第25話『13日目①』生きるための贄



サエデとともに、馬車で旅立ってから、3日。

始の月15日。


サエワイン村の前に到着した。

ここまで二つの村にも寄ってきたが、これといって変わった点もなかったので割愛させていただく。

三日間も馬車に乗っていれば流石に慣れるのか、アルは景色を楽しめるぐらいにまでは成長した。


「いよいよサエワイン村か」


「……はい……」


ただ、少し気になるのは、サエデの表情だ。

村に近づくたび、少しずつ、悲しい感じが表情に強く現れるようになってきた。


「………サエデ?大丈夫?」


「…え!大丈夫です!」


でも私が聞いても、「大丈夫」と返されるので、「大丈夫」なのかな、と思ったりもする。


「いよいよですね。

………ここまで、ありがとうございます」


「どういたしまして。こちらこそ、ここら辺の地理には疎かったから、案内役、助かったよ」


私はそう言いながら、村の入り口へ入っていく。

すると、村の人々が、たくさんこちらの方へとやってきた。

………何やら、物々しい雰囲気である。

やっぱり、コミュニケーションは、挨拶からっていうし、挨拶をしてみよう。


「こんにちはーっ!」


「………サエデ、そこにいるだろう。出てこい」


「はい………」


私の挨拶は華麗に無視され、人々の中でも年長の男がサエデに声をかけると、

サエデが馬車の中から顔を出した。


「ちょっと無視するなんて酷いじゃないですか!

人と人との交流の始まりは挨拶からですよ!」


「………他所もんが」


「………村長。彼女達は私をここまで送ってくれたんです」


サエデがそこまで言うと、周りの村人達が怒鳴り始めた。


「こん村が他所もんにどれだけ傷つけられたか分かってんのか!」


「そうだ!他所もんは、さっさとこいつを置いて、出て行け!」


何やら、この村では、過去に何かがあったらしい。

どう考えてもまずい雰囲気だ。


「どうしようか、アル」


私は後ろのアルに声を掛ける。


「そうだな………もう少し我慢しよう。もう少し情報を引き出すんだ」


「わかった」


私は目線を村長に向け直す。


「この村では、過去、何かがあったんですか」


「お前らが知る必要など無い。こいつを連れてきた事は感謝するが、さっさと出て行け」


「村長!」


「お前が口を聞ける立場か?おい、こいつを牢に連れて行け」


村長が、村人に指示すると村人の中でも屈強な二人が、サエデの腕を引っ張ろうとする。


「………一人で歩けますよ」


その腕を払い、立ち上がり、男達についていくサエデ。


「サエデ!」


私は叫ぶが、サエデは振り返らずに告げた。


「すみません。ここまで送ってきてくれて、ありがとうございます。

………御元気で」


「サエデ!」


「リアリ!」


サエデを追いかけようとしたが、アルに止められた。


「ここは一旦引いてくれ。ただし、ゆっくりと引いて、行ってくれ」


この状況がよくわからない今、取り敢えず引くのが正解な気がする。

それに、アルは何か策があるみたいだ。

私は言う通り、ゆっくりと、馬車を引いて去っていく。


私たちが来た道を戻ろうと村に背を向けた途端、村の人々は解散したようだ。

人の歩く音と、ヒソヒソとした話し声が聞こえる。

暫く、ゆっくりと歩いていくと、アルから、


「今度は、村が見えなくなるまで、離れてくれ」


と言われたので、スピードを上げて、村から離れた。

やがて、村が見えなくなった所で、馬車を止めた。


「………アル。あの村の異様な雰囲気はなんだろう?」


「………分からない。だが、味方をしてくれそうな人を見つけた。

準備して、今夜、忍び込むぞ」


「OK。分かった」




夜。草木も眠る、丑三つ時。

私達は再び、村を訪れ、目的の家へと忍び込んだのだった。







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