第16話『7日目②』見えなかった物
………よし!気を取り直して!
次は風属性、行ってみよー!
まずは自分の周りを真空で囲む。
………あまり実感は出来ないが、これで防音壁が出来たはずだ。
そこで私は、一直線の炎の玉を撃つ。
炎の玉は、私の作った真空の壁を通った瞬間、
跡形もなく消えてしまった。
やっぱり!
炎は真空の壁で防げる!
当然と言ったら当然だが、魔法の世界でこの常識が通じるのか、正直疑っていた。
ガッツポーズを取り、真空の壁を解除する。
よし、今度は闇属性をやってみよう。
闇属性と言うと、なかなかイメージが湧かないが、まぁ、
ブラックホール的な物をイメージすれば良いよね。
私は左手から、闇の玉を出し、
地面に向かって撃つ。
闇の玉は地面にぶつかり、一瞬肥大化して、そのまま小さくなって消えてしまった。
………闇の玉がぶつかったところは、そこだけ何も無かったかの様に抉り取られている。
………絶対に人には使わないようにしよう。
さて、闇といえば光だが、
光は使うことができない。
何度イメージしても、光の玉も光線も一切出てこない。
これはグリデウスさんに聞いたので原因はわかってる!
『あの、すみません。光属性の魔法が撃てないんですけど』
私は、アルの訓練の休憩中に、グリデウスさんに尋ねる。
『そりゃ、嬢ちゃんのイメージが足りないとか言うのと違うのか?』
『はい。他の魔法と同じくらい、イメージ出来ている気はします』
グリデウスさんは、髭をさすりさすり考える。
そして、何か結論を導いたように、手を叩いた。
『あぁ、そうか。………お嬢ちゃん、もしかして光属性、持ってないな?』
『確かに持ってないですよ?』
『ごめんな。自分が持ってない魔法属性の魔法はどうしても使えない。
俺も、闇属性とか水属性は使えないからな』
『へぇ〜』
私は、取り敢えず、やっぱり使えないかと光の光線をイメージする。
………何も出てこない。
「はぁ〜、やっぱり無理か」
落ち込み気味に、今度は好きだったテレビ番組をイメージする。
………画面を作るって、光魔法の力っぽいもんなぁ〜。
ダメ元で、イメージしていると。
目の前に、ホログラム的な何かが出て来て、テレビが映り始めた。
ロボットが、少年の夢を叶えてくれるという、夢いっぱいの番組だ。
私がイメージした通りに映っている。
「ええっ!使えるの!?」
テレビを消して、光の玉を撃とうとする。
………やっぱりでない。
テレビをつける。
………やっぱりつく。
よく仕組みが分からないが、これをテレビ魔法と呼ぼう!
これは使い道のある魔法だ。
最後に、身体強化魔法を使う。
これが、一番イメージが役に立った魔法だ。
今まで、身体強化魔法を使っても、精々通常の2、3倍が限界だった。
でも、今なら。
「よーい、ドン!」
私は風を切って走る。
多分車よりも早く走っているだろう。
多分、自分の身体能力の数十倍まで引き出せている。
………別世界の知識様様だ。
まさか、10メートル前後ある怪人を素手で殴ったり蹴ったりする女性の戦士や、
パンチ力が普通に十トン行く仮面の戦士。
果てには、盾を投げたり、怪物になったり、ロボットスーツを着たりして戦うヒーローチーム。
このぐらい、沢山いると、自分でも出来てしまえるかのように思える。
………それが今の結果だ。
拳に力を込めて、地面を叩けば地面がめり込み、
足に力を込めて、走り出せば100メートルも普通に5秒前後。
………正直、人間を辞めた気がする。
だからこそ、やってみたいことがある!
ウキウキしながら、訓練場の倉庫から、木剣と、大きな灰色の塊を取り出す。
昔はそれなりに重かったこの塊も、今なら片手で持ち上げられる。
そして、訓練場の真ん中に、この塊をドスンと置く。
これは、この国の土の中、あちこちにある塊だ。
よく見つけ出され、掘り出されている。
どんな特徴があるかって、そりゃ『硬い』としか言いようがない。
この塊を加工することは誰にも出来なくて、
みんなから、この塊は邪魔者扱いされている。
うちは、この塊を訓練に使用している。
うちの父曰く、「壊れないからずっと使える」そうだ。
私も10年近くこの塊に剣を振るっているが、全く壊れそうもない。
でも、今の能力ならば………
「はぁぁぁぁ!!!!」
全力で木剣を振るって塊にぶつける。
ガァン!!
だが、木剣は弾かれ、手には衝撃のみが残った。
「やっぱり無理か………」
少し落ち込む。
剣の力も足りないが、私の力もたりてない。
………でも、もう一回だけ………
もっともっと鋭く、さらに速く。
自分のさらなる強化をイメージする。
………なんか髪がムズムズする。
そう思った瞬間、私の意識は途絶えたのだった……。
「リアリお嬢様!リアリお嬢様!もう夕飯のお時間です!寝てないで、起きてください!」
「へ?」
気付いたら、リネアが目の前にいた。
「え?私、寝てた?」
「はい、私たちが来た時には、仰向けになって倒れておられましたが、
よくよく見てみると気絶はしておらず、寝ているようでした」
「う〜ん、寝た記憶が無いんだけれど………」
と、思い返している内に、大切な事を思い出す。
「あ!そうだ!あの塊は!?」
「今、ハミルが見ていますが、あれは太刀筋ですか?」
「え!?」
起き上がって見てみると、塊は、左右に真っ二つに切れていた。
「お嬢様。これは相当な達人の太刀筋。これはお嬢様が?」
「………ごめん。よく覚えてないんだ。なんか、意識が飛んじゃって」
「そう。ならいい。………リネア。リアリお嬢様を食卓へご案内しなきゃ、旦那様たちも待ってる」
「ああ!そうでした!リアリお嬢様、立ち上がってください!」
「分かった………アイタタタタ!」
立ち上がると、全身がきしむし、痛む!
「だ、大丈夫ですか!?」
「かなり筋肉痛になったみたい。大丈夫、もう動ける」
「私も手伝いますから」
リネアが肩を貸してくれる。
「サンキュー。リネア」
「雇って貰ってるのですから当然です!」
「リアリお嬢様、リネア。私はこの塊を片付けてから行く」
「ありがとうね、ハミルも」
「このぐらい、どうってことはない」
私は、ふと、地下室の階段を登りながら思うのであった。
一体、あれは何だったんだろう?
「あれ?リアリお嬢様、髪、伸びました?」
「あ、本当だ。いつの間に………先週切ったばっかりなのに」
いつの間にか、私の髪は、自分の肩より3センチほど下に伸びていた。
いつも、髪の毛は、肩より少し高めをキープするのに………
「ふふっ。成長期なんですかねぇ。今度また切りましょう」
「うん。いつもいつも、申し訳ない………」
「いいんですよ。それがお仕事ですし」
「今度お菓子あげるね」
「ええっ!良いんですかっ!だったら私、ドーナツが………」
少し伸びた髪が、地下室からの風に揺れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます