第21話『10日目①』旅行は計画的に


神歴28年、始の月。10日。あれから21日が経過した。


新年になり、何にも考えずグダグダとしていた所に突然アルが家にきた。

そして今父の執務室で、私と父と、アルの3人で、


「娘さんを暫くお貸しください!」


「嫌だ!」


「………これ、なかなかいけるな………」


と、三者三様の自由奔放さで話し合いは停滞してしまっている。


父は私を家から出したく無い(しばらく一緒にいたい)

アルは私と旅がしたい(私を家から出したい)

そして、私はというと。

アルが手土産に持ってきた、ケーキをパクパク食べていた。

正月にも、おせちを二箱を一人で食べたのだが………

最近、食いしん坊キャラみたいになっているが大丈夫かなぁ、とも思ったが、やっぱりもぐもぐと食べていく。


まぁ、普通に美味しい物があるこの世界が悪いんだし………


「「で、リアリはどうする!!」」


ようやくケーキを食べ終わった頃、父とアルが同時に聞いてきた。


「ん〜、私はね………」


私の答えを固唾を飲んで待つ二人。


「このままグダグダしてるのも不味いし運動しなきゃなーって。

だから、アルについて行きたいんだけど、ダメ?お父さん」


私が上目遣いで、お願いすると、それにノックアウトされた父は


「いいよ!」


と鼻を抑えながら言ってくる。


「ありがとう、お父さん!」


そして私が笑顔で父にお礼を言うと、


「リアリのためだ!行くがよい!

………ちょっと急用が………」


と部屋を出て行った。

部屋の外の方で、「キャアアア!!旦那様、鼻から血が!」とか聞こえてくるが、聞かなかった事にしよう。


「それじゃ、行こうか!」


「………あ、ああ」


若干顔を引きつらせてアルは答えた。




いよいよ準備完了。

歯ブラシも、枕も、お弁当も持った。

大きな大きなリュックサックに背負い、家を出て行く。

がしかし、家から出てきた私を見るなり、アルは


「全部置いてこい」


とか言ってきたのである。


「いや、でも、お弁当も歯ブラシも大事………」


「こっちで準備するから!」


「枕が変わると眠れない………」


「じゃあ、枕だけ持って来い!」


そうして私の荷物は、

私愛用の身の丈ほど(1m60、70cm)のトゥーハンドソード

マイ枕(これが変わると眠れない!)

取り敢えず杖とローブ。

だけになってしまった。


それらの内、枕と杖とローブを小さなリュックサックにしまい、

剣は背中に背負う。


そして私は家から出てきた。

外では、母と弟、そして、しゅんとして身が小さくなった父と執事長さんとメイド長さんがいる。

小さくなった父に何があったのか知りたいが、母が不穏なオーラを纏っているので止めておいた。


「それじゃ、みんな。行ってきます!」


若干青ざめているアルの手を引っ張り、家を後にした。



「ねぇ、まずどこに行くの?」


私がアルにそう聞くと、若干青ざめた顔も落ち着いてきたアルが答える。


「えーと。まず、今回は北の方へ行こうと思ってるんだ」


「へぇ。北の方って何があるの?」


「そうだな………北の方の名産は、牛を使った料理が有名らしい。

牛乳や、牛の肉を使った料理は、凄く美味だとか」


「それは楽しみだね!でも、どうやって行くの?」


「歩きだ!」


アルは、満面の笑みで答える。


「えっ、嘘………」


私が猛烈に嫌そうな顔をすると、


「………嘘だ、冗談!な訳ないだろ?」


「………いや、本気だったでしょ」


「そんなわけ………」


「きちんとこちらを見て物を言って!」


顔を逸らし、どこか遠くを見ているアルに言う。


「………いや、だって安上がりだし」


「だってもこうもない!とにかくちょっとお金はかかっても、馬車を使うよ!」


「はい………」


私とアルは馬車乗り場へと歩いて行く。



馬車乗り場に到着すると、そこにはちょうど出発寸前の馬車があった。

私はその馬車に駆け寄り、


「すいません!載せてください」


と御者の人に声をかける。

幸いにも、気の良い人だった様で、


「あぁ、良いよ。どこまで行くの?」


「えっと、風の吹くまま気の………」


「違います!!トナリノ村までです!」


アルが即座に訂正を入れてきた。


「ハハハ。じゃあ、乗ってね」




ガタゴトと揺れ動く馬車の中。

馬車の中を見渡すと、男の人が一人、少女が一人と人数が少ない。


「意外と少ないんですね」


御者さんにそう告げると、


「まぁ、北の方って牛しかいないって言われるからね」


「へぇ〜、そうなんですか」


会話が途切れる。

………沈黙がキツイ。

周りを見渡して、会話の素材を探そうとする。


「ねっねえ!アル、あそこに岩があるよ!」


「………だからどうした?」


「岩だけに、お祝い、なーんて………」


馬車の温度が数度下がる。


「リアリ、それは酷………」


「………岩がお祝いっ!………!!」


声のした方へと振り向くと、そこには腹を抱えて大笑いしている少女がいた。

やがて、それが落ち着いてきた頃、少女は私の方に来た。


「お、お願いしますっ!さっきの素晴らしいギャグとは違った物をもう一回!」


「え、ええっ!?」


私はビックリして、もう一度問い返す。


「さっきのやつ………?」


「はい!」


私はアルの方を見る。

アルは他人のフリをしている!

私は御者さんの方を見る。

御者さんは真っ直ぐ前を見ている!


………誰も助けてはくれないみたいだ………。

しょうがないので、周辺の草原を見回す。


「ん〜え〜と、あの草腐ってる?」


それを言った途端、再び馬車の中を転げ回る少女。


「草、草、腐ってるって……!もうやめて、お腹が痛いです!」


周囲の皆さん、とても暖かい目で私と少女を見てくださっています。

逃げ場のない視線に、そっと小さく丸まる私。

笑い終わった少女が、話しかけてくる。


「あの………大丈夫ですか……?」




数分後。


「いや、ですから、やっぱり面白い物は、万人にウケるべきだと思うんですよ!」


「いやなぁ、君。さっきの奴はちょっと………」


「うん、さっきのリアリのギャグは酷かったと思うぞ」


馬車の中はみんなの声で賑やかだ。

さっきから無言だった男の人も、少女と笑いについて語り合っている。


「いいですか!じゃあ、私の面白い話を聞いてくださいよ!」


「分かった分かった。聞いてやるから。ほら、そこの二人も」


「「私(俺)も!?」」


「当然だろ?」


少女は語り始めた。


「えっと、これは私が小さい頃、本当にあった話なんですけど………」


「それって怖い話のスタートの仕方じゃない!?」


最初から、不安になってきた。


「まぁ、聞いていてくださいよ。


ある時ですね。王様に呼ばれた商人がいたそうなんですよ。


その商人、昔からあくどい事をしてお金を儲けているって言う噂があってですね。


王様はその人の正体を暴こうとして、王宮に呼んだそうなんですよ。


その商人たら、そんなことはつゆ知らず。


王宮に駆け足で行っていろいろな商品を見せて、売ろうとしましたよ。


でも王様、この人があくどい商売やっているって知っているので、見向きもしません。


そこで商人、懐から、怪しげな薬を取り出します。


王様、これは来た!と思いましたね。


王様は商人にこれはなんの薬かと聞きます。


商人は、これは薬だと言います。


飲んだらたちまち病気が治ると言うのです。


王様、しめしめと思いながら、それをお買いになりました。


王様は商人にこの薬が効かなかったら、お前の命はないぞと脅します。


商人は王様に王様が私にあくどい商人と言わなければこの薬は効くと答えます。


商人が作った薬なので、商人の悪口を言うと、そっぽを向くと商人は王様に告げました。


王様は納得したふりをして、商人を帰しました。


しかし商人は、毎日王様の元へ訪れます。


王様の様子を確認したいと言うのです。


雨の日も風の日も、王様の娘の誕生日も、王様の息子の友達の親のおじさんのそのまたおじさんが亡くなった日も、商人はあらわれました。


毎日毎日訪れ、調子はどうですか、と同じことを問いかける商人に王様はついに呆れて、


『あぁ、くどい。お前はくどい商人だなぁ』


と言いました。


商人、それを聞きますともはや薬は効かぬでしょうと告げます。


何故だと聞く王様に、商人は私の悪口を言ってしまったからですと商人は答えます。


怒った王様は、商人に向かってこう叫びます。


『この、あくどい商人め!』


すると、商人は笑顔で振り返り、告げました。


『ええ、私はみんなから、あぁ、くどい商人だとよく言われます』


………おしまいです」


馬車の中はしんとしている。

すると突然アルが、


「リアのものより全然良かった!」


と言い始めたのをきっかけに、


「さっきの女性とは、比べ物にならないね!」


「あぁ、さっきの女性より面白かった!」


とみんな拍手をし始めた。

が、どうしても腑に落ちない点がある。


「みんな、どうして私のギャグと比べてるのー!?もうちょっと配慮してよ!」


「だって、リアのやつよりこっちの方が面白いのは事実だろ?」


キョトンとするアルに私はガックリ肩を落とす。


「確かにそりゃそうだけどさ………」


「っと、話している途中で、もうトナリノ村に着いたんだけど、君たち、降りるよね?」


御者さんが、私たちに聞いてくる。


「あ、はい、降ります」


私達は御者さんと、馬車の人たちに、お別れを告げ、馬車を降りる。


「ありがとうございました!」


「こちらこそ。また機会があったらね」


「それでは!」


馬車は先に進んでいく。

少女は私達に向かって手を振っている。


「それでは、さようなら〜!」


「じゃあ、また機会があったら〜!」


馬車は、だんだん遠くへと進んでいき、見えなくなっていく。


「………じゃあ、行こうか!」


「ああ!」


私達はトナリノ村へ、意気揚々と入っていった!















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