第19話『9日目①』楽しき逢引
神歴27年、忙の月。20日。前の日から5日後だ。
………ようやく、ズボンの許しを得た。
今年中は無理そうかな、とは思っていたのに、まさかこんなに早く許可されるとは思わなかった。
母曰く、「まぁ、いいでしょ」とのことだ。
………まさか、ドレスでも高速移動する練習を廊下でしていたのがバレた?
まぁ、それは置いといて。
今日は、王太子殿下が、直々に婚約者様を迎えに来るらしい。
………つまり、アルが私をデートに誘った、というわけだ。
一応、まがりなりにも王子なので、公爵家である私は、非常に大切な用事がない限り、
サボれない。
………まぁ、十中八九何かあるのだろうと思うので、断らないが。
そうこうしているうちに、王太子専用の馬車がやって来た。
王太子専用の馬車は、とてつもなく煌びやかだ。
あちこちに、金や宝石が散りばめられている。
そして、その馬車の扉が開くと、中から、さらにキラキラした人が出てきた。
アルその人である。
キラキラした笑顔を放ちながら、玄関の前に立っていた私の方へと歩いてきた。
私の隣には、一応、公爵家当主であるうちの父も立っている。
「おはようございます、リアリ公爵令嬢、サボス公爵。
本日はお日柄もよく………」
「………さっさと娘を連れてどこへでもいくが良い」
アルが、定型文を話していると、うちの父、サボス公爵はかなり不機嫌な表情で
その言葉を遮った。
「え?ですが………」
「いいから、早く行け!」
そう言われたアルは慌てて私を連れて、逃げるように馬車に乗り込み、馬車を出発させた。
「ふぅ。………おい、あれはなんだ?王太子に向かってあの態度は不味くないか?」
アルが少し怯えた感じで真正面に座る私に言ってくる。
「いや、流石にアルの方が悪いよ〜。………此処が私的な場だったから尚更ね」
「俺が何をしたって言うんだ!」
「5年間ずっと婚約者を放置」
「あぁ………」
アルがかなり納得したような表情になる。
「そりゃ不味いな………」
「うん、とてつもなく不味いね」
「どうすれば良い?」
「アルにはどうしようもない。
………私が今回のお出かけを、楽しかった!とうちの父に言えば、かなり収まるんじゃないかなぁ」
「ぜひそうしてくれ。頼む!」
アルが、頭を下げてくる。
「いや、頭下げられても、そんなにアルの頭下げるのに価値ある訳じゃないし………」
「それはひどくないか」
「でも、取り敢えず、楽しかったら、楽しかったって言っとくよ。
で?今回はどんな話?」
「今回は、俺の秘密基地を紹介しておきたいと思う」
「秘密基地!?」
私は、アルに詰め寄る。
狭い馬車の中なので、かなり距離が近くなる。
「お、おい、ちょっと近い………」
「秘密基地ってあの!?」
「………もしかして、秘密基地大好きか?」
「もちろん!」
昔っから、秘密基地は大好きだ。
「秘密」という言葉にかなり心惹かれる。
だから、いろいろ作ったものだ。
領地の近くの森。
家の庭。
家の地下室。
………その全てが、発見され、殆ど取り壊されたが。
「これは、ほんとに内緒で頼むな。
………そういえば、その魔法の事、誰かに言ったか?」
「分かった、内緒にしとくね!
魔法の事は、シュテにバレちゃった………」
「シュテって、もしかして、シュテリーゼ公爵令嬢か!?」
「うん………」
「………大丈夫なのか?その人は」
「絶対大丈夫!私とシュテは大親友だから!」
「わかった。お前の友情を信じよう。………とりあえず」
馬車が止まった。
ついに着いたらしい。
私は待ちきれず、扉を開ける。
そこには!
………以前私の侵入した王国の象徴とも言える王城があった。
「アル?どういう事?」
私はアルの方を振り返って言う。
「いや、うちの地下にあるんだ」
私は手を叩く。
「なるほど」
そうして、アルに案内された、その先には、大きな大きな扉があった。
「アル?ここって………」
「あぁ、王の間だな」
「な、ん、で、よ!」
「いや、この先にあるんだ。いいからついてこい」
アルはそう言って大きな扉を開けた。
私はそれについていく。
幸い、会議中か何かだったようで、王の間には、誰もいなかった。
アルは、玉座の後ろへ回り込み、そのまま奥の方へと進んでいく。
しかし、その先は………
「アル、壁だよ?」
アルは私が止めるのも構わずに壁に向かって歩いていく。
あっ、壁にぶつかる!
私がそう思った瞬間。
アルは壁をすり抜けてしまった。
「幻だ。さっさと来いよ」
アルは、再び壁から顔を出して、そう言うとそのまま行ってしまった。
私も慌ててそれに続く。
壁の先には階段があり、それを降りていくと、扉があった。
アルが扉に手をかざすと、扉は横にスライドして開いた。
「紹介しよう!此処が俺の秘密基地だ!」
まるで宝物を紹介する少年のような顔で自慢げに部屋を見せてくれるアル。
沢山の武器。
そこそこにフカフカそうなソファーやベッドもある。
でも、やっぱり一番目を引かれるのは、
真ん中にあるテーブルと巨大な地図だった。
「これは何?」
私が目をキラキラさせながら尋ねると、
「これはだな……今のところはただの地図だ」
「え?」
これは、ただの地図?
「すごい機能とかついてないの!?何か宝が発見できるとか」
「残念ながら、そんな機能はない!」
アルは言い切った。
「でもな、今からこの地図は進化していくんだ」
「進化していく?」
「そうだ。俺は王になる者として、この国、いや、この世界を知っておきたい!
俺の歩いた痕跡はいつかきっと、大きな力になってくれる!
俺はそれを信じる!もう、いじけて、誰かを遠ざけるのはやめた!
俺は、俺のできることを、出来る限りやってやる!そう決めた!
その為の地図だ!」
「壮大だね………」
「だから、俺たちが旅して、思った事、感じた事をどんどんメモしていく。
それで、この地図は進化していくんだ!」
「俺『達』?」
もしかして………
「私も含んでる?」
「なんだろうな。もういっその事、なんでもしてやろうって、吹っ切れたんだ。
婚約者であるお前との事もな。
………付き合ってくれるか?」
「………まぁ、別に構わないけど………」
「やったーーー!!!これで二人旅だ!
………一人だとどうしようって思ってたんだよ」
「アル!大丈夫だよ!私達、一応婚約者じゃん!」
「………おう、そうだったな、一応婚約者だったな!」
「だから、アルが、一人きりになったとしても、取り敢えず側にはいるよ?」
「………ちょっと、目が痒いから!気にすんなよ」
その一言を告げた途端、突然後ろへと振り返るアル。
………泣いてる?
「アル、もしかして、泣いてる?」
「泣いてねーよ!」
私の方へ顔を向けるアル。
「目が真っ赤〜!」
目は充血して、真っ赤だった。
「気のせいだ!」
アルは否定して来るが、私はからかい続ける。
しばらくたって、からかい終えた後。
「まぁ、そう言うことだから、お願いな」
「分かった分かった。アルについていくよ。
でさ、その代わりさ、ちょっと使ってみたい魔法もあるから、ちょっと後ろ向いててくんない?」
「あ、ああ、分かった」
アルが後ろを向いた瞬間に、私はドレスのスカートの下に隠しておいた服に着替え始める。
私は自分の服の支度を自分で大体するので、ドレスも脱げる。
………というか、最近、魔法のおかげで、凄く服が着替えやすくなった。
魔法の力でぱっとドレスを脱ぎ去り、ワンピースを手に取って着替え始める。
「お、おい!何してるんだ!?」
「アル!振り向いちゃダメだって」
アルはしっかり後ろを向いてくれている。
だけど、背後でする衣擦れの音が気になるのか、今にも振り返りそうだ。
私は、さらに念押ししておく。
………よし!着替え、終わりっと。
「アル、もういいよ」
「さっきから何してんだ、ってうぉ!?なんだその格好」
「何って、最近地元で流行ってる格好」
「え?ということは、リアリ、もしかして?」
「そう!今からショッピングに付き合って貰うよ!」
「ええっ!?………俺も、着替えて来てもいい?」
「急いでね」
走って上の方へと戻っていくアル。
さてさて、何を買おうかな?
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