦車を引き連れて自身が所属する第一機甲師団の斥候も兼ねて近くの小規模な町に向けて走行していた。

日本の道路でいう所の幹線道路のように、道幅が広く。黒田車を先頭に楔形陣形を組んで前進していた。編成は、10式戦車が四輌、90式戦車が五輌、61式戦車改(史実における74式戦車そのもの)が二輌そして二輌の50式戦車改三型といったパレードのような編成である。

何故出来たのか、それは異世界のそれも一世紀近く離れた世界だからできる編成だ。特に50式戦車改三型に至っては、転移したために第二の人生を無理やり歩まされたといっても過言ではない。

何故、大戦終結直後の戦車が現代戦車に混ざって組み込まれているのかという理由についてはイタリ・ローマ王国政府と日本皇国政府との間で成立した日イ技術支援協定の一環として王国軍の精鋭部隊に供与される装備の一つの予定のためだ。

搭乗員は国防軍の戦車隊員ではなく、精鋭の一つである王国軍第一近衛機甲団の隊員が試用を兼ねて乗車していた。


「クロダ大尉。こちら、メッセ少尉車。これより先は茂みや集合住宅といった障害物が多くなるため。徐行されたし。町に敵勢力の確認が出来なければ、住民の保護及び説得に当たりたい。そのため、私ともう一輌のティーポ50のコルティ曹長と共に周囲を警戒しておきますから。大尉殿には周囲の捜索をお願いしたい」


「こちら黒田。了解。是非メッセ少尉とコルティ曹長には周囲警戒をお願いしたい。他の皆も周囲の警戒に当たってくれ。町の中央広場に着いたら俺と伊丹、富田の三名で中央にあると思われる教会を回りながら周辺住民の捜索に当たる」


黒田は王国軍戦車兵の一人、『ジャン・メッセ』少尉との交信を終えると。一気に大型トラック二台分の幅まで狭まった道路を抜けて大きな噴水がある広場まで来ると黒田車の三人が降車し、伊丹が左側に伸びる大通りで富田が右側に伸びる大通りを散策することになった。

そして黒田は単身教会に向かうのであった。彼は車内に装備されていた74式5.56mm小銃(史実における89式小銃そのもの)の折曲銃床型を持って教会の扉を開ける。


「伊丹の奴が言ってたみたいに。異世界らしいな」


彼は教会に入ってすぐ至る所に飾られた装飾品に圧倒されていた。その奥にある祭壇と思われる部分には、人間の女性と犬を掛け合わせたような人型生物と普通の人間の男性が抱き合ってそれぞれの手で聖火のようなものを手に持っているという石像が飾られていた。

テーマは愛に種族は関係ないというべきだろうか。それに類似した絵画が二階の渡り廊下や一階の壁に飾られている。

思わずそれに感心し、見惚れていた黒田は周囲の警戒など忘れてそのまま奥へ進んでいくと、右斜め後ろから鳥類が羽ばたくような音が聞こえる。


「………天使か?いや、ナイフを持ってやがるっ!!」


ふとそれに気付き。後ろを振り向くと、姿は人間の女のようだが、天使の翼のようなものが背中から生えている。しかし、その女の目は殺意に満ちており。その証拠に細くも色白な右手でナイフを持っていた。

この一瞬が黒田の判断を決めた。

呆気なくそのまま見惚れていると、あえなく首の付け根辺りを走る頸動脈を掻っ切られて血を飛び散らすかそのまま心臓を突かれて口から血を吐くかの二択である。

自然と身体が動き、回避行動を取ると同時に小銃のセレクターを「タ」から「レ」に切り替えてトリガーを引いて旋回しようとする有翼人の女に向けて連射で発砲するが。

全て外れる。その最中に女と目が合った。

女は当初殺意に満ちた目つきだったが今度は申し訳ないことをしたという表情になる。黒田の格好と左右の腕に付いている日章旗のワッペンをこの間に視認したのか。彼女はナイフを捨てて左手を上げる。


「何だ。敵意が無いのか?ゆっくりこっちに降りて来るな……」


女はそのまま彼の前まで降りて来ると、そのまま銃を下ろせという意味のジェスチャーを彼に送る。

よく見ると、彼女は自分と同じ歳頃であろうという雰囲気であり。身長もそれほど変わりなかった。そして、彼女の口が開く。


「あなた。共和国政府軍?」


「いいや違う。何言ってるか分からないかも知れないが俺は日本皇国国防軍、国防陸軍大尉の黒田浩一だ」


黒田は、彼女に聞き取りやすいようにルシア語で彼女に軽く自己紹介する。彼をこの言葉を聞いた女は安心したのか。

優しく語り始めた。


「クロダさんね。私の名は、アーニャ。本当の名前は『アナスタシア』っていうの。あなたが政府軍の連中じゃなくて良かったわ。さっきはごめんね」


「いいさ。俺もアーニャさんを撃たなくて良かったよ」


出会い方こそ最悪だったものの二人の男女は早速打ち解け合っている。しかし、続けて今度は先程とまた同じ方向から誰かが走る音がする。

二人がその方向を向くと、白銀色の髪を持ち。猫の耳のようなものを生やした少女がアーニャが捨てたものと同じナイフを持って黒田の方へと走っていた。

アーニャと違ってその表情は憎悪に満ちており。狂犬に近いかそれそのものであった。


「待ってカリーナ!この人は悪い人じゃないからっ!!」


「アーニャさん危ないっ!!ぐはぁっ?!」


アーニャが『カリーナ』と呼ぶ猫型獣人族の少女に対して。呼びかけるもその勢いは止まらない。アーニャは黒田の前に立って制止しようとしたものの。

逆に彼が彼女の盾となり。少女が握りしめていたナイフの刺突を腹部に受ける。


「……っ?!政府軍じゃない。あ……あぁ」


「はぁ……はぁ……大丈夫……俺は君の味方だ」


「あっ!クロダさんっ!!」


「大尉!!ご無事ですかぁ!!」


「大尉が怪我しているっ!!衛生兵、来てくれっ!!」


カリーナはようやく黒田が敵じゃないと認識したのか。驚きながら彼の顔を見つめるが、彼は腹から血を流しながらも敵意がない事を伝える。

その次に騒ぎを聞きつけたのか。伊丹と富田が黒田のもとへ駆け寄って彼を介抱するが。彼は気合を振り絞ったのか。アーニャに対してこう言った。


「アーニャさん。この子のことを叱ったりぶったりするのはしないと今ここで俺と約束してくれ。この子は何も悪くない」


「ええ分かったわ。すみません私も手伝います。カリーナおいで」


「……っ……っ……ごめんなさい」


黒田は三人に介抱されると、そのまま合流してきた衛生科の救護車に連れ込まれて手当を受けるのであった。



この騒動の後に、この町は有翼人であるアーニャをリーダーに共和国軍に対して反旗を翻した非ヒト種種族や一部のヒト種族が寄り合ってゲリラ化した場所であることが分かったのだった。

アーニャと治療が終わった黒田の二人は国防陸軍第一機甲師団団長の藤田少将と面会することになったのだった。


「クロ、怪我の具合はどないや?」


「いいえ。大したことはありません。それよりもアーニャさんを呼んだわけとは?」


「せやな。軽い事情聴取ってやつや。アナスタシアさんいうたか?横に座ってるクロの事をブスリやってもうた子のことについて聞かせてくれるか?勝手な憶測かもしれやんけどやな。ワシは深いわけがあると踏んでる」


「………実はあの子の両親はこの戦争が始まる前、ヤーベリという共和国副総帥の変態野郎にお姉さんを連れて行かれて。それに抗議しようとした両親が目の前で射殺されてしまって……以来、私や一部の人以外とは口を聞こうとしないで。特に軍人の男の人を酷く怖がっているんです。それにこのヤーベリという男、色んな地域で権力の傘を振り回しているんです」


当初は冷静な態度で彼女の話を聞こうとした藤田であったものの。カリーナが憎悪を剥きだして黒田をさした理由を知った途端。

手に持っていたボールペンを握りつぶし、口から零れ出そうな怒りを堪えながらアーニャに言った。


「そらそうなるわな……なあ、クロよ。ワシは今、そのヤーベリとかいうド外道のロリコンをこの手で晒し首にして公衆の面前に晒上げたい気分なんやけど……乗ってくれるか?」


「ええ。藤田少将、その話乗りますよ。俺的には、戦後裁判でじっくりとなぶった後、負の歴史に名を連ねてやるのが良いと思うのですが」


「それも名案や。という訳でまだ生きてるかもしれんカリーナちゃんのお姉ちゃんの救出も兼ねて『外道消毒作戦』を敢行したいと思うんやけど。まあ、表向きには拉致被害者救出作戦ということで上には言っとくわ」


二人の軍人の怒りの炎は一気に燃え上がる。宣戦布告されて苛立っている事に加えて非人道的行為を行っているヤーベリは自身の知らないところで皇国国防軍による解放作戦の引き金になるとは、思ってもいなかったといえよう。




藤田は先程の経緯を聞いて胸糞が悪くなったのか。宿営地近くの小川で遠くに見える満月を眺めていた。

結局どの世界にも残虐非道な人間がいることに対する怒りを鎮めながらも孤児となったカリーナとその姉のその後について考えていたりしていた。

藤田少将は、今年四十六歳の玄人軍人の一人で二十数年前の第三次アメリカ戦争や第二次イギリス=アイルランド戦争で様々な戦場を経験したことから肉親を失った孤児のこの後の事が頭を這いずり回っていたのだった。

悲惨な末路を辿る者も居れば、第二第三の人生を歩む者もいる。しかし、長く軍人生活に勤しんで来た藤田は初めて孤児というものを目の当たりにした。


「なあ。嬢ちゃん、さっきからワシの近くに隠れてたんは知ってるで。怖がらんと出ておいで」


「………」


カリーナは誰かの手作りであろう。ウサギのぬいぐるみを抱えて現れた。アーニャから聞いたように軍人である藤田に怯えている様子であったが

程なくして静かに近寄って小さな口を開く。


「将軍の叔父さん。さっきのお話、私ずっと隠れて聞いてたんだ。私のお姉ちゃんを助けてくれるの?」


「そこまで聞いとったんか。せや。おっさんが嬢ちゃんのお姉ちゃんを絶対助け出して。お嬢ちゃんのお父ちゃんとお母ちゃんを殺した外道をいわして来るからな」


「………約束だよ。叔父さん」


「おう。任せとき。せや、チョコレートはいらんか?」


「………ありがとう。私、チョコが大好きなんだ」


一人の将官と少女は一つの約束を交わす。こうして後日、友軍のイタリ・ローマ王国は勿論、新たに味方となった自由軍やルシア臨時政府軍は日本皇国という国に軽々しく弓を引いた愚かなるボリシェ・コミン主義連合共和国の末路に導いた者の一人となった藤田誠也少将の戦闘性を目の当たりにするのであった。



黒田大尉が所属する国防陸軍第一機甲師団がゲリラ化した町に進駐も兼ねて住人の保護を開始したほぼ同時刻。

東京の首相官邸の地下会議室ではオンライン対面式の会談が行われようとしていた。当初、日本とイタリ・ローマ王国はこの戦争が無ければ直接対面での会談となるはずだった。

ちょうど今この時に任期満了間近で日本皇国の内閣総理大臣である西條知之が一国の総理大臣として民自党(民政自由党)の総裁として十五年間の任期で最後の大仕事を全うするために訪問し、両国間の親睦を深めながら日本が転移した世界でどのように渡り歩くべきかという糧を王国から得ようとしたのだが、最悪なことに今は王国と隣接する侵略国家と戦争中のため、呑気に訪問と行くわけにいかない。


「西條総理、そろそろイタリ・ローマ王国のイザルベライト国王陛下と繋がりますので同席させていただきます」


「分かりました。中渕さん。何か提案があれば遠慮せず私もしくは国王陛下に仰ってください。穏やかな会談が予想されるとはいえ。我が国と王国の両国の発展のためには官房長官であるあなたにアドバイスをいただかないと」


西條は自身の隣の椅子に座った西條内閣官房長官の『中渕恵二なかぶちけいじ』と会談開始直前の打ち合わせを行う。両国が接触を開始して三ヶ月という短い時間であったものの既に親密な関係にある。

とはいえ、一国のトップが腹を割って話し合う機会だ。特に首相の座にある西條は日本皇国において千年以上”有らせられる一族の御方”の顔に泥を塗ってはいけないという信念がこの国で一番強いといっても過言ではない男だ。

さて、そんな彼らの前にある大画面に齢十五の可憐な女王と在外国防陸軍の総司令官である今村陸軍大将やムッソーリニ侯爵やそれぞれのボディーガードであるカルロ・バローネ曹長と相馬志桜里中尉の姿が映り込む。


「イザルベライト二世国王陛下。直接では無いのですがお目にかかることが出来て光栄であります。日本皇国首相の西條と申します。本日はご多忙の中、会談に出席していただき感謝御礼申し上げます。両国の発展のためなら我が国は粉骨砕身努力いたします所存でございます」


「私は内閣官房長官の中渕恵二と申します。本日はよろしくお願い致します」


『ありがとうございます。サイジョウ首相、ナカブチ様。始めまして。私はイタリ・ローマ王国国王のイザルベライト二世と申します。早速ですがお言葉に甘える形で申し上げますと、私の方から貴国にご相談したい緊急の議題があります。こちらに控えておられます貴国のイマムラ大将や私の隣にいるムッソーリニ侯爵と話し合ったのですが……今は防衛に徹している我が国と貴国ですが、これからは本格的な攻勢に切り替えたいと思っています』


「なるほど。戦争の早期終結ですか……私も賛成です。我が国の世論も早期終結に賛成であります。しかし、また新たな情勢の変化があったのでしょうか。出来る限りの善処はする所存であります」


『ありがとうございますサイジョウ首相。それでは、我が国いえ、我々の世界には人間族……ヒト種の他に非ヒト種と呼ばれる他の生物の特徴を取り入れた人型種族が存在しています。我が国と貴国二ホンの生き別れの兄弟ともいえる大敷洲帝国ではヒト種と非ヒト種は融和しきっていますが、他の諸外国ではそれが進展最中または全く進展しきっていない状況です。

特にボリシェ・コミン主義連合共和国は表向きには、労働者と性別を越えた団結という体裁のもと国体を維持していますが。

性差別が我が国や諸外国同様ほぼない反面、ヒト種至上主義故か非ヒト種族をランク付けと同じ感覚で給料に見合わない労働をさせる。

また、通常のヒト種より寿命が長いからという理由で社会保障の待遇に差をつけることに加え、戦場でもその酷使は異常です。

さらに歩兵の盾代わりに占領地で捕まえた非ヒト種の女性や子供をその前に立たせて小国を併合するといった恐喝同然の行為まで行っています。

にもかかわらず他の大国はそれに見向きすらせず、見て見ぬふりという情勢です。

前置きが長くなりましたが、今回の攻勢開始に際して敵副国家総帥のメレンチー・ヤーベリという人物の捕縛作戦も兼ねて徴用非ヒト種族収容所の解放作戦を行いたいと思っています。これによって非ヒト種族も同じ人型族であり同じ世界で生きる人種の一つという認識をこの世界に持ってもらいたいのです』


西條は感心した。モニター越しとはいえ、幼き女王の真摯かつ現実的で博愛的な情熱がひしひしと伝わって来ている。

それと同時にほぼ人間と言っても過言ではない非ヒト種族に対してそこまでやるかという共感を持ち、何よりも立場が弱い者達を戦場のアトラクションかのように扱うことに対して自身も一国の首相としてもし、これが自国民に行われていたらという立場を置き換えての考察を行った。

そこで彼はこの世界の一国のトップともいえる彼女の意見を尊重する形を取ることにした。


「なるほど。是非、我が国としましても議会などで論議した後に意見がまとまり次第、解放作戦に尽力したいと考えています。今村大将、このことは市ヶ谷防衛総省には報告していますか?」


『ええ。実は総理ならそう仰ると思い。仮装作戦の計画を……噂をすれば何とやらです」


「会談中失礼します。西條総理」


「谷岡防衛大臣……まさか」


「そのまさかです。大まかな説明ですが、転移後初めてのS特殊作戦群とレンジャーの投入になります。詳細はこの後に」


「谷岡大臣ありがとうございます……そして、今村大将。後はよろしくお願い致しますっ!!」


『総理、是非お任せくださいっ!!』


「それでは、こちらも段取りの方を進めていきたいと思います」


用意周到と言うべきだろうか。既に徴用とは名ばかりの非ヒト種奴隷化収容所の解放も兼ねてヤーベリの捕縛作戦まで仮想計画が本格的にスタートしていたのだった。

西條は二人の同胞が先人が本心からの解放を望んで第二次世界大戦(この世界線では一九五〇年に終結)に参戦し勝利した歴史を良い意味で繰り返す一員になってくれるということに感激する。

今村と同時に谷岡は戦争終結の第一歩を踏み出すべくそれぞれの持ち場へと戻っていく。


「感謝御礼申し上げますサイジョウ首相。続きましてこちらからもさらに三つ感謝したいことがあります。先ずは、我が王国海軍に譲渡してくれた戦艦ヤマト改め戦艦グランデ・ロマーナはラコ半島強襲上陸作戦で大いなる活躍を致しました。素晴らしい艦をお譲りいただき改めて感謝いたします。次に我が国内の鉄道路線における鉄道列車の提供や過疎化懸念地域のインフラ整備支援や人口呼び戻し政策の顧問派遣に感謝いたします。最後にこちらも軍の装備のお話になりますが。世代遅れしそうになっていた装備の発展型の製作及び技術支援をしていただき。我が国はどのように恩を返せばいいのか分からないくらい感謝することばかりです」


「いえいえ。我が国は貴国というこの世界で初めて出来た盟友に対する恩返しをこれからもさせていただきたいと思っています」


こうして更に両国の絆は深まる。イザルベライト二世が述べたように日本皇国はこれまでの歴史の歩みで乗り越えて来た社会問題を教訓にイタリ・ローマ王国でもかつて自国で起きた問題が起きそうな兆候があれば迅速に対処して問題を解決した。

あるいは困っている友に対して気軽に相談に乗るように兵器やインフラに関する技術提供を行っている。それに加えてイタリ・ローマ王国は快くこの世界の情報を詳しく日本に提供し続けるのであった。


「最後にイザルベライト二世国王陛下にお伝えしたいことがございます。私はこの世界に来る前を含めると十五年間首相の座に居ました。そろそろ任期というものが近づいており、後継者たる次期首相を選ばなければなりません。そこで私は……隣の中渕恵二官房長官を次期首相に任命することに致しました。なので陛下、この中渕恵二さんを是非歓迎していただきたく存じます。謙虚な姿勢ではもったいないくらい器量は大きい。損得勘定なしに問題に立ち向かおうとする素晴らしい人物です。そんな彼をおいて他に居ません」


「そ、総理っ?!私が次期首相とは一体……」


「畏まりましたサイジョウ首相。ナカブチ様……いえ、ナカブチ次期首相。私からもよろしくお願い申し上げます」


史実において池田勇人氏が後継者に佐藤栄作氏を指名したように、第九十九代内閣総理大臣・西條知之は今敢えてここで自身の後継者として官房長官である中渕恵二を記念すべき第百代内閣総理大臣に指名しする。

続けて彼女に対して彼の魅力を伝えると。彼女はそれを快諾し、中渕に対して期待と歓迎する姿勢を見せる。


「不束者ではありますが。後継者指名をいただいた以上、両国のために粉骨砕身努力する所存であります」


中渕の覚悟を決めたこの言葉を最後に極秘会談は終了した。会談終了後、早速西條は中渕に対して語りかけた。


「中渕さん。先程は驚かせてすみません。今の日本の政治には少しでも若返りが必要なのです。あなたは私よりも十五歳離れているし、さっきも言ったように器量もある。勿論、あなた一人にやれという訳ではありません。西條内閣の地盤を引き継いででもいいじゃないですか。谷岡さんのように頼もしい閣僚と手を取りあって愛するこの日本をこの異世界でも恥じない立派な国にしてくださいっ!!」


「西條さん……あなたがそこまで仰ったなら喜んで引き受けます。温故知新のもと先人の意志を汚すことなく。この日本皇国をより良い方向に導きたいと思います。しかし、与党の皆さんや野党の皆さんは賛成してくれるのでしょうか?」


「それなら。皆、中渕さん一択で固まっています。あなたに異議を唱える者は今は居ない。だが、様々な意見のすれ違いは避けられないでしょう。しかし、あなたなら必ずすれ違いという嵐に耐えることが出来る」


「………西條さん。お任せくださいっ!!」


二人の政治家は親友としての関係で語り合う。西條の情での根回しが上手くいったのか。与野党のご意見番たちの署名が書かれた紙を見せられ、中渕は覚悟を決めたのか。親友との別れやそれに対する感謝、自分の成長に思わず涙を流すのだった。

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