第20話『9日目②』ショッピングデート
「ごめん、待たせたな。もう準備は完了だ」
十分後、再び降りて来たアルは、少し貴族の坊ちゃんっぽい感じの高めのジャケットに、スラックスを身につけて登場した。
「アル………」
「な、なんだ、リアリ?」
「貴族感丸出し………」
まんま貴族である。
本当にお忍びの貴族にしか見えない。
「ええっ、でも、これで町に行っても怪しまれないし………」
「そりゃ、暖かい目で見守られてるのよ」
「そんなぁ………」
がっくりと肩を落とすアル。
「……まぁ、いいから行こうか。今日、アルにちょうどいい服も探すよ……」
さっと顔をあげるアル。
「本当に!?いいのか!」
「いいよ、どうせついでだしね」
「サンキュー、助かるわ」
笑顔で言うアル。
「で?使いたい魔法ってなんなんだ?」
「いや、ここの壁さ、ここだけ土じゃん」
「あぁ、そういえばな。後で直しとこうと思ったんだが………」
「お願い!ここはこのままで!」
「どうしてだ?」
「それは見てのお楽しみだよ」
私はアルの手をひっぱって、壁の方へと導く。
さっきのお返しだ!
「おい!?壁にぶつかる!?」
思わず目を閉じるアルには一切構うことなく進んでいく。
壁の土に触れると、私の魔法が発動し、目の前の土が消えてしまった。
そして私はズンズン先へと進む。
しばらく歩くと、ようやく目を瞑っていたアルが、目を見開く。
………上手いこと言うな、私。
「此処、どこだ!?」
「土の中に決まってるじゃん。見てなかったの?アル」
「いや、見るも何も、壁にぶつかって………」
「そろそろ上の方へと行きま〜す」
「え、ちょっと待って!」
アルの制止の声も一切聞かず、そのまま土の中を斜め上に進んでいく。
しばらくして、光が差して来た。
「おぉっ!地上にご到着〜」
「………此処は裏の山じゃないか………」
「どう?結構凄いでしょ」
アルの驚いた表情をみて、私はとても満足する。
「じゃあ、城下町デート行こうか!」
「で、デート!?」
「え?そんな話じゃあなかった?今回のタイトル」
「何の事を言ってる?………まぁ、何でもいいか。じゃあ、街まで競争と行こうか!」
「あ!待ってよ!アルー!」
私とアルは駆け出す。青い空に光り輝く太陽。
まだまだ日は高い。目一杯遊べそうだ!
城下町に来た私たちは、取り敢えず、アルの服を買いに、男物の洋服の専門店へ行く。
「いらっしゃ〜い」
あまり覇気のない店員さんの声。
少し古びた店内には、沢山の服が置いてある。
「………なぁ、俺はこの中から、服を選ばなくちゃならないのか?」
明らかに、古ぼけてしまった店内にアルの悲しそうな声が響く。
「これなんていいんじゃない?」
店内に入ってすぐに目に入った服を、アルに勧めてみる。
トゲトゲが肩についた革ジャンだ。
「………お前は俺の事をなんだと思っている」
「ん〜、世紀末的な感じのなんか」
「………絶対にそれは着ないからな!」
「あっそ」
私は革ジャンを定位置に戻す。
続いて私が手に取ったのは………
隣国の言葉が書かれたTシャツだ。
「これなんてどう?ほら、隣国語って感じがカッコいいんじゃない?」
「………この服、大丈夫か………?俺、こんな事が書いてある服で街を歩きたくない……」
「………ばれたか……」
「流石に隣国語は習得済みだよ!」
私はTシャツを元に戻す。
そして、また新しいのを取って来た。
「これならどう?」
「これなら………」
ようやく、アルはその服を手に取って自分に合わせてみる。
「どうだ?」
「うん!似合ってるよ」
少し古ぼけたシャツだったが、取り敢えずアルの服としては最適だ。
「すいませーん!これください!」
お金を払って店を出る。
「ごめんな。代わりに出して貰って……」
アルが申し訳なさそうにさっき買ったシャツを着てついてくる。
「だって、アル、普通に貴族の使うお金出しそうだったじゃん。それだと貴族だってバレバレ」
「リアはなんでこの服にぴったりの金額を持ってるんだ?」
「それは乙女の秘密というやつよ!」
私はアルにウインクをした。
しかし、アルは一切合切を無視して
「もしかして、なんか仕事してる?」
とか言ってくる。
…………なんでここで正解を言い当てるのだろう………
「………そうだけど、何か問題でも?」
ちょっと不機嫌になって答えると、
「あ、いや、ゴメン」
苦笑いで返された。
気を取り直して。
「さぁ、次、行くよ!」
私はアルの前を歩いていく。
「ちょっと、置いてくなよ〜!」
アルも、慌てて後ろをついて来る。
「でさ、ここが今人気の食堂らしいのよ」
「………それとこれになんの関係が?」
私たちは今、巷で人気の食堂に来ていた。
店外からでもわかるそのジューシーな肉の香りに、少しよだれが………
「ここで、お昼食べよ?」
つぶらな瞳でアルにお願いをする。
「………良いよ」
やれやれと言った感じでアルはうなずく。
私とアルは、そこでお昼を食べた。
まぁ、そのお店のお肉の美味いことと言ったら!
淡白な唐揚げと、ジューシーなステーキ。
付け合わせのポテトやらサラダやらの味も最高だった。
私は無我夢中で食事をしていた。
目の前でアルはすごく暖かい目でこちらを見ていたことにも気づかずに………
「はぁ〜。食べた食べた!」
「お前、太らないのか?」
「私、太らない系女子なんです〜!」
私は生まれてこの方、太った事がない。
多分、食べるのと同じくらい、動いているからだと私は考えている。
そして私は再び店員に注文をする。
「すいませーん!デザートの『アイス』というやつを!」
この店に来た最大の目的である。
この店では、冷えたアイスクリームが食べられるという噂を聞いたのだ。
「はーい!」という店員さんの声がして、十数秒後。
アイスが出てきた。はやっ!
どうやら、もう作ってそのまま保存しているらしい。
非常に高いものだから、誰も頼まないとか。
私は、アイスを一口食べる。
口の中にアイスを入れると、ホロリとアイスの甘味が口一杯に広がっていく。
めっちゃ幸せの味がする。
目の前のアルも、すごく食べたそうだ。今にもよだれが垂れそう。
「アル?食べる?」
「………い、いやっ!別にいい」
「ほらほら、遠慮せずに〜。はいっ、あ〜ん」
「っ!?」
「どうしたの?食べなきゃ溶けちゃう」
アルは顔を真っ赤にし、そして覚悟を決めた表情で、パクッとアイスを食べた。
アルの顔が緩んでいく。
とっても幸せそうだ………。
私は、残りをひょいひょい食べていく。
………途端、幸せそうだったアルの顔が、再び真っ赤になる。
「どうしたの、アル?まだ食べたかった?」
「い、いや。そ、そのスプーン………」
スプーン?スプーンがどうした、って!
………そういえば今さっきアルがこのスプーンでアイスを………
それに気づいた途端、私の顔は真っ赤になった。
二人とも、顔から湯気が出る思いをしてしまった………。
会計の時、店員さんから、「初々しいですね」とか言われるし!
その後、いくつかの店を回り、色々な物を買った後、噴水の前のベンチに腰掛けた。
「いや〜。買ったね〜」
「あ、あぁ。疲れた〜」
ベンチにグダーッと寄りかかるアル。
「ふふっ。お疲れ、アル。サンキュー。買い物に付き合ってくれて」
アルは、私の買い物中、ずっと横にいて、私に付き合ってくれた。
服を選ぶときにも、「この服どう?」と聞いた時は、必ず、きちんとコメントを返してくれた。
「それじゃ、そろそろ帰ろうか!」
私がそう言うと、アルが、「ちょっと待って!」と引き止めてきた。
「どうしたの、アル?」
「いやさ、これ………」
アルがそっと渡してきたのは、指輪の付いた、ネックレスだった。
「何、これ?………」
「いや、これは、婚約指輪で………リアリにきちんと渡せて無かったから………」
私は受け取ったそれをまじまじと見つめる。
そして、酷く申し訳なさそうに、そして顔を真っ赤にしているアルに、自分の顔も真っ赤だろうなぁ、と思って笑いかける。
「ありがとう」
私は、そのネックレスを首にかけて、そして、二人で帰路についた。
………こんな時間を大切にしていきたいなぁ〜って。
私はそんな事を思うのであった。
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