第4話「二日目②」乙女のスーパーパワー、舐めないで欲しい

ダンジョンの出口から、戻るようにして、スタートしたダンジョンの探索。


不意に、アルが聞いてくる。


「ごめん。聞いておきたいけど、魔法って何が使える?多分、魔法使いだろ?」


個人情報ではあるが、この状況では仕方がない。

私は、答える。

「一通り。アルは?」


「俺も一通り」


「ほえ〜っ。一通り使えるなんてすごいじゃん!」

私は驚いた。


相当な魔力を持った人物だとはわかってはいたが、まさか私と同じように


たくさん使える属性があるとは………。


属性をたくさん持っていることは、すなわち強さに直結するらしい。

魔法の使える数が多いと、相手を撹乱できるからだとか………。


「でも、俺は闇属性が使えないし………」


「私は光が使えないよ」

私がそう言うと


「良かった。リアリが強そうで」


「当然。私はとても強いんです〜」

自己紹介を兼ねて、談笑しながら進んでいくと。

階段が見えてきた。


「あれ?ここで終わり?短いし、何もなかったね」

私がそう言うと、


「まぁ、第一層だけは安全地帯で、ここから厳しくなるらしい。

………心の準備はできたか?」

とアルが言った。


「当然でしょ!おっ先〜」

私は階段をダッシュで降り始めた。


「おい!待てよ。……うおっ!」


後からアルが追いかけ、いや、引っ張られて落ちてくる。


「あっ!しまった!鎖で繋がれているんだったぁぁぁぁああ」


気づいた時にはもう遅い。

二人で仲良く階段を転げ落ちていく。


「アイタタタタ」


「し、死ぬかと思った」


階段を千段ぐらい転げ落ちてしまった気がする。


「ここは………?ダンジョンだよね?」


あたりを見回してみる。

どう見ても森です。


「ああ。当然ここは、ダンジョンの中だ」

アルは体の埃をパタパタ落としながら説明する。


「このダンジョンは他のダンジョンと違ってかなり特殊らしくてな、

色々と試練を突破しなければ、前には進めないらしいんだ」


「へぇ〜。じゃあこれも?」


腕の手錠を指差す。


「まぁ、十中八九、そうだろうな」


そう答えるアル。

ふと疑問が浮かんだ。


「じゃあ、これってどんな試練なのかなぁ」


「!………そうだな、動きを制限しても戦えるってことじゃ無いか?」


「だって、それってこのダンジョンは、二人以上必須です、って言ってるようなもんじゃん。なんで、このダンジョンは二人以上って指定しているんだろう?

………それにも何か目的があるんじゃ………」


「………!!まぁ!いいじゃ無いか!それじゃあ!先に行こう!」


………なんか話を逸らされた。


「ねぇ、何か知ってるでしょ?」


「いや、知らないなぁ」


………絶対何か知ってそうだけど、まぁ別にいいか。


「じゃあ、行こうか」

アルがそう言うので、出発することにした。


歩き始めるとすぐに汗が出てきた。

ジメジメとした気候に加えて、熱が篭るような一面のジャングル。


………めちゃくちゃ暑い。


しかし、そんな中アルは汗ひとつかいていない。


「………アル、暑く無いの?」

私がぐったりと歩きながら問うと、


「これぐらい、耐えられるものだろう」


「いやキッツイし!!暑い!」


しばらく、暑い暑いと騒ぎながら、歩いていると、ふと魔力感知に何かが引っ掛かった。


「ねぇ、ちょっと………」


「ああ、囲まれているな」


私とアルは周囲を見回す。周囲には無数の気配が。


「ていうか、リアリが騒がしくしているからじゃないの?」


「失礼な!私は『静寂の女神』とかいう渾名で言われるほど寡黙なんだから!」


「………そのあだ名を付けたやつを見てみたいよ」


デビュタントや、その後のパーティーで、誰にも話しかけられなかったから、

とは口が裂けても言えない。

そう言って、アルと私は戦闘態勢に入る。


「燃えろ」


私は両手の指先に合計十個の炎を出す。

火の属性なら「燃えろ」で魔法が使える。


「風よ」


アルも呪文を唱え、風を掌に出現させた。

今なお、周囲の気配はじりじりと迫ってくる。


「いくよ!」


「おう!」


その言葉と同時に茂みに隠れていた魔物が飛び出してくる!


「ファイヤーボール!」


「ウィンドカッター!」


二人が同時に魔法を放つと、周囲の魔物は消し飛んでいく。

しかし、残った魔物が飛びかかってくる。

アルは腰に携えた剣を抜こうとするが。


「くっ!」


右手に繋がれた手錠のせいで剣が振れない。


「アル!剣を渡して!私右手が空いてる!」


私がそうさけぶと、アルは剣を渡してきた。


私は繋がれていない右手で剣を振るう。

手錠のせいで思うように動けないが、それでも魔物の命を刈り取っていく。

魔物の数は後残り少しだ!


「もう一回だ!ウィンドカッター!」


アルが再び魔法を放つ。


その魔法で残りの魔物を全て倒した。


「ふぅ〜〜」

私とアルは、息を整える。


「最初からこれは大変だね」


「……おかしいな」

ボソっとアルが呟いた一言を、私は聞き逃さなかった。


「何がおかしいの?」


「いや、父上はもっと数が少なかったって………」


何か深く考え込んでいるようだが、そんな事は関係ない!

尻尾を掴んだぞ!


「へえ〜、お父さんも来たことがあるんだ〜」


「!」


「で、親子で来たことのあるこのダンジョンは何?」


「………隠し切れないか……」

アルが頭を抱える。


「いや、多分アルの口が軽すぎる」

私がツッコミを入れると、アルは笑い出した。


「そうだな!そうだよな!なんかもう、どうでも良くなった。

どうせこのダンジョンだけの関わりだもんな!

俺がこういう他人をシャットアウトしようとする振る舞いをするのが無理だ!」


そう叫んだ後、私の方を向いて、

「改めまして。初めまして、お嬢さん。俺の名前はアル=スラー=ルールド。

この国の王子様だ!」


私は「嘘でしょ!?」と思わず叫んでしまった。


アルは私が信じてないと思ったのか。


「ほら、証拠。髪の毛は光の魔法で染めてる」


アルは言うや否や、髪の毛を黒から金髪に戻してしまった。


「え………嘘………本物………?」


「そうだとも。本物の王子様だ!どうだ、凄いだろ!」


アルが自慢げに言って来るが、私はだんだん冷静になってきた。


「………ちょっと………アル………歯、食いしばって」


「ん?」


「あのパーティーから、なんで連絡をくれなかったの!?

婚約者もほったらかしで!」


「へ?」


「『へ?』じゃない!………乙女の怒り、思い知りなさい!」

私は右手に魔力を纏う。

右手は、今、コンクリート並の強度にまで強化している。


「え?何………もしかして、君、リアリ!?」


「今更気づいても、もう遅い!!ずっと放置されてた分の拳を、受け取りなさい!」

私はそのまま右手を振り抜く。

幸いにも、アルはガードしていたらしく、腕がめり込むようなことはなかったが。

アルは、勢いに任せて宙へと飛んでいった。

いい気味だと思っていると、


左腕が引っ張られる感じが………。


「しまった!鎖で繋がってたああぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁあああ!!!!?」

私が殴り飛ばした勢いそのままに、私とアルは飛んでいく。


「アイタタタタ、………ここは?」


意外と吹っ飛ばされたアルに引っ張られて落ちて来た。

あたりを見回すと、めちゃくちゃに大きな扉が向こうのほうに見える。

ここはまだジャングルの中なのに、そこだけが異空間のようにひらけている。


「どうやら、ここの層のトップがいる部屋みたいだな」


いつのまにか復活したアルが言う。


「………話は後から聞かせてもらうからね!か弱い少女を無下に扱った罪、晴らさせてもらうから!」


「いや、か弱い乙女って………」


私はすっくと立ち上がり、自分の力を強化してズルズルとアルを引きずっていく。


「あの?立ち上がれませんが………」


王子なのに敬語になって来たが無視する。

そのまま、扉の方へと向かっていく。


「俺、ずっとこのまま?」

アルはぼそっと呟いた。

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