第9話『4日目②』大連戦

私が自慢をしようと、階段を降り切ると。

そこにはちょうど覚悟を決めて、ボス前の扉を開こうとする、アルの姿が。

慌てて私は止めに入る。


「アル!ちょぉっとストォォォップ!!」


が、もう手遅れだった。


アルが慌てて手を離そうとした瞬間。

莫大な魔力の迫る気配が。

私は身体強化を全力でかけ、アルに飛び付く。


「うぉ!?リアリ、ストップ………」


「危ない!!」


私がアルとともに扉のはじまで飛んで行ったその時。

巨大なレーザービームが、扉と私の足を巻き込んでいった。


「ぎゃぁぁぁ!?」


足の焼け焦げるような痛みに声を抑え切れない。


「リアリ!?大丈夫か!?」


アルも思わずといった感じで呼びかける。


「………な、なんとか。足に魔力を纏っていたから、火傷で済んだ」


「分かった。じゃあ、回復魔法を………」


「おやおや、この攻撃を躱すとは。なかなかやるじゃあないか」


突然の第三者の声。


「おい!取り敢えず出てこい!………大丈夫だ。こっからしばらく攻撃はしない」


私とアルは顔を見合わせて、信用するか迷ったが、男の「入ってこないんだったら

もう攻撃を再開する!」という声に反応して、動き出した。

私は、アルに肩を支えてもらい、扉の中へと入る。


「ほう!これはなかなか骨のありそうなやつじゃあないか。

………王族はどっちだ?」


「………俺だ」


さっき、軽くヒールをかけてくれたので、だいぶ楽になった。

私は、アルの支えをとって、自分で立つ。


「ほうほう………じゃあ、今の王は何代目だ?」


「………四十九代目だ」


「なるほど、お前が五十代目の国王というわけだな」


男は顎の髭をさすりながらガハハと笑う。

茶髪で、豪快そうな男だ。いったい誰なのだろう。


「すまないが、あなたの名前を教えて欲しい。

………ここまで喋ったんだ」


軽く敬語を使って答えるアル。

………アルって敬語使えたんだ。


「おお、すまねぇすまねぇ。………でも俺の名前は知っているはずだろう?」


「いや、すまないが、存じない。申し訳ない」


「あぁ、わかった。じゃあ、質問を変えよう。『この国の初代国王は誰だ?』」


「ヘ?」


初代国王なんて歴史の授業で一回やるかやらないかだ。

なんて名前だっけ………

私が頭を唸らせて考えると。


「では、あなたが初代国王グリデウス=スラー=ルールド様なのですか」


「あぁ、如何にも。俺が初代国王グリデウスだ。そのスラーなんちゃらは、後付けのようだがな」


「じゃあ、このダンジョンのマスターは………」


「もちろん俺だ。でも凄いな〜。ここまでこれたのは、今まででお前たちだけだ。

今までのカップルは途中で、どちらかが脱落又は両方が脱落で、強制退出させられてたっていうのによ」


「では、このダンジョンは、あなたを倒せば攻略完了と。そういうわけですね」


そうアルが聞くと、グリデウスさんは、大きくうなづいて、


「あぁ、もちろん。だが、俺に勝つことは不可能だ」


「どうして?」


私が思わず聞くと、


「ハッハッハッハッハ!そりゃ、お前たちと俺では、魔法の体系が違う。

俺の魔法には絶対敵わないさ」


と、グリデウスさんは顎髭をさする。

………ちょっとだけイラってくる。

流石に人だったら大丈夫でしょ。


「どういうことですか」


と私が尋ね直すと、


「もう、これ以上は無理だなぁ。こっからは全力勝負といこうか。

なあに、お前たちは、『敗北』の味を知って、このままこの国を治めて行けばいいのさ」


とグリデウスさんが肩をすくめて言うと、


「………そう言うわけにはいきません!俺がここにきたのには目的があります!

その目的のために、あなたを倒して見せます!」


とアルは言う。


「ハッハッハッハッハ!分かったよ。そこまで言うんだったら、俺も全力でいかせてもらう。お前たちが勝ったら、このダンジョンの宝、くれてやらぁ」


「「臨むところ(です)!!」」


私とアルは戦闘態勢に入る。


「それじゃ、行くぞ。さん、に、いち。スタートだ!」


「スタート」の宣言とともに先程のレーザービームよりも小さいビームが雨のように降ってくる。


「くぅ!」


私たちは全力で躱す。

そしてそのまま私はグリデウスさんの元へ駆け込み、至近距離で、


「炎よ!ファイヤーボール!」


と火球を放つが、


「遅い!」


と即座に躱されてしまう。

魔法をあてるのは無理か………

そう判断した私は距離が近いので、続けて身体強化で殴りかかる。


「ハッハッハ。貧弱だな。全く効かないぜ!」


そう言ってなぎ払った腕にぶつかり、大きく吹っ飛び、そのまま壁に叩きつけられた。


「リアリ!大丈夫か!」


「大丈夫!このぐらいかすり傷!」


でも、どうするか………

私の攻撃はグリデウスさんに届きそうにない。


「リアリ!もう一度、やつの気を引いてくれ!」


そんな時、アルの声が響く。


「分かった!」


私は再びグリデウスさんに向かって走り出す。


「嬢ちゃんの攻撃は通らないって、さっき言っただろ?」


悠々とたたずむグリデウスさんに対して、私は


「私はアルの作戦を信じるだけだから!」


と答える。


「ほぉ。言うじゃねえか!」


グリデウスさんは、何も言わずに炎の矢を出現させる。


「無詠唱に炎の矢!?そんな魔法は存在しな………」


「だから言っただろう。俺とお前たちじゃあ、魔法のシステムが全く違っているってな!」


そう言って炎の矢を発射するグリデウスさん。

私は矢をよく見て、躱していく。

そうしてグリデウスさんの目の前まで迫ったその時。


足に強い痛みと熱を感じる。


「っ!」


足元を見てみると、右足に炎の矢が突き刺さっていた。


「なん、で!」


「残念だったなぁ。俺の魔法は追尾機能付きだ」


そう言った直後。

左右の腕と左足、そして腹にも続けて矢が刺さる。


「かはっ、」


肺から息が出て行く。


「大丈夫か!リアリ!」


不安そうな声をあげるアル。


「大、丈夫だって」


私は痛みを堪えて踏ん張る!

………大丈夫!アルを信じてやるんだ!

幸いなことに、傷口は炎で焼かれて、血は出ていなかった。


そうして矢が刺さったままの右手を握りしめ、グリデウスさんに向かって振り抜こうとする。


「おいおいおい、凄いな、嬢ちゃんは」


だがしかし、その拳はグリデウスさんまで、届くことはなく、


「残念だったな」


強い蹴りを喰らって再び壁まで吹き飛ばされた。

しかし!


「リアリっ!サンキューだっ!おかげで準備は整った!」


アルの声が聞こえる。

私も頑張んないと!

両手両足から、矢を引き抜き、再び立ち上がる。


グリデウスさんはアルの方に注目している。


「ほう。俺の武器を使うたぁ、考えたじゃないか」


そこには部屋の高さほどもある大きな大砲をひきづったアルがいた。

私と同様に炎の矢があちこちに刺さっている。


………道理で私に刺さった本数がすこし少ないと思ったら!

グリデウスさんは炎の矢の半分は私に、半分はアルに飛んでいくように調整していたんだ!


「自分の攻撃を、自分で受けてみろ!」


アルがそう言った瞬間、大砲から、巨大なレーザービームが発射された。

グリデウスさんは、そのまま堂々と立っている。


「よし、受けてやろう!」


そのまま、光の奔流に包み込まれるグリデウスさん。

………きっとこのままだと、グリデウスさんは倒せない。

私は魔力を全力で拳から放出し、それをそっくりそのまま留める。

さっきのドラゴン戦よりも、魔力を拳に集めた気がする。

そして、足の激痛に耐え、一歩、また一歩と踏み出していく。


光の奔流がだんだん収まってくる。


「ハッハッハッハ!効いたぜ、ちょっとな」


グリデウスさんは、アルの方に顔を向けて笑っている。

私の方は、気にも留めていない。

………多分、これがラストチャンス。


「残念だったが、ここでゲームオーバーだ。だが、その作戦の取り方に免じて」


「なんです、商品でもくださるのですか?」


アルがグリデウスさんに聞く。


「いや、残念ながら。俺の最強の一撃をくれてやろう」


そう言うと、グリデウスさんの右腕に、グリデウスさんの全ての魔力が集まっていく。

………今だっ!


私は全力で走り出す。グリデウスさんとの距離は、もはや十メートルもない!


「はぁぁぁぁ!!!」


私は歯を食いしばり、グリデウスさんに全力のストレートを喰らわす。


「っ!しまったっ!敵は二人だった!」


慌てて後ろに向き直る、グリデウスさん。


だけどもう遅い!


私の渾身の一発は、グリデウスさんの中心部を貫いた。


「ガアァァァァアア!!!!?」


グリデウスさんは、ボールの様に地面を跳ねて吹っ飛んでいく。

そしてそのまま、アルの横に思いっきりぶつかった。


パラパラパラ。

アルは恐る恐る自分の右後ろを見る。

そこには、ボロボロのグリデウスさんの姿が。


ニッ。

グリデウスさんは最後に、笑みの様なものを浮かべた様な気がした。

そうして、グリデウスさんは光の粒となって消えてしまった。


それを見た、アルが一言。


「リアリ………なんてことを………」


うん、正直、あそこまで威力が出るとは思わなかった。

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