第14話『6日目』ダンジョンの終わり


神歴27年、凍の月。25日。


アルは、死にかけの状態で屋敷の裏から現れた。

その後ろから、グリデウスさんもヒョイって現れた。


「小僧の特訓終わったぞーー!」


「…………………」


………終始無言のアルが怖すぎる。


「………ご飯、食べる?」


恐る恐る私がアルに尋ね「たべるっ!!!」


……どんだけ腹を空かせていたんだろう。

やれやれ。


「すぐ作ってあげるから待ってて」


「もう、死にそう」


私はダッシュでキッチンへと向かい、

手早く料理を作ると、アルに振る舞う。


「い、いただきま…す」


アルがスープから口をつける。

………おっ、よく分かってんじゃん!


「!」


アルのやつ、スープがあまりに美味しかったのか、凄い勢いで飲み干している。

そうして、カチャカチャと、食器を動かす音だけが食卓に鳴り響く。


「………アル、王子でしょ。品がないよ」


一切無視して食事を掻き込むアル。

そしてその隣には、


「おぅ、嬢ちゃん、こりゃうめえ。嬢ちゃんいい旦那掴むと思うぜ」


とアルの食事を横取りしているグリデウスさん。


「ちょっと、死んでいるんじゃないですか?」


「ちょっとだけなら食べられる」


とグリデウスさんが言っているのを即座にスルーして。


「どう、アル?美味しい?」


「………めちゃくちゃ美味しい。

リアリ、貴族なのによく料理できたな」


「………まぁ、そんなことは気にせずに」


「わかった。まぁ、美味いからいいか」


いろいろと聞かれるとまずいこともあるので、なんとか話を逸らせてよかった。


「で、夫婦のワンシーンに水を差すのも悪いが、話いいか?」


グリデウスさんがテーブルに両腕と顎をつけながら話しかけてきた。


「いや、別に夫婦ではないですし」


「そ、そうですよ、グリデウス様。別に、夫婦ではないんです」


「まぁ、変わらんだろ。

それよりもな。これから最も重要な事を説明するぞ。

俺の力についてだ。

俺の力、『想像』と『創造』は、実のところ、二つで一つなんだ」


「「え?」」


突然の告白に、ビックリする私たち。


「だからな、実は『想像』で作った魔法を、『創造』で魔道具にすることもできる」


グリデウスさんは、左手からこの前見た黒い箱を出現させ、スイッチを押す。

すると、中から火の矢が出てくる。


「と言うことは………」


「そうだな。今の魔法は、かなり数が少ないからな………。

だからお前らは二人でいなきゃ真の力は発揮できない。そう言うわけだ」


「「えええっっっっーーーー!!!??」」


「そんな、マジですか?」


「あぁ、大マジだ」


「なんで一人に集中させてくれなかったんですか!」


「それには理由が二つあってだな………。

まずはお前ら、婚約者だろう?」


「まぁ、取り敢えず………」


「取り敢えずってなんだよ………。

とにかくだ。

やっぱり夫婦となる者は二人、助け合っていかないとな」


「で、もう一つはなんですか?」


「そりゃあ簡単だ。

お前らが俺に比べて弱すぎる。

二体一でギリギリだったろう」


「そうですけど………」


「そんなんじゃあ、俺の力を全て継承してみろ。

多分、全身吹っ飛ぶぞ。

だからな。そう言うわけだ」


体が吹き飛ぶと聞いて、ゾゾゾと身震いする私とアル。

二人で顔を見合わせて、


「そりゃ怖いな………」


「まぁ、取り敢えず、現状維持って事で………」


この話を聞いてから、流石に「全ての力をください!」なんて言えたもんじゃない。


「わかったか?」


グリデウスさんの声に全力で首を上下に振る。


「なら良し、だ」


そう言うとグリデウスさんは、立ち上がり、「ついて来い」と私たちを誘導する。

私たちはそれについていく。


屋敷の裏の階段を抜け、その下の階層もどんどん進んでいく。

ようやくこの階層の端っこに来たか、と言うところに大きな扉がある。

グリデウスさんは躊躇無くその扉を開けて、中へと入る。


私たちも、続けて中に入ると大きな魔法陣がそこにはあった。


「グリデウスさん、これは?」


私が尋ねると、


「あぁ、これは、ダンジョンの一番下にある、

一番下まで来た人たちを地上に戻す魔法陣だ。

………残念ながら、そろそろお別れの時間だ」


グリデウスさんがそう告げた。


「………グリデウスさんは来ないんですね」


私は確信を持ってグリデウスさんに言う。


「あぁ、俺はまだ怖い。何かを失ってしまったあそこへ戻るのはな」


グリデウスさんは、俯いて答える。


「………きっといい世界にしますよ、グリデウス様。俺が変えてみせます」


アルはグリデウスさんにそう告げる。


「………ハッハッハ!分かったよ。俺も俺なりに頑張ってやるよ!

だから、小僧も小僧なりに頑張りな」


グリデウスさんはアルのその発言を聞き、顔に笑顔を戻して答えた。


「またね、グリデウスさん」


「あぁ、またな嬢ちゃん」


「また会いましょう、グリデウス様」


「最後まで固かったなぁ。まぁいい、またな、小僧」


私とアルは、魔法陣に飛び乗る。

その瞬間、魔法陣が眩く光り出した。


「そうだ!お前が相談してきた事があったな!」


グリデウスさんがアルの方をまっすぐ見ている。


「その事だがな………。正直言うと、分からん!」


アルは、少し絶望した感じの表情に変わった。


「ええっ!………じゃあ、俺はどうすれば………」


「取り敢えず、お前がやりたい事をやればいいんじゃないか?」


「え?」


「ウジウジしてたって、どうしようもねぇだろ?

そんなことやって行くぐらいだったら、もっと自分のいきたいように生きろ!」


グリデウスさんがそう叫んだ瞬間。

目の前が闇に包まれた。

………いや、月が見えるから、夜ってことか。

つまり………


「外に出れたよ!アル!」


「あぁ………やっとだな!」


何かを思い返すように、空を見上げて、そして拳をギュッと握るアル。


「でさ………相談があるんだけどさ………」


私がアルに提案する。


「ごめん、ダンジョンの相手、私であることは内緒にしてくれない?」


「え、なんで?別に婚約者だし、何も問題はないはずじゃ………」


「まずさ、あんまり目立ちたくはない。だってダンジョン初攻略者でしょ!

きっと祭り上げられちゃうよ!そんなの絶対に嫌だよ!」


「わ、分かった」


「それに、多分ダンジョンの事うちの父親に知れてみ?」


「なんだ?リアリの父親がどうかするのか?」


「多分アル、半殺しじゃ済まないと思うよ」


「へ?」


「いや、婚約者とは言え、ダンジョンで三週間ほど二人で過ごしました〜。

なんて言ったら、うちのお父さんガチギレするよ。

『私の娘に手を出した不届き者はここか!』とか言って」


「なんと………レイトン公爵はそんなに恐ろしいのか………」


「うん。私のこと大好きだからね〜〜」


前の世界の私の両親も優しい人だったらしいが、今の世界の両親もすごく優しい。


「………分かった、やめておく。

うちの父には私一人で攻略したとでも言っておこう」


「ええ〜っ!それって大丈夫?」


確か、あそこのダンジョンって2人1組じゃなきゃ入れなかったはずじゃ……


「大丈夫。一人でも行けた、と適当なことを言っていれば大丈夫だ」


「えっ本当に大丈夫?アルのお父さん、国王でしょ」


「大丈夫。俺は王太子だ」


笑顔で言い切るアル。

どうしても嫌な予感が拭えないのは私だけ?

でも、アルもそう言っているし………


「………分かった。アルの方は信じるからね!」


「あぁ」


「それじゃ、私たちもお別れの時間だね」


「だなぁ。

………また、会えるかな?」


「うん、きっとまた会えるよ!だって、取り敢えず婚約者でしょ?」


「だな!なんせ俺たち、取り敢えず婚約者だもんな!」


「「アッハッハッハッハッハ!」」


二人で笑い転げる。

ようやく笑いが収まった私たちは


「じゃあ、またね。アル」


「あぁ、またな。リアリ」


そうして、帰路に着いたのであった。



家に帰り着くと屋敷の人たち全員から、めっちゃ怒られたことを除いて、平和であった。


………正直、半日ずっと正座は死ぬほどきつかった。


第一章「アルとリアリの長〜い3週間」完


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