シャクシャクな話
モヤモヤとした心が続く私を、もしゃもしゃの向こうから観察していた後輩は口を閉めた瓶をダイニングテーブルに置くと、ダンボールから林檎を持ち上げてはまたすぐ置くということを始めた。
何回か繰り返してその中から二つ選ぶと、再び台所に戻ってきた。そしてまた、するすると皮を剥いていく。
最初と同じような綺麗な櫛形の林檎が、白い皿にこんもりと盛られる。
「今度は美味いと思います」
コトリと置かれた皿の爽やかな香りに誘われて、私はモヤモヤを一旦気付かなかったことにした。いそいそと席に着く。
「いただきます」
シャクっ。
小気味良く鳴る、生の林檎の食感。
最初に食べた林檎とは全く異なり、歯を立てるたびに爽やかな果汁が口に広がる。
シャクシャク、シャクン。
口いっぱいに爽やかで甘酸っぱい林檎の香り。
噛むたびに心地よく響く林檎の音。
後輩の言うサックサクの食感はよく分からなかったが、歯応えが良く、何よりとても美味しい林檎に手が止まらなくなった。
「あの……」
シャクシャク。
久々に食べるけど、生の林檎ってこんなに美味しかったっけ?!
「先輩、俺……」
シャクシャクシャク。
うーん、癖になるわ、この食感。アップルパイはよく食べるけど、それと比べられないこの瑞々しさ!
「先輩のことが……」
シャクン、シャクシャクシャク。
やばーい久々すぎて止まらなーい!
美味しー!!
「ずっ……す……」
シャクシャクシャクシャクシャク。
「……ん、
自分の鼓膜に林檎の音が小気味良いほどよく響いて、全く聞こえない。黙々と林檎を食べていた私は、後輩が何か喋ろうとしているのにやっと気がつき林檎を咀嚼するのをやめた。だが右の頬っぺたには、飲み込みきれていない林檎が少量、シマリスの頬袋みたいに詰まっている。モゴモゴと喋る。
それを見た後輩は一瞬詰まってから、ボソリと返した。
「…………いえ、食べ終わってからでいいっす」
「
シャクン、と私が口の中の噛み砕き頷くと、後輩は長い溜め息をついた。それから私の気が済むまで……もとい、林檎を食べ切るまで頬杖をついて静かに待ってくれた。
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