第17話『8日目①』王様って、国家権力のトップ!?



神暦27年、忙の月、15日。凍の月の次の月だ。


それはそうと、やっとで外出許可が下りた。

この前、三週間も家を留守にしてたのは流石に不味かったらしい。


セバスチョンと母が真顔になるのを見るのは久しぶりだった。

いつもふざけているような感じのセバスチョンと、

おっとりした雰囲気で天然の母。

いつも怒らない人が、怒ると怖いってこういうことだな、と改めて思い知った。

………父なんて、二人のあまりの剣幕にたじろいでほぼ壁の染みレベルで影が薄くなってた。


さて、ようやく外出許可が下りた今日。

試してみたい事と行ってみたい場所がある。


私はメイドを呼び出し、外出の準備をした。

………もちろん、ドレスだ。

男物のズボンはしばらく禁止になってしまった。

父曰く、


「あんな物を履いているから、自由に行動が出来てしまう!

暫くドレスを着ときなさい」


とのことだ。

………ドレスは拘束器具か!と思ったりもするのだが、気にしないでおく。


「お嬢様、準備が整いましたよ!」


「サンキューね」


「………お嬢様、今度は礼儀作法の先生が来ることになりますよ」


「………失礼。ありがとうございます」


この三週間、何もなかった訳ではなく、

三週間、みっちりダンスの先生を呼んでダンスの指導をさせられた。

………ダンス、得意じゃないのに。


なんというか、リズム感がないのだ、私。

だから、何度も何度も相手の足を踏んでしまう。

今回の先生は、三週間で、253回も踏んでしまった。


………別に私が数えたわけではなくて、

先生が、「足を踏んだ回数、253、ハイ!なんて言えばいいのでしょう!」

と言ってたのを覚えていただけだ。


幸い、私はダンスや、その他少しの事以外はできるのである。

これも、前世の知識様様である。


そうして馬車で外出する。


考えてみれば、普通の令嬢って、制限多いな、と改めて思ってしまう。

移動は馬車で。(歩けばもっと早い!)

服はドレス。(普通にズボンの方が動きやすい!)

言葉は上品に。(まぁ、確かに悪い事だけでないから頑張りはするけど)

普通の令嬢がどんな縛りプレイをしていることか。

……まぁ、普通のおしとやかな人だったら、絶対にズボン履いて走り回ったりはしないんだろうけど!


しかし、それでめげる私ではない!

まずは、馬車を運転する御者を確認!

………しめしめ、運転に集中している。

それを確認すると、窓を闇で覆う。

………これで、外側から中は分かるまい。

そして音を遮断する結界を張り、馬車の扉を開けて飛び降りる!

最後に風を使って扉を閉める。


………今回は私の親友の家への訪問。親友の家にはここから4時間は硬い!

馬車でsだと結構時間がかかるのだ!

つまり、3〜5時間の間に戻れば完璧。

私は颯爽と目的地に向かって走り出した!



およそ5分。目的地である王城の裏手に到着した!

ドレスが全く動けないとだれが決めた?

私は心の中でそう思いながら、王城の外壁の上にジャンプで跳び乗る。

まさか、『想像』の力がここまで役に立つなんて!


今まで出来なかったことが出来るようになる心地は最高です!

ありがとう、グリデウスさん!


そうして体を闇で覆う。

側から見ると、怪しい奴だけど、私って絶対にばれないし、便利。

そして、王城へと侵入する前に!


じっと目を凝らすと、薄ら結界をみたいなのが見える。

所謂、神の魔道具ってやつか。

人間じゃ、作ることのできない魔法の力が詰まったやつ。

ステータスが見られる魔道具もそうだとか言う。


「さて………どうするか………」

神の魔道具は『想像』で打ち勝つことが出来るか………


やってみるっきゃないっしょ!

私は、魔法を切るイメージをして、魔法を綺麗にカットしていく。

ちょうど、人の入れる隙間になったら、そっと入り、

今度は、魔法を接着するイメージで、くっつける。


「ふぅ。OK」

なんとか作戦がうまく行った私は、魔力を感知し、アルの魔力を探り当てる。

「想像って、なんでも出来るね………」


若干引きながら、アルの元へと向かう。


アルは、高いところの窓付近にいる。

なので私は窓に向かって、大ジャンプする。

そして私は気づくのだ。


………あっ、やばい。ブレーキ出来ない。

焦った私は、目の前の窓に防音の結界を張り、躊躇無く窓を割って入っていく。

勢い余りすぎて部屋をゴロゴロと転げて壁に頭をぶつけた。


「痛っ!」


頭をさすりさすりしていると、左の方でアルが、唖然としている。

そして何か大声で叫ぼうとしているので、慌てて私は立ち上がり、アルを止めた。


「ちょっとストップ!アルっ!」


「………もしかして、リアリか?」


「大正解!」


V字サインをする私にアルはため息をつく。


「どうやってここに来た?」


「窓から」


「………見りゃ分かるよ。城の周りの結界をどうやって越えてきたんだ?」


「えっと、こうペリペリっと剥がしてから、またくっつけました!」


先程やったことを伝えると、アルは呆れた様子で続ける。


「お前なぁ。何しに来たんだよ。ここ、一応王城だぞ」


「いや、現状の報告を、と思って。アルの方もどうなったか気になるし」


私が満面の笑みで答えると、それ以上質問するのも疲れたようで、


「………もういいか。なんかもう付き合ってられん。

………で?親父さんたちへの説明は?」


「迷子になってたって言ったら納得してくれたよ。

『まぁ、お前の事だからな………』って言ってた」


「お前の親父さんの達観した感じは一体どこから来たのか、

なんとなくはわかるが………」


アルが遠いところを見るような目をしている。


「アル?アルの方はどうだった?お父さんたちを誤魔化せた?」


「あ、嫌、その事なんだが………」


私がアルの報告を聞こうとしたその時。


「君がアルの相方か!」


扉がギイっと開き、男の人が入って来た。


私はその人の優しそうな顔を見た瞬間、慌てて臣下の礼を取った。


………このそこそこに優男感溢れる顔をした人は!


「あぁ、気にしなくても良いよ。ここは公の場じゃないしね」


そこには、このルールド王国の中で、一番の権力者、

「見かけによらない冷酷王」とか、「優しげな悪魔」とか言われている

この国の王、アインテルリア=スラー=ルールド陛下が立っておられるのだった。


「い、いえっ!滅相もございません!」


何をするのが良いのかなんて分からない私は、取り敢えず同じ体勢をキープする。


「………別に気にしてないから、楽にして」


……なんか、少し気温が下がった気がする。

従った方が良さそうなので、礼をやめて立つ。


「で?君がアルと一緒にダンジョンを攻略した相手なのかい?

………凄い偶然だなぁ。まさか婚約者のリアリ=ニア=レイトン公爵令嬢だとは思わなかったよ」


………えっ?なんでアル、ちゃんと一人で攻略したって伝えなかったんだろう?

もしかして、私を裏切った!?


そっとアルの方を睨み付けるが、アルはどこ吹く風だ。


「もしかして、アルが『一人で攻略した』って言ってたのはこういう事かい?

ごめんね。残念ながら、過去に実例があるんだ。

可哀想に、偶然男同士で手錠に繋がれた王族がね」


「………これは黙っていたら、やばいパターンですよね」


「うん。まずいよ〜」


「はい、分かりました。私がアルトリア殿下とダンジョンに偶然入り、攻略したペアになります」


アルが凄く驚いたような顔をしている。

………失礼な、普通の敬語ぐらい使えるって。


「つまり、君たちは、迷宮の最奥に至り、王家の秘宝を手にしたと」


「はい。私たちは迷宮の最奥で確かにそれらしき物を得ました」


「それは、アルの『創造』と?」


「私の『想像』になります」


王様は、大きくうなづいた。


「なるほど、理解したよ。君の能力は『創造』なんだね」


………どこか、大きな勘違いが起こっているような気もするが。


「はい、そうなります」


「それじゃあ、今日はここまでにしよう。後日、改めて挨拶に向かうとするよ」


「はっ。畏まりました」


「それじゃあ、君はもう帰りなさい。

………次は無いからね」


背筋の凍りそうな笑顔で王様は部屋から出て行った。


「………次は無いってさ」


私はヘナヘナと座り込む。


「こ、怖かった〜」


「あれが父上。でも、あれで母上に頭が上がらないんだぜ?」


「あれで!?」


王妃様、恐ろしっ!


「リアリ、頭が上がらないって、全ての妃のことを言っているんだ。

………囲まれてよく怒られてんのを見かける」


「ええっ!?」


女って怖い!

………私も女だった。


「じゃあ、今度は俺から行くよ。

………次は無いって言ってるしな」


「分かった。じゃあまたねー」

私はドアから出て行く。


「最初からドアで来いよ………」


後ろの方で聞こえたぼやきなど、もはや私の耳には入っていなかった。


そうして、同じ方法で、結界を越え、

ダッシュで馬車まで戻る。


やばい!

馬車は親友の屋敷の中へ入って行くところだった。


「間に合わなかった……」


その時だった。


「ここで何してんのよ」


ぱっと顔を上げると、そこには親友の姿が。


「ごめん〜〜!馬車に間に合わなかったの!」


「いや、目の前にいるし。じゃあ、あの馬車の中身は?」


「もぬけの殻………」


「なるほど、おてんばなあなたらしいわ」


会話を続けて行く中でふと、疑問に思うことが。


「なんでここに居るの?」


「………別にあなたの為のお菓子を買いに行って、遅くなったわけじゃ無いんだから!」


「いや、何も言ってないけど………」


「はっ、しまった!」


「じゃあ、その手の袋の中は!」


「………あなたの大好きな三丁目の角のシュークリームよ」


「ありがとうぅぅぅ!シュテぇぇぇ!」


「ちょっと!涙がつくじゃない!やめてよ!」


「大好きだよぉぉ、シュテぇぇ」


そう言って泣きつく私を満更でもない表情で、離そうとする彼女、

シュテリーゼ=ノート=ファミル。


私の大親友だ。

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