第1話 『101日目①』さよならの後で

チリチリチリ。


蝋燭が静かに揺らいでいる。


今が何時なのかもわからない、わかりたくも無い。


”おーい、早く起きろよ〜。早く起きないと今日の朝食は


美味しい美味しいハチの赤ちゃんだ。“





ふと、彼の声が頭をよぎる。


もし彼がいたのなら、きっと、こんな風に私を起こしてくれたのだろう。


でも、今は一人。どんなに待っても、彼は絶対に来ないだろう。



ずっとこのままでいたい。


そう思ってベッドの中にこもってはいるけれど、ずっと続く静寂に耐え切れなくなった。




ベッドから出て、窓を少し開けてみる。


どうやらまだ夜のようで、外は真っ暗闇。月すらも出ていない。


窓をそっと閉め、目の前の水晶玉をそっと覗く。


そこには、みんなの集合写真がある。


”よしっ。ここで俺たちの写真を撮ろう。未来永劫俺たちは一緒だぞ!。“



みんな笑顔だけど、私の心は晴れない。なぜなら、この時は2度と戻ってこない。


その現実を受け入れなければならないからだ。


もう一度窓の方へと向かう。そろそろ裸足で歩くのがキツくなってくる。


この時期は本当によく冷える。


窓から外を見下ろすと、随分と下に地面が見える。



“ここから落ちれば………”



ふと頭をよぎった考えを無理やりにでも忘れようと首をブンブンと振る。


すると、ベッドの上の方にある棚に置いてあった本が目に入る。


手に取ってみると、埃が積もっている。



“だからズボラって言われるんだよ………”



目の前に彼がいるような気がして、その本を開く。


日記だ。ページをめくっていく。




ペラリペラリ。




いつも嫌がらせをしていた、「嫌がらせ王子」だった。


誰よりもライバルだった。


誰よりも仲が良かった。


あの日から、ずっと私の好きな人だった。


涙が、ポロポロと出てやまない。


私は、涙を拭って日記の1番最初のページを見た。



『アルとリアリの長〜い3週間』



そう刻まれたタイトルに、涙ながらに笑みを浮かべる。



あの日、あの時、あの瞬間。


全てが始まったと言っても過言ではない。


再び、じっくりと。


一文字一文字を見返しながら。


思い出を回想していく。


たとえ、この物語の結末が、ハッピーエンドじゃなくても。


あの人といた、その時間が、私を幸せにしてくれるのだと、



そう信じて。

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