第8話『4日目①』これってデジャブ?二十層ボス戦

神歴27年、凍の月。17日。特に変わったこともない日だ。


私はふと目を覚ます。

なんとそこは、お花畑の真ん中だった。


「………あれ、ここは?洞窟の中じゃ?」


あたりを見回すと、お花畑の向こうのほうから、ふわふわと何かが飛んでくる。

………見た目は毛玉っぽい。

その毛玉っぽい何かは、私の目の前に来ると、突然、


「やあこんにちは!突然だけど、願いを三つ叶えてあげよう!」


と話し出したではないか。

思わず私は目をさすって、ほっぺたを引っ張る。


「残念ながら、これは現実なんだ!さぁ、願いを言って!」


「えっと………あなたは誰?」


「そんなのどうでもいいさ。さぁ、願いを言って!」


執拗に願いを聞いてくる毛玉。

願いを聞いてくれるんだったら、ぜひ叶えてもらいたいものがある。


「じゃあ、願いを百個に増やして!」


「分かった!願いは百個になったよ!さぁ、願いを言って!」


なるほど、その願いが叶うのであれば、さらにやってみたい。

私は目をキラキラしながら、毛玉に言う。


「じゃあ、願いの数を三百倍にして!」


「分かった!願いは三万個になったよ!さぁ、願いを言って!」


私はさらに調子に乗る。


「よし、願いの数を一万倍して!」


「分かった!願いは三億個になったよ!さぁ、願いを言って!」


「三億………」


果てしない数に思わず息が漏れる。


「何にしよっかな〜。どんな願いがいいかな〜」


私が首を捻っていると………


「………!……………!」


空から声が聞こえる。


「ん?」


空を見上げるが、何もない青い空である。

ということで、再び何にしようか考えるが………


「……い!…き…!」


さっきより声がはっきりと聞こえる。

どこかで聞いた声のような………


「おい!起きろ!」



「………はっ」


「やっとで起きたか!」


アルが、いる。

ここはどこだっけ?

覚醒したばかりの頭で、現状を理解しようとする。


私はアルに背負われている………。

なんでだっけ………。

回らない頭で賢明に考える。


なんか、魔物が何かしたのは覚えているけど………

う〜ん、分からん。


「ねぇ、何があったんだっけ?」


「悪いが、今説明している暇はない!悪いが、このまま20層のボス部屋に突入するからな!」


アルはかなり疲れ気味だ。

そういえば、20層の最初ら辺で、私がコウモリに眠らされた気がする。


そこからボス部屋まで!?

ようやく意識がはっきりして来た。


「ごめん!ずっと眠ったままだった!」


「わかったらボス戦で頑張ってくれ!」


「わかった!」


アルが、私を背負いながらも、扉を蹴破る。


ガキン!


入った途端、腕につけられていた手錠が吹き飛んだ。


「え!?」


「嘘だろ!?」


そう叫んだ瞬間。

目の前が光に包まれる。


「アルっ!!!」


目の前が見えない中、必死に手を伸ばして名前を呼ぶ。

だが、アルの姿も声も聞こえない。


光はだんだん落ち着いていき、また元のような明るさに戻った。

あたりをぐるぐると見回す。


「ここは………?」


誰もいない。何もいない………?


私が結論づけようとしたその時。


「グルルルルルルルルルルル………」


真後ろで唸り声が………

まさか、まさか、そんなことは無いよね。

この鳴き声って………


恐る恐る後ろを振り返る。

そこには、大きな、大きな、お口が。

私は振り返るのを止める。

気のせいだったと信じたい。

もう一度、振り返る。

やっぱりそこには大きな口が。

気のせいか、よだれも垂れているような………


「こ、こんにちは〜………」


「ギャァァァァァオ!!」


「キャーーーーー!」


流石に、これは予想していなかった。

まだ終わりまで、三層もあると言うのに。

目の前には真っ赤で巨大なドラゴンが、王者の風格を漂わせて立っていた。



ドラゴン。

どんなお話でも、「この世界で一番強い種族」として扱われる種族だ。

正直に言って勝てる確率は、わからない。

だって、戦ったことがないもの。


「さて、どうしようかねぇ」


接近戦が良いか、遠距離戦が良いか。


「とりあえず、様子見で。炎よ!ファイヤーボール!」


火球を手から放つ。

轟々と音を轟かせる火球は、勢い良くドラゴンに衝突する。


「やったか!?」

つい、言ってはいけないことを言ってしまった。


煙が晴れる。


「あぁ〜。やってしまった………」


そこには一切傷のないドラゴンの姿が。


「もう!どうにでもなれ〜!

炎よ!ファイヤーボール!

風よ!ウィンドカッター!

土よ!ストーンスロー!

水よ!ウォーターアロー!

闇よ!ブラックホール!」


様々な属性を一挙に放つ。

着弾点に凄まじい衝撃波が生まれた。


「くうぅ!」


自分で生み出した突風に、自分で巻き込まれそうになる。

全力で身体強化をして、吹き飛ばされないように踏ん張る。


ようやく風が収まる。


「ドラゴンは………」


ドラゴンは依然として、その態勢を崩さずにいる。

が、しかし、様子がおかしい。


「グルルルゥ……」


「弱ってる?」


どうも、ドラゴンは調子が悪いようで、しきりに体を震わせている。


「?………何が効いたんだろう」


じっと観察してみる。

すると、しきりに土を嫌がっている。


「なんでだろう?まぁいいや、土よ!ストーンスロー!」


土魔法を乱打しまくる。

ドラゴンはやはり嫌がっている。


「そりゃ、行け行け〜!土よ!ストーンスロー!」


ガンガン石を投げまくる。


「ギャァァァァァオオオオウ!!!!」


………ヤバイ。ドラゴンがめちゃくちゃキレた。


「グオオオオウ」


ドラゴンの口元が赤く明るくなっていく。


ヤバイ、もしかして………

火を吐こうとしてる!?


私は必死に起死回生の策を練る。

現状、まともにダメージを与えることもできていないが。

それでも考えに考えを尽くして、一つの策を思いつく。


少し思考がネガティブになりかけたが、これしか方法はない!

自分に魔力を纏い、全力でドラゴンに接近する。


さすがのドラゴンも予想外の動きに目を大きくする、がそれでも口の中は赤い光を放っている。


素早くドラゴンの体の下に潜り込み、


「風よ!ウィンドサイス!」

と鎌状の風を出現させ、ドラゴンの腹にぶつける。


「グウウウゥゥゥ!」


ドラゴンの体に少しダメージを与えたが、それでもドラゴンは、同じ態勢を取り続ける。


「こうなれば………」


私は自分の拳にありったけの魔力を纏う。


「ここで死ぬわけには、いかないんだからーー!!!!」


拳はドラゴンの腹を撃ち抜く。


「まだまだーーー!!!!」


連打連打連打!

ドラゴンの腹に拳を打ち込み続ける。

するとドラゴンの様子がおかしくなってきた!


「グウウウオオウウウァアァァァァ!!!!?!??」


ドラゴンの体は一気に膨らみ、そして大爆発を起こした。


「くうううぅぅぅ!」


全身に魔力を纏って耐えようとするが、爆風は凄まじく、体中が焼けていく。

………魔力を纏っているから、これだけで済んでいるのであって、

きっと普通なら、ここで死んでいるのだろう。

でも私は死ぬわけにはいかない!

私が死んだら、家族が………


ふと、もし私が死んだら、家族がどう思うか、考えてみる。


きっと鍛えてこの世界を生き抜いてきた父だったら、

「もっと、鍛えておくべきだったか………よし!イデにはもっと筋肉をつけさせよう!」

ちなみにイデとは、私の弟の名前だ。


きっと、天然な母だったら、

「え、もう帰ってこないって〜まさか〜だって、そこにいるじゃない〜」

………いささか天然とかいう域を超えている気がしないでもない。


きっと、可愛い弟だったら、

「はぁ!?姉上が亡くなった!?………ふん、……居なくなって………せいせいしますよ!」

きっとツンデレるに違いない。


きっと、隣のおじさんだったら、

「あの可愛い子がが………あぁ、なんとこの世界は無情なのか!」

というだろう。


………可愛い子というのは私の脳内補完ですすいませんでした。


少し虚しくなっているうちに熱さは収まってきた。

………だいぶ焼けたなぁ。きっと褐色女子枠も目指せるだろう。

そんなどうでもいいことを考えていると、目の前に階段が!


そして気付く。

………私、ドラゴン倒しちゃったよ!

『ドラゴンスレイヤー』だよ!

相手は、飛ぶことができないくらい狭い洞窟で、非常にこちらに優位であったものの、

勝ったという事実は変わらない。


………アルに自慢してやろ!

そう思ってダッシュで階段を駆け下りていく。


アルもドラゴンを倒している可能が高いということに気づくのは、階段をちょうど降り終わった時のことであった。



























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