第5話「二日目③」デスペアー?な強敵

「ずっとこのままかと思った………」


 扉の前で、パタパタと埃を払うアル。

およそ100メートルぐらい引きずられていたので、身体中泥まみれだ。


「そんなわけないでしょ。このまま戦ったら、私死にます」


流石にこんなでかい足枷をつけて戦うのは無理だ。


「さて。まぁなんか色々バレちゃったから言うけど、この階層のボスは、


『オークキング』。このダンジョンで生み出された敵の中でも、トップクラスで統率力の高いやつだから『キング』らしい」


その話を聞いていた私は、妙案をひらめく。


「じゃあ、周りのやつ倒したら、何もできない?」


………いや、待てよ、これ、妙案じゃなくて普通の案だ。 


「ああ、きっとそうなんだろう」


そりゃ、当然だろ、と呆れた目を向けるアルを無視し、


「よし!じゃあ、対策も立てたことだし、出発〜!」



近くで見ると、およそ五十メートルもある大きな扉だ。

とりあえず、押してみる。

すると、思うより簡単に開いた。



「やだ、私って力持ち?」

 


「そんなわけないだろ。誰でも開くようになっているんだ」



「………」

 


即座に否定される。



「もう、冗談じゃん!もう、アルったらそんなこともわからないの?」


と言い訳をするが、アルは

さっさと先に進もうとする。


「ねえ、ちょっと待って!」

私は、遅れないようについていく。



部屋の中は、少し薄暗かった。

だけど、部屋の中心の方に何か見える。


「あれは、………魔法陣?」


近くで見ようと一歩踏み出すと、魔法陣が光り出した。


「来るぞ!戦闘準備!」


アルがそう叫ぶと、魔法陣の光も一層輝きだし、煙が出て来た。


モクモクモクモク。


細マッチョで、全身緑色のモンスターがポツンと立っていた。


…………一人?


「サア、行ケ、オ前タチ、目ノ前ノ敵ヲケチラスノダ!」


 

何か言っているが、周りには誰もいない。

空気に声をかけているオークに、声を掛けた。


 「あの、頭大丈夫ですか?」


 空気に声をかける人は側から見ればかなりかわいそうな人だ。

横ではアルが腹を抱えて笑っている。


プッツン。


そんな音が目の前のオークから聞こえた気がする。


 「マズハ、オ前カラダ!」

オークが私に向かって飛びかかって来たので、とりあえずカウンターのパンチを喰らわせる。


顔にジャストミートを食らったオークは、壁の方へと吹っ飛んでいった。


………軽く身体を強化しただけなのに。


唖然としている私を他所に、オークは、

「グ。ナカナカイイ拳ダナ。ダガ快進撃モソコマデ。コレヲクラッテミロ。

ファイヤーボール!」

と魔法を出してきた。なので私も


「水よ。ウォーターレーザー」


「グハァァァ!」


 すると、ファイヤーボールは一瞬でかき消え、代わりにこっちの魔法が相手に着弾する。


満身創痍のオークは息も絶え絶えになって叫ぶ。


 「マダマダァァ!勝負ハコレカラダァ!」


 私は、アルと二人でこそこそ話す。


「ねえ、あいつ何やってるんだろ?」


「さぁ?」


 「オークキングってさ、仲間がいてこそのものなのに、なんであいつ、1人なんだろう?」


「さぁ?父上も敵が沢山いて大変だったらしいし………」

2人で首を捻って考える。


 「オイ、戦イノ最中ダゾ」


「まぁ、少しくらいいいじゃん」


「オ、オウ」


そのままじっとしているオーク。

なんか待ってくれている。話の分かるやつだ。


 「「うーーーーん」」


「分からないね」


「そうだな」


「あっ、いっその事、本人に聞いてみるのはどう?」


「答えてくれるのか?」


「大丈夫大丈夫。おーーーい、すみませーーーん」


 私が少し離れた所でこちらを見ている、オークキングに呼びかける。


 「ナンダ!話ハ終ワッタカ!」


「あなたって、仲間いないんですかーーーー?」


「………失礼ナ!ワタシハレッキトシタオークキングダゾ!」


「では現状は?」


「友達募集中………ハッ、シマッタ。ノセラレタ!」


「なるほど、友達も部下もいないオークキングであると」

アルが非常に冷静な判断を下している。


「ハッ、雑魚ノ分際デナマイキナ」

オークキングがフンと鼻で笑う。


 「雑魚とは誰のことを言っているのかな?」

アルが笑顔で問うと、


 「オマエノコトダ、ソコノ男ヨ。見ルカラ二、ヒョロットシテ女ヨリ弱ソウナ」

アルの笑顔が深まっている気がする。


私は、寒気がした。


 「へえー、女より弱そう、ねえ」


「………あの、アル、さん?」


「ふっふっふっふっふ」

とうとうアルは笑い出した。


「そうか、なら君も目立たなくしてあげよう!」


アルはポケットから何かを取り出し、呪文を呟きながら投げた。

どうやら、魔法の込められたガラス玉二つであるようだ。


 「ナ、ナニヲ、何ヲスル!!」


その二つの玉は、オークキングにぶつかり、眩い光を放つと、オークキングを瞬く間に消してしまった。


目の前に下へ行く階段が現れる。


 「えっ、なんで?何が起こったの?」


 私は混乱した。

眩い光でオークキングが消えて、そしたら階段が現れて………


 「何をしたの?」


アルはちょっと引くぐらい笑顔だ。


 「ちょっとした嫌がらせ」


「もっと詳しく!」


「俺の脱出用にあった透明人間を作り出す魔道具により、

あいつを透明化。その後、持ってた脱出用魔道具で、

あいつを外に出した。コレによりあいつは、誰にも見つけてもらえない。

魔力はあいつのを使っているので、あいつは魔法を使えない。

よって、どうしようもない」


「うへぇ、なにそれ」


私は顔をしかめる。


………そっと私は、オークキングの幸運をお祈りした。


 「それじゃ、階段を降りようか」


「分かった」

私は返事をする。


そして、オークキングのことをすぐさま心の奥底へしまい、階段を降りる。


 「この先で、一旦休もう。もうきっと外では夜だ」


 そうして、階段を降りきった私とアル。

テントなんかは無いので、そのまま野宿だ。

じりじりと炎が私たちをあぶる。

暗くなって、少し肌寒くなってきたので、心が癒される。


しかし、このままほっこりしているわけにもいかない。


 「で?事情を説明していただきましょうか。アル=スラー=ルールド王太子殿下?」


「はい………」

しゅんとなって返事をするアル。


小動物みたいで可愛いが、それはそれ。コレはコレ。

ビシバシいく。


「じゃあ、聞くけど。なんで、アルはこのダンジョンに来たの?」


「えっと、それはだな。あれだ、王命だ。俺の父が、『そろそろ婚約者と共にダンジョンへと行け』って言うから」


 「なんで?このダンジョンってなんなの?」


 「王家に伝わっている秘密のダンジョン。入れるのは、王族とその婚約者の一組のみらしい。で、一回出たら、二度と入ることはできない。そういうわけだ」


 「へぇ〜。じゃあ、私が引き摺り込まれたのは?」


 「それは、わからない。おそらくだが、このダンジョンは必ず二人で攻略する必要のあるダンジョンだから、」


「近くにいた私も引き摺り込まれたと。じゃあ、この手錠も」


 「ああ、コレもダンジョンの試練のようなものだろうな。『婚約者とは互いに助け合いなさい』とか」


 「なるほど!じゃあ、あなたの近くに男がいたら………」


 「お、男と手錠で繋がれていたと。地獄じゃないか、それは!」


 「すごいくらいの偶然ね」


 「ああ………」

おそらく、その状況を想像しているのだろう。

アルがかなり青ざめている。


 「で、なんで、嫌がらせなんかしているの?『人を遠ざけるため』とか言ってたけど」


私が聞くと、アルは突然真剣な顔に変わり、まるで何かを恐れるように言った。


「………ノーコメントでいいか?これは、誰にも知られたくはないことなんだ」


 あまりの真剣さに、思わずたじろぐ。


 「わ、分かった。もう聞かないから。この質問はやめにする。

まぁ、不思議な縁だよね。でも、眠くなって来たから、おやすみ〜」


 「おい!話はまだ………」


 「ZZZ………」


 そうしてそのまま寝てしまった私。

アルも、その後普通に寝たそう。

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