第6話『3日目①』十層ボス バイ アローン
神歴27年、凍の月。3日。一番寒い月ではないのに、「凍る」が使われる。
無の月の次の月である。
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……そろそろ、日付の説明をした方がいいと思うのでする。
一応、ルールド王国は日本と同じで、住んでる惑星が一周する期間を「一年」。
………なんでそんなことが分かるかって、神の思し召しとかいうやつらしい。
ここまで来ると、神が実在するのではないか、と思う。
まぁ、それは置いといて、基本的なカレンダーは一緒。
ただ名前が、
一月:始の月
二月:来の月
三月:生の月
四月:占の月
五月:苗の月
六月:水の月
七月:穂の月
八月:葉の月
九月:長の月
十月:無の月
十一月:凍の月
十二月:忙の月
と違っているのに、注意をしておきたい。
始めて見たときは、へぇ〜ってなった。
特に、気にすることはない。
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ぼや〜っとしていた私は隣で爆発音が響きわたるのを聞いて、
今の現状を思い出した。
あぁ、今戦闘中だった!
植物型の魔物に腕を刺されてから記憶が飛んでいる。
「光よ!ライトヒール!」
アルが焦って魔法を使ってくれている。
あぁ、ここは十層の扉の目の前。
いつの間にこんな状況に………。
そんなことを考えながら私は、お花畑の中で植物系の魔物に周囲を囲まれている現状を確認し、
「ゴメン!炎よ!ファイヤーボール!」
と何度も魔法を唱え、周囲の魔物を焼き払っていく。
植物系の魔物に炎は効果抜群で、魔物たちは断末魔をあげながら、消滅していく。
「ああ、もう!こんな時、範囲攻撃型の魔法があればいいのに!」
魔法というものは不便だ。
神様に伝わる形式で呪文を唱えなければならないので、魔法の数はとても少ない。
新しい魔法は、神様に認めてもらえなければ、魔法にはならない。
神様が魔力を魔法へと変えているかららしい。
現状、炎属性で放てる攻撃魔法は「ファイヤーボール」ぐらいである。
そうしているうちに、魔物たちの悲鳴は止み、アルと私だけがぽつんと残った。
「ふぅ」
アルが一息つく。
「誠に申し訳ない………」
私がアルに謝ると、
「いや、精神に干渉してくるとは思っても見なかったから。すぐに解呪出来なくてゴメン」
アルの優しさに、
「アルぅぅぅぅ」
思わずアルを抱きしめる。
「おい!やめろって!気にしてない!気にしてないから!」
「昔やってたのと一緒じゃん!」
「今の年齢を考えろ!?」
久しぶりにアルをギュッとしながら、ここまでのことを思い返す。
………ここまで結構かかった。
なるべく早足で、2層から9層まで駆け抜けたのだが、
それでも9日かかってしまった。
母は大丈夫だろうとは思うが、
娘息子大好きな父は焦るだろう。
申し訳ないなぁ〜とは思っているが、せっかくの貴重な機会。
絶対にクリアしないわけにいかない!
いよいよ10層のボス戦。
アルを抱きしめるのを止めて、扉の前へと進む。
花畑に似合わない、無骨な扉の前に立つ。
「うちの父上は、ここで敗れたそうだ。気を引き締めて行こう!」
「ええ、問題無いよ。それじゃあ行くよ!」
二人で一緒に門を開ける。
すると、目の前が光に包まれた。
光がおさまって来るとそこは、やはりお花畑であった。
でも、目の前に大きな枯れ木が立っている。
雰囲気にそぐわないわ〜と思いつつも観察する。
じっと見ているが、変化はない。
「おい?何を見ているんだ?あそこにあるのは枯れ木だろ。
花畑で魔法陣は見えないし、どこから襲撃があるかわからない。十分に気をつけて……」
アルが何か言っている。
でも、是非ともやってみたい!
「炎よ。ファイヤーボール!」
一直線に炎を木に向かって飛ばすと、木がスッと右に動き、炎の玉を躱した。
「ん!?おい、木が動いたぞ?」
「やっぱり!こういう時のアレはボスと相場が決まってるんだから!」
RPGあるあるである。
「それじゃ、討伐するよ!」
「おう!」
二人で木の魔物に向かって勢い良く走り出す。
「ウォォォォォォォォォォ!!!!!」
ある距離まで近づいた途端、木の魔物は突然雄叫びをあげた。
「まずいっ!攻撃が来るぞ!」
アルが叫ぶ!
トレントがその声に反応するように、足元に魔法陣を出現させた。
その魔法陣から、勢いよくピンク色の煙が大量に出てくる。
私たちは飛びのこうとしたが、間に合わなかった。
ピンク色の煙に包まれる私とアル。
私はなるべく吸わないように、魔力を纏い、服の袖を口に当てる。
………魔力は、効果があったらいいな〜としか思っていない。
煙は5分間ずっと私たちの周りを漂っていたが、しばらくすると晴れた。
敵の攻撃!?とあたりをキョロキョロ見回す。
がしかし、木の魔物は私たちから数百メートル離れた場所に陣取っている。
「?アル?どうしてあの魔物は………っ!?」
アルの父親の経験に頼らせてもらおうとアルの方に顔を向けたのだが。
そこには頬を紅潮させ、息も絶え絶えになっているアルの姿があった。
「アルっ!?まさかあの煙は毒………」
「あぁ…………」
アルは私に乞うような視線を向けてくる。
「リアリ………リアリ………」
アルは私の肩を掴んで、今にも襲いかかりそうになっている。
そこでアルの目を見た私は、アルの目が濁っていることに気付いた。
………コイツ、精神魔法を掛けられたな!
精神魔法は魔物が使える闇と似たような属性で、解除するには光属性が必要不可欠である。
当然、私は光属性など持っていないわけで。
しょうがないので、アルと向かい合い、背中に片手を回す。
「アル………」
「あぁ…………リアリ………」
今にも、動き出しそうだが、覚悟はもう決めた。
「アル………、ゴメンね!」
私はアルのお腹に正拳突きをくらわせる。
きちんと背中を押さえて、吹っ飛ばないように加減もして。
「ぐふぅ」
アルの肺から空気が抜け、体から力が抜けて倒れ込んだ。
「よいしょっと」
アルを背中におぶる。
「さぁ、戦闘開始と行きましょうか!」
私は、身体強化の魔法を使い、自分の身体能力を3倍にする。
これだけしか強化できないのが、本当にもどかしい。
「でも、これだけあれば、あなたを倒せるよ!」
背中におぶったアルの腰から剣を引き抜き、先端を木の魔物に向ける。
「炎よ。ファイヤーボール!」
左手から火球を出現させ、木の魔物に投げつけるのと同時に、魔物へと走り出す。
魔物が左へかわすのを見越して、火球に負けないスピードで左へと回る。
魔物はやはり火を嫌がるようで、気持ち右に撃った火球を見て、左へと飛び退いた。
「ビンゴ!」
その駆け出した勢いのまま、魔物を斬り付ける。
「ギャオォォオオ!?」
魔物が悲鳴をあげ、自身の腕を振り回す。
それに当たらないように、瞬時に後ろに飛び退く。
「さぁて、どうしようかな?」
相手に一撃入れたが、まだピンピンしている。
やっぱり弱点でありそうな炎の魔法を叩き込むしかないが、相手も当たらないように必死だ。
「う〜ん、どうしようかな」
首を捻って考えるが、良い案は何も浮かばない。
「さっきと同じ方法で行こう!」
しょうがないので、さっきみたいに炎を囮にして、ファイヤーボールを叩き込みに行くことにする。
「炎よ。ファイヤーボール!」
再び右寄りに火球を撃ち、左の方へと走っていく。
木の魔物も、左にかわし、大きな隙ができた!
「よしっ!このまま………」
決着をつけようとさらにスピードを上げていく。
がしかし、木の魔物は、そのまま終わらせてはくれなかった。
「ウオォォォォォォォォ!!!!!」
魔物は再び足元に魔法陣を出現させ、今度は赤い煙を放ってきた。
避けられない!
だが、今背中にいるアルは無防備過ぎる。
さっき、効果があったように見えたので、アルに魔力を纏わせるのに力を使う。
アルには間一髪間に合ったが、私は無防備なまま煙に包まれる。
「!ああぁあうあぅ!!?」
左腕が、切り落とされた。
しかし、左腕を見ると、くっついたままだ。
………痛みを伴う幻覚。
声にもならない程の痛みが全身を襲う。
首をはねられ、腕を切り落とされ、足を折られるような痛みが全身を駆け回る。
思わず膝をついてしまいそうになる。
だが。
「ここで、負けられるわけ、ないでしょうが!!」
大地を踏みしめ、まっすぐ目の前の敵を見る。
敵は、もう私が動くことができないと、タカを括っているようだった。
悪いが、十階程度で、立ち止まっているわけにはいかない。
帰りを待っている人もいるのだ!
ここで、命を落とす訳にはいかない!
「炎、よ」
舌にも激痛が走る。
だが、それに構わず、呪文を唱え、掌に火球を出現させる。
腕も、ズタズタに斬られたような痛みがあるが、そんなのは無視である。
「ファイ、ヤー、ボー、ル」
詠唱の終了とともに、勢い良く打ち出される火球。
慢心を抱えていた敵には、かわす術はない。
「チェック、メイト」
私は口角を上げ、木の魔物が断末魔をあげ、跡形もなく消え去るのを確認してから、意識を手放した。
………目を開ける。
空は青かった。
うつ伏せになっていた私の体は、いつの間にか仰向けになっている。
「おい!………目を覚ましたのか?」
アルの顔が真っ正面にある。
まさか、これは!?
「膝枕!?」
私が勢い良く顔を上げる。
「おいおい、危ないな」
振り向くとアルはぶつからないように顔を上の方に逸らしていた。
「さっきのあいつは?もう燃え尽きた?…………アイタタタタ」
少し体を伸ばしてみると、さっき、幻覚でバラバラにされたところが痛む。
しかし、アルは少しだけ笑顔になり、私にお礼を言った。
「あぁ。無事に倒れていたよ。………傷、大丈夫か?光よ。ライトヒール」
アルが回復の魔法を使ってくれる。
少しだけ痛みは和らいだ。
「サンキュー、アル。でも、完治まで、もう少しかかるみたい」
私がそう言うと、アルは言った。
「ああ、ごめんな。あいつの相手を全部リアリに任せてしまった。
全部君の手柄だよ、リアリ」
「エヘヘヘヘへ、どういたしまして〜」
褒められた私は、自分で自分の頭を撫でる。
が、アルは続けて、
「でもな、あのパンチはやり過ぎだ。ちょっと軽く走馬灯が見えたよ」
アルが大きく溜息をつく。
「え?もしかして、あの時、意識残ってた?ゴメン。てっきり完全に操られていると思って。ほぼ手加減なしでした、テヘッ」
私が軽く舌をだし、軽く申し訳なさを含めて言うと、
「次、こんな時はもう少し手加減をしてくれ。死んでしまう」
「じゃあ、次からは気をつけてね!」
「わかった………」
操られていたことがショックだったのだろう。
しゅんとしているアル。
………気にすることは無いのになぁ………。
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