嫌がらせ王子と私の100日日記

青猫

−10 序章 ビフォーザ ダイアリー わたしと「あたし」の成長日記



彼女はいつも、誰かと話していた。

虚空に笑いかけていた。

少女は、それがどれだけおかしなことか、どこか理解はしていたのだろう。

だから、彼女は自分一人のとき、話しかけるようにしていた。


「おはようございましゅ!ゆうれいさん!」


『はぁ〜、幽霊じゃないって言ってるでしょ。あたしは』


小さな彼女には、いつも自分の隣に浮いている不思議なものが見えていた。


「じゃあ、ゆうれいさん、おなまえは?」


『だから、幽霊じゃないって。………あたしの名前?

………なんだろう?思い出せない、なんで!?』


「じゃあ、わたしがつけてあげるね!」


『………お願いしてもらってもいい?』


「わかった!んーとね、ゆうれいのおねーちゃんのなまえはね……」


少女はふわふわと浮く少女の周りを見て、少女の名前を思いつく。


「じゃあね、ゆうれいのおねーちゃんのなまえは、ひかりおねーちゃん!」


『ヒカリ、ヒカリかぁ………。なんかいいね、この名前!』


ひかりと呼ばれた少女は、何度もその名前を口の中で呟き、笑顔になる。


『じゃあ、あたしはヒカリって事で。よろしくね!』


「わたしはね、りあっていうの。」


『うん、リアね!覚えたよ!よろしくね、リア!』


これは、リアと呼ばれた少女と、ヒカリと呼ばれた少女。

二人が紡ぐ、出会いと別れのストーリーである。




その挨拶から、数日が過ぎ、少女はまた、一人になる機会を得た。


「ひかりおねーちゃん!ひかりおねーちゃん!」


『なぁに、リアちゃん』


ふわふわと浮く少女は、小さな少女に笑顔になる。


「ひかりおねーちゃんって、どこからきたの?わたしはね、ここにすんでいるの!」


『あたし?あたしはね〜、日本っていうところから来たの。知ってる?日本』


「にほん〜〜?わかんない!」


二へへと笑顔になるリアにつられて笑うヒカリ。


『そっか〜。でもさ、凄いよね!みんな魔法が使えるなんて!』


「まほう〜?」


大きく首を傾げるリアに、


『え〜と、皆おててから火や水を出したりしてすごいねって』


「わたしもできるよ!」


魔法は、唱えるだけでできるので、簡単なものは小さい頃から教えられている。


「みずよ〜〜!うぉーたー!」


掌から、飲み水を出現させるリアに驚くヒカリ。


『わぁ!すごいね!リアちゃん!』


「えっへん!」


胸を張るリアに手を叩くヒカリ。


そこに扉のノックする音が。


「お嬢様!お嬢様!お食事のお時間でございます!ヒョヒョヒョ!」


この家の執事長をしているセバスチョンだ。


ヒカリは、この名前を聞くたびに、

(惜しいな〜)

と思ってしまう。


「こわいよ〜………」


涙目になっているリア。

確かにこの笑い声に怖がらない人はいない。

誰だって一度はびびる。


『大丈夫。私がついてるから!』


「………わかった!ひかりおねーちゃんがいるからだいじょーぶ!」


「ヒョヒョヒョ!入ってもよろしいですかな〜」


「まって!いまいくから!」


トテトテと扉の方へと歩いていくリア。

扉は、リアでも開けられるように低いものになっているので、扉を開け、

セバスチョンの前に出てくるリア。


「準備は調いましたか〜?」


「うん!だいじょうぶ!」


「それではお食事に向かいましょう!ヒョヒョヒョ!」


『やっぱり怖いよ、これ』


「………」


セバスチョンの周りを飛び回るヒカリに目を向けるリア。


「ヒョヒョヒョ!そちらになにかいるのでしょうか?」


「んーん。なんでもないよ!」


「そうでしたか、それでは!」


リアはセバスチョンの後ろを、一生懸命についていく。


そうして、リビングに着くと、ご飯が用意されていた。


『えー、また黒いパン。もっとふっくらとしたのないのー?』


何やら、ヒカリはわがままを言っているが、リアはそれにお構いなく食べる。


「ごちそーさまでした!」


そう言って、リアは急いで席を離れる。

こうしないと………


「リアお嬢様、食べ残しはいけません!」


とメイドさんからキツイお説教が来るのだ。


「いや!」


どうしても食べられないリアは絶対に首を縦に振ろうとしない。


『まぁ、にんじんやらピーマンやら。子どもの嫌いなものたちばっかり残して………』


ヒカリはリアの残した皿を見て、うむうむとうなづいている。


そうしている間に、リアは自分の部屋へと戻ってきた。


『にんじんとか、どうしても嫌?』


ヒカリはリアにそう問う。


「い、や!」


絶対に食べるもんか!という雰囲気を出している。


『まぁ、いつか、食べられればいいんじゃない?』


と呟くヒカリ。

彼女たちの日常は、まだまだ続いていく。





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