第23話『11日目』ヒイラギ村での一コマ



「では!昨日はありがとうございました!皆さんお元気で!」


「「「またのお越しをお待ちしております!!」」」


翌日、11日。

朝起きて、身嗜みを整えて、次の村へ出発するために王都サンストリアランドを後にした。


見送りは大勢だった。

なにしろお客が少なく、今月に入って初めてのお客だったらしい。

幸い、維持費はそこまでかからず、もともと自給自足ができていた村だったので、

食糧、と言うか賃金も問題ないらしい。


もう少し人気が出ないかのぉ、と呟いていたサムさんに、きちんと宣伝する事を告げ、

次の村へと歩き出した。


歩き出したのである!


「ねえ、アル。もっと楽に移動できないの?」


私は遠く後ろを歩いていたアルの元に駆け寄った。


「そんな事言われても………」


「だって!アル、歩くのが遅いじゃん!」


「………いや、リアリが早過ぎるんだよ」


確かに、歩き始めて十分で100メートルも差が出るのは早過ぎかもしれない。


「でもね、やっぱりさ、急がないとじゃん」


アルは腕を組んだ。

じっと何かを考えているようだ。

そして、アルは、何かを思いついたらしい。

アルは周囲を見回し、誰もいないことを確認してから、右手を突き出した。


「創造」


アルがそう言った瞬間、目の前に巨大な馬車が現れた。

木製の重厚な馬車だ。

屋根も綺麗にできていて、雨天時でも、全然使えそうなやつだ。


「うぉぉ!凄いじゃん、アル!こんなことが出来るんだったら、最初からすればいいのに……」


「いや、ダメだな」


「え?」


アルは横に首を振った。


「こんな馬車、引く方法がない。………残念ながら俺には生物は作れないしな。

まぁ、ゆっくりと行こう。幸いにも時間はたくさんあるしな………」


アルは馬車に向かって魔法を放とうとする。

が、私は慌ててアルを止める。


「ちょっと待ってアル!」


「どうした?リアリ」


「引く方法ならあるよ!………私の魔法、忘れた?」


「………へ?」




そう言ってから二十分。

私とアルは、次の村へと到着していた。


「………おい、俺を殺す気か………」


アルは青ざめている。

前々から思っていたが、アルは乗り物に弱いのだろうか………。

ただ私が身体強化フル活用して馬車を引いただけなのに。

………多分音速よりは遅かったと思う。


「………大丈夫?」


「………ギリギリ」


良かった。ギリギリセーフみたいだ。

私は馬車を引きながら、ゆっくりと次の村へと入っていく。

確か、この村の名前は………


「ヒイラギ村だったよね」


「ああ、そうだ」


ヒイラギ村は、大規模な農耕をしている村だった。

村の周りにも、汗を拭いながら、農作業をしている人たちが沢山いた。

若干、私を見て、唖然としていた気もするが、見なかったことにする。


………というか、現在進行形で、注目が集まっている。


「おい………、リアリ………俺、女の子に馬車を引かせている、最低男じゃないか………?」


「大丈夫だって。…………おそらく」


そんな中、ようやく今日の宿を見つけた所で。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん!なんで、お姉ちゃんが一人でクルマを引っ張ってるの?」


ついに、純真無垢な子供に、質問されてしまった。


アルは、すごくあたふたしている。


「あ、いや、これは、その………」


「お母さんがね、ずっと家にいるお父さんを、ひもって言うんだ。

お兄ちゃんもそうなの?」


私は吹き出した。

後もう少しで宿だっていうのに、力が抜ける。

………めっちゃお腹が痛い。


「おい、リアリ。さっさと行くぞ」


アルが後ろから、なにか言ってくるが、今、動けない。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは、『ひも』なの?」


私はもう耐えきれず、声に出して笑う。


「アルっ………。ヒモっ……!……ククッ」


「おい、リアリ………お願いだから………」


アルが半分涙目になっているのを見て、

お腹を抱えて、地面を転がる。


「アルがっ、ヒモっ!もう無理っ、これ笑うしかない!」


周囲の人たちも集まってきて、噂している。


「女の子を文字通り馬車馬のように働かせて………」


「………最低」


アルはもう恥ずかしさで顔を真っ赤にして、


「リアリっ!もうあとは俺がやるから!もう馬車の中に入ってくれ!」


私を持ち上げて馬車の中に放り込み、なけなしの身体強化で、ゆっくりと馬車を宿の横に止める。

そうして私を抱き上げて、ダッシュで宿の中へ駆け込んだ。


その間、私はずっと笑っていた。




がしかし、笑えないような事態に、すぐさま直面することになってしまう。


そう、宿の部屋が、二人部屋一つしかなかったのだ!


「すみません………」


申し訳なさそうにしている受付の人。

私とアルは、顔を見合わせた。


「どうしようかな?」


「………俺が外で寝るよ」


アルがそう提案してきたが、それは絶対に飲めない提案である。

こんな二人旅だが、アルは一応、王太子である。

そんな人を、部屋があるのに、野宿させるのは流石にまずい。


「いや、いいよ!私が野宿する」


「いや。さすがに女性を外で寝かせるのは危険すぎる」


アルも譲ってはくれない。

流石に受付前で、この頓着状態。


「もうっ!すみませんが、もう二人で同じ部屋に泊まってください!

受付の前にずっといるのは流石に迷惑です!」


「「えっ」」


受付の人からの衝撃の一言に固まる私とアル。


「はい!分かったら、さっさと部屋へ行ってください!異論は認めません!」


鍵を放り投げる受付の人。

鍵を受け取ったはいいものの………


「………とりあえず、部屋に行こうか」


「………あぁ」


二人で、宿の部屋に向かおうとした後ろで、受付の人が、


「夜ご飯はここの隣で食べられますからねー!」


と言っているのが聞こえた。


アルと二人で、かぁ。





夜ご飯は、まさに、特産の物を生かした、非常に美味しいご飯だった。

アルと私は、三回もおかわりしてしまった。

芋のコロッケや、焼きとうもろこし。

デザートには、メロンが出てきた。


「やっぱり、新鮮な物っていいよな〜!」


「だね!」


素材の味を生かした味付けに、ほっぺがとろけそうだった。


そして、寝る時間が来てしまった。


こっそりと宿の外へ行こうとしたら、受付の人に笑顔で「お二人で、寝てくださいね!」

と言われて部屋までもどされてしまった。


部屋の扉を開ける。


「………なぁ、本当に大丈夫か?男と一緒に寝るなんて………」


アルは不安げだ。


「それは大丈夫だよ!だって私、強いし!」


私は右腕を出して力こぶを見せる。


「そうか………」


アルはベッドに潜り込んだ。


「おやすみ………」


「おやすみ」


と目を瞑る寸前。


「あっそうだ。闇の想像で睡眠魔法を使えば良かったんだ」


今まで全く思いつかなかった。

と隣のアルを見ると、スゥスゥ眠ってる。

考えるだけ、無駄であった事を痛感した。

これだけ早く寝られるんだったらべつに良いじゃん。


私は目を閉じた。


途中目が覚めて、一度お手洗いに行ってから寝た。

ベッドが暖かい気がした。























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