第26話『13日目♯』私の未練、私の後悔



その頃、牢の中で彼女、サエデは、自分の生涯を思い出していた。


何不自由ない、平凡で、幸せな家庭。

サエデと、姉と、彼女の両親は、それは穏やかな家庭を築いていた。

父と母と姉を愛し、父と母と姉に愛される。

決して、裕福とは言えない生活の中でも、その家族は、確かに幸せだった。


転機は、サエデが十歳の頃。

十歳の子供は皆、教会で、鑑定を受けてもらい、自分の属性を明らかにする。

が、サエデは驚くべき鑑定結果になった。

火、水、風、土、光、闇、身体、そのどれもに当てはまらない属性を持っていたのだ。


それは”時空”と言う属性であった。

しかし、この世界は、呪文が存在する魔法しか使うことができない。


もちろん時空属性に呪文は存在しない。

だから、サエデは魔法を使うことができない。


サエデの父や母、姉に、その事を言うと、笑って返された。


「そりゃ、別にお前に魔法で養ってもらおうなんて考えてないからな」


ハッハッハッハと笑う母と父に、救われた。

若干横目で引いてた姉もいたが…………


クスリと、独房の中で笑う。

あのころは本当に楽しかった。


そんな幸せが崩れたのは、そんな時だった。

何処からか、サエデが魔法が使えないと言う情報を聞きつけた村長が家にやってきたのだ。


「お前は、神様から、魔法を授けてもらえなかった能無しだとか」


その時、サエデはビクリと震えた。

この国では、属性が存在しない人はいない。

幼い頃に必ず鑑定を受けるので、国民の属性は、必ず記録されている。

たとえ、どんな子供であってもだ。

だからこそ、言い切ることができる、真実。

この世界に、魔法の属性を持たずして生まれてくる子供は、存在しない。

と言うよりも、主七属性を持たずして生まれてくる子はいない。


そんな中、生まれた、主七属性以外の属性を持つ子供。

だが、呪文なんて誰も知らないので、魔法を使うことは絶望的だ。


「そんな、神から見放されたお前に、良い仕事がある」


村長が、少し下品な笑みを浮かべる。


「そう、『竜の巫女』だ」


竜の巫女。

サエデは、村の伝承で聞いて知っていた。

今までに、何十人と生まれて、

今までに、村を何十回と救った、伝説の巫女。

村では、伝説となっている。


「私なんかが、そんな『竜の巫女』になっていいんですか………?」


サエデは、恐る恐る尋ねる。


「あぁ、もちろんいいとも」


それを聞いた瞬間。

家族は、喜びに包まれた。

「おい、やったな、大出世だぞ!」

「良かったわね………」

「お姉ちゃん、誇らしいわっ!」

みんなで、手を取り合って喜んだ。


その後の一言を聞くまでは。


「お前の仕事は、『竜の巫女』として、竜に捧げられることだ」


場の空気が、凍りつく。


「それは………生贄ということですかね?」


サエデの父が聞く。


「まぁ、そういうことだ。お前は村の10年の安定した豊作のためにその身を捧げるのだ」



………その日から、サエデ達の生活は、変わってしまった。

父は、何度も何度も村長の家へ直談判しに行ったけど、

のれんに腕押し。全く意味がなかった。

サエデが、『竜の巫女』になってから翌日には、サエデは

村の若い人たちに虐められるようになった。

「なんで、魔法もなんの取り柄もない、お前が『竜の巫女』なんだよ!」

そんな風に罵られ、サエデの心は深く傷ついた。

ーーーあげれるもんなら、あげるのに。



そんな生活が始まって、一月。

父と姉が失踪した。

書き置きには、「ビッグになって、戻ってくる!」とだけ残し、

サエデと母を置いて消えた。

いじめはさらにエスカレートした。

そこで、母は、村長に、サエデを村から出してくれるようにお願いしに行った。

………流石の村長も、生贄に、死なれては困るのか、許可を出してくれた。

「いいか。お前が十五歳になる誕生日の前日までに戻ってこいよ。

さもなくば、お前母親は、どうなるか………」

そう言って、村から出発し、5年。

王都では、充実した生活が送れたとサエデは思う。


5年前は、自分の定められた死という物に、怯えも有ったが、

今では、すっきりしている。

ーーーもう、今世に未練はない。来世に期待してみよう。

と。


そんな時だった。

彼女達と出会ったのは。


「岩だけに、お祝い、なーんて……」


サエデは気づけば笑っていた。

それは、彼女にとっては、5年ぶりの、本物の”笑い”であった。

家族一緒に生活していた時の、あの笑顔。

それはどこか、諦めていた、サエデの心の内に、光をもたらした。


気づけば、馬車の人と、打ち解けていた。

職場の先輩に教わった話術が、功を奏したのだろうか。

いや、きっかけは、彼女であった。

サエデの人生に、再び、光をもたらしてくれた存在。


「それでは、さようなら〜!」


「じゃあ、また機会があったら〜!」


手を振りながら、お別れの言葉を告げる。

ふと、名前を聞いてないことに気づく。

ーーーそうだ、名前。

振り返るが、もう彼女達は、遠くにいた。

ーーーまた会いたかったなぁ。


馬車は、その先へと進んでいった。



「まさか、馬車が止まるとは思いませんでしたがね………」


牢屋の中で、一人呟く。


「でも、再開出来たのは、幸運でした。

あの二人の奇想天外な旅路。

………できれば、もう少しだけ、お供したかったです」


翌日、彼女の十五歳の誕生日には、彼女は、『竜の巫女』として、

竜に、捧げられる。


もう、未練も、後悔も、


………何もないはず、だった。

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