第11話『4日目④』王の独白
『「初代」国王と言われているぐらいだ。
俺はもともととある村に住んでいた。
………今では地図に残っていないがな。
俺にはミーと言う幼馴染がいた。
ミーは、元気で優しい女の子だったよ』
グリデウスさんは、まるで宝物を見るかの様な温かい視線で過去を振り返って話を続ける。
『俺とミーは毎日遊んだ。
………俺が15歳の誕生日を迎える時までだった。
俺は、「勇者」っていう称号を得ちまったのさ。
俺は才能があった。剣も、魔法もだ。
こんな毎日が続いていけばいいって思った矢先の出来事だったよ。
………俺たちの住んでた村が、ドラゴンに襲われたんだ。
命がけだった。
必死だった。
………気づいた時にはドラゴンは地に伏していたよ。
そしたら、俺は「勇者」と呼ばれ、救世の旅と言う名目で、
数ヶ月間、一人であちこちを歩き回らされたよ。
もちろんミーとは離れ離れだ。
突然の別れに、ミーも、俺も悲しんだ。
そうやって救世の旅を始めた数ヶ月後だ。
どうやら国のお偉いさんが、「新しい仲間」とやらを連れてきたらしい。
だが、俺の仲間として釣り合う者はほとんどいなかった。
ある者は毎晩女と遊ぶ。
ある者は散財をする。
ある者は勇者の仲間という立場を悪用する。
………まともな奴がいなかった。
そんな中だ。俺が驚いたのは。
その「仲間候補」の中に、ミーがいたんだ。
光魔法使いとしてだ。
ミーはあまり魔法が得意とはいえなかったのに、それなのに、
勇者の仲間の候補になれるほどに成長したんだ。
途方もない努力だったのだろう。俺には想像もつかなかった。
顔つきもどこか凛々しくなっていた。
俺はミーを勇者の仲間として、他の奴らには帰ってもらった。
そして、国のお偉いさんたちを脅し、二度とこんなことをしないように言った。
そして、ミーとの二人旅が始まった。
ミーと俺の息は抜群に良かった。
何せ、俺とミーの二つ名が、「剣と魔法のシンフォニー」と呼ばれる
ほどのものだったからな。
まさに、二人で一つ。それが、俺たちだった』
どこか、深い悲しみを織り交ぜて話している。
ミーさんはきっと………。
『俺たちは無敵だった。
それに反乱の意思はだんだんと大きくなり、
そしてそれは王家を揺るがすほどになっていたのさ。
俺たちは、反乱の旗印となって王家を滅ぼした。
まぁ、いろんな事情や、あれこれはあったが、そこは大事なことでは無い。
そこで俺はこのルールド王国の初代国王になったわけだ。
当然、王妃も決めなきゃなんねぇ。
もちろん、俺は長年連れ添ったパートナーであるミーを王妃にしようと思った。
なんせ、気心も知れている、気のおけない仲だからな。
それに、俺たちにはもう可愛いカーミスという天使がいた。
だが、それは突然だった。
ミーが倒れちまったんだ。
医者にも原因が分からなかった。
「おい!ミー!しっかりしろよ!俺達はまだまだこれからだろ!?」
「大丈夫だよ、グー。きっと、もうすぐあなたは幸せになれるよ………」
日に日に弱弱しくなっていくミーを見て、耐えられなくなる。
「ミーがいない人生なんて!ミーが居なくなってから、俺とカーミスはどうすればいいんだ!」
「…………」
ミーは笑顔で微笑んでいる。
「私のことは、忘れて………、次のステップへ進んで………」
それから暫くしてからのことだった。
ミーは亡くなってしまった。
…………でもそれで終わりじゃなかったんだ!
ミーが亡くなってから、おかしな事が起こり始めた。
………誰も覚えていないんだ。ミーのことを。
俺が持っていたミーに関するものはことごとく消え去り、
ミーの痕跡は、この世から消えてしまったようだった。
そして、俺の嫁は、俺が今まで一度も聞いたことのないような令嬢に代わっていた。
名も知らぬ妻が、「二人で頑張っていきましょう」と隣で言う。
カーミスでさえ、この女を自分の母親だと思っている。
………俺は怖くて、仕方がなかった。
世の中が、俺の知らないナニカに変わってしまったようで。
逃げたくて仕方がなかった。
でも、息子の教育が終わるまで、息子に王位を継がせるまで、俺は耐えた。
息子の戴冠式の次の日。
俺は逃げた。
荷物も何も持たず。
ただひたすらに。
目の前に洞窟があったから、その最奥に閉じこもった。
誰にもきて欲しくないと思いながら閉じこもっていたら、
いつのまにか洞窟はダンジョンと化していた。
すると、ダンジョンマスターになった俺は、
いろいろな事がわかってきた。
ミーの事も、俺の事も、そして真実も………。
だから俺は、王族のみにしか姿を見せず、
絆の強い二人だから突破できるダンジョンを作った。
これが、このダンジョンの真実だ』
長い長い話を終え、ようやく一息ついたように見える。
「この王国にはそんな真実が………」
アルが衝撃を受けている。
でも私は、それよりも、重要な事に気付いた。
「だから、あなたはモンスターになってでも、このダンジョンの攻略者に会いたかった。
きちんとした説明をする為に。
そうですね、グリデウスさん」
私は後ろの方を振り返る。
「ハッハッハッハッハ!叶わねえなぁ、嬢ちゃん」
そこには、先程倒したグリデウスさんが立っていた。
「ひぃぃ!?」
アルはめっちゃ怯えている。
………この際無視をしておこう。
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