第3話「二日目①」どこへいく、私の幸運

神歴27年、無の月。24日。一部の集落では、「有の月」とも呼ばれたりするそうですが。


この日が、きっと運命の日だったのだと思う。


私はいつもの様に、街をスキップしながら歩いていると。



……正直、いつもはスキップまでは行かなかったが、今日はテンションが高かった。



まぁ何ともこそこそと歩いている怪しいフードの男がいる。

私はね、常に自分の半径数十メートルにいる人のことは魔力量と体格ぐらいまで、

把握できるように魔力を広く、薄く纏っている。



……正直、こうでもしなきゃ、伯爵家令嬢が一人でこんな街中は歩けない。



でも、なんとこの人、調べてみてわかるけど、相当な魔法の使い手だ。

相当な魔力を内包しているのが分かる。


この男の人は、まっすぐ町の外へと向かっている。


どこへ向かっているんだろう?


私は伯爵家の令嬢だから、この領地を守らなければければという強い正義感にかられる。


『おい、2度と絶対に怪しい人についていくんじゃないぞ!』


三日前、誘拐犯に飴で誘拐されかけて、父に怒られたことなどもはや過去のこと。

こそこそとついていくことにした。

忍者の様にすささささっと建物に隠れながら追跡する。

町の外へ出ても、木の陰に隠れたりしてついていく。


私って忍者に向いているんじゃ?と幻想を抱き始めた頃、

ようやく目的地に着いた様で、フードの男が足を止めた。


何やらぶつぶつ言っている。



「ここ……私………やってやる………」



ここには何もないのに、ご苦労なことだなぁ。

やれやれと帰ろうとしたその瞬間。


凄まじい閃光が。

眩しくて目を開けていられない。


思わず目を閉じると、何やら引っ張られる。

負けじと抵抗するが、引っ張る力は相当強く、ついにはどこかへ引き摺り込まれた。



………身体強化魔法を使えば逃げきれたんじゃ?


そう気づいたのは、それから5分後のことだった。


「…………!……い!」



………何やら声が聞こえてくる。


「………お……い!……ろ!」


声はだんだんはっきりと聞こえてきた。



「おい!起きろ!」



私はハッとして目を開いた。

目の前にはフードを外した先程の男の人が。


………?どこかで見覚えのある顔だなぁ。


私は男の顔をじっと見つめ、頭をひねる。

最近見た?いや、違う。

じゃあ昔?でも、こんな知り合いはいない。


「どうした?具合でも悪いのか?」

男が問いかけてくる。


「いや……別に大丈夫です」

やっぱり、誰だかわからないので、少し猫をかぶって答える。

「申し訳ございませんが、ここはどこでしょうか?」

私が男にそう問いかけると、

「すまん。詳しくは言えないが、ダンジョンの中だ」


「ダンジョン!?」

私は飛び上がる。



ああ、ダンジョン!



夢には見ていたけど、まさかこんな状況で!


………少し、取り乱したけれど、それぐらいダンジョンというものはすごい。


なぜなら、ダンジョンは、賢者と呼ばれる大魔法使いが作るものであり、

クリアすれば、超魔法的アイテムが手に入る。

今まで、クリアされてきたダンジョンは、3つ。

そのどれもに、素晴らしいアイテムがあったらしい。


例えば、一晩で、街が作れる魔導書とか。

例えば、次元を超えることができるポータルとか。

それはもう素晴らしいアイテムが目白押し。

是非とも行ってみたい場所であるのだ。


まさか、そんなダンジョンに来ることができたなんて!


「おい、大丈夫か、君」

思わず考えにふけっていた私に対して、心配そうに声をかけてくる男。


「はい!大丈夫です!」


「お、おう」


私の返答の剣幕の凄まじさに、思わずたじろぐ男。


「それじゃ、出発したいけど、いいかな?」


「ええ、構いません」

そう言って立ち上がろうとすると、右の手首に何やら違和感を感じる。


そちらの方を見てみると、ゴツゴツとした手錠がくっついている。


じっと見つめてみると、何かと繋がっているようだ。

鎖を辿っていくと、なんと、そのゴツゴツとした鎖は、男の左腕とくっついている。



「え?なにこれ?繋がってる?」



口をついて出た疑問に、

「それなんだがな、ダンジョンに入った時からついてたんだよ。君は何か知らない?」


「いえ、何も………」


「それじゃ、仕方がない。一旦出ようか」


男が立ち上がると、それに引っ張られる。


「ちょっと、気をつけてください!」


「あぁ。すまん」


男は自由な方の手で、私を立ち上がらせてくれた。


「ありがとうございます」


お礼を言うと、男は、


「いや、お礼を言われることのほどでも」


とにこりと笑って返答する。

さて、ある程度状況を理解してきた今、考えることがある。

顔を隠すなんてどんな事情があるのだろうか、と考えていたけれども、

男の顔を見て、こりゃ、隠すわけだ、と心底納得する。


サラサラの黒の髪。目は澄んだ青色である。

目口鼻が顔にピタリとフィットしている。

正直言って、これまで見たことがないほどに、イケメンだ。


………こりゃ、街中でフードを外す方が迷惑だな。


それぐらいに整った顔をしている。

きっと、人が集まってきて、大混雑だ。


………まぁ、私は面食いとかでも無いし。あんまり気にすることはない。


さて、歩き始めて十数分。

私はあたりを見回す。どうやら、入口らしき扉の前についたらしい。

でも、隣に石板がある。


何何?



『この洞窟は、一度しか挑戦出来ない。それでも構わないものは、右の出口へ』



「「はあっっ!!??」」

石板に書かれていることに驚いてしまう。



……まさか一回しかチャレンジできないなんて。



隣にいる男は、血の涙を流しそうなほど悔しそうだ。


「くそっ!なんで………」


ちょっと異様な男の雰囲気と、一回きりというフレーズの誘惑に思わず


「このダンジョン、二人でクリアしませんか?」

と提案してみる。


「はぁ!?俺とお前でか?」


「はいっ!」

と元気よく答え、

「あなたにはこのダンジョンを突破しなければならない深い事情があるのでしょ?

だとすれば、この一回切り。無駄にするわけには行きません!」

と説得してみる。



………本音では、是非とも「一回きり」と言われるほどのダンジョンの景品を見てみたいのであるが、そのようなことには一切触れず、もっともらしい理由を口から出まかせで言った。

男は深く深く迷っているような様子であったが、


「………名前」


「はい?なんですか?」


「名前を教えてくれ。ずっと『君』のままじゃ呼びにくい」


リアリなんて名前、あちこちで聞くし、それでいっか。

「『君』ではなくて、リアリと呼んでください」


「………俺はアルと呼んでくれ。それから、その変に気を使った口調もやめてくれ。

無理してるだろ?別にどんな口調であろうと気にしないから」


男も名乗り返す。向こうが許可を出してきたので、

「わかった。じゃあ、ここからは楽にさせてもらうね」

と敬語をやめた。


「そういえば、このダンジョンって、なんて名前のダンジョンだろう……?」

と私が思い出したかの様に話すと、


アルは、非常に申し訳なさそうに答える。

「………すまない。具体的なことはわからないが、地下23階まであるということは知っている」


「やっぱり、誰も知らない隠しダンジョン的なもの?」


「あ、ああ。きっとそうだろう」


………別にアルに聞いたわけではなかったが、答えが返ってきた。

………なんでダンジョンの階、知ってるんだろう?


少しの疑念を抱えるが、まぁ、いいかと忘れることにする。


扉に背を向け、再びダンジョンの奥へと向かっていく。



ダンジョン探索、スタート!


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