第110話 医術師
オランドさんの村まで戻って来ると、入り口で慌てて走って来たコタロウ達に「おかえり」と出迎えられたが、僕が「ただいま」と言うと、コタロウとアラニャとブランはなんとも言えない顔をした後で、カルラを見た。
「いや、間違いなく、ドリアードさんのとこにさっき向かったばかりだってメイジーは言ってたっすよ」
そう言ったカルラが首をブンブンと振ると、今度は3人が僕を見る。
「うん、カルラの言う通りだよ。ドリアードさんの魔法で送ってもらったからすごく速く移動できたんだ。花でビューンって飛ばしてもらうんだけどさ、かなり速いよ」
そう言って僕は笑ったけど、コタロウ以外の3人は「えっ?」と固まる。
「アル兄ちゃん、花で飛ばすってこれ?」
固まらなかったコタロウがしゃがみながらそう言うと地面から蔓を伸ばして、ドロリスさんが出した花のものすごく小さいやつを出した。
「そうそう、これ! これのかなり大きいやつでね。僕を一旦飲み込んで吐き出すんだ」
僕がその花の前でしゃがみ込んでそう言うと、コタロウは「なるほど」と頷いたが、カルラ達は「なっ」と驚いた。
すると、花の隣の地面から蔓が伸びて来てキュルキュルと人型になった。
「コタロウ、あんた、森とリンクも出来ないのにアルフレッドを飛ばしたらダメよ。着地点の様子もわからないのに飛ばしたらアルフレッドが死ぬわよ」
そう言って人形は、コタロウに指を突き付けた。
「えっと?」
「あんた、アルフレッドと違って勘が悪いわね。ドリアードのドロリスよ」
「えっ! ドリアードさんってこんなに小さいの!」
とコタロウが驚くと、カルラ達は「ハァ」とため息を吐いた。すると人形がプンプンと手足をジタバタさせる。
「そんなわけないじゃない! 森の力を借りて遠隔で話しているのよ。わかりなさいよ、それぐらい」
コタロウが「あぁ、なるほど。すげぇ」と言いながら人形を触ろうとすると、人形がその手をバシッと払いのける。
「気安くレディに触れるんじゃないわよ!」
人形がそう言って怒ると、コタロウは「あっ、ごめん」と謝る。そこで再びカルラ達が並んで「ハァ」とため息を吐いた。
結局、その後でコタロウがドロリスさんから着地点の様子を探る魔法を教わる事になった。森とのリンクは出来なくても、その魔法があればとりあえず着地点の確認が出来て安全らしい。
「アルフレッドに馬車代わりにされたくないから教えてあげる」とドロリスさんは言ったけど、確かにコタロウがあの魔法を使えるようになれば助かるね。
という事で、コタロウはその場で人形のドロリスさんから魔法を教わる事になったので、僕達はオランドさんの村に入った。
村に入るとオランドさんの家から出てきたダインさんとエミリアさんが走ってきたので、僕は2人と挨拶を交わした。
「アル様。蜜は手に入りましたか?」
「はい、こちらです」
僕がそう言ってエミリアさんに蜜を渡す。
「ところで、医術師さんは来てくれたのですか?」
僕がそう聞くとエミリアさんは苦笑いを浮かべて、ダインさんが「ガハハ」と笑う。
「医術師はエミリアだよ、アル様」
「えっ? エミリアさんは商人じゃないのですか?」
僕が首を傾げてエミリアさんを見るとエミリアさんは小さくなり、隣のダインさんはさらに愉快そうに笑う。
「エミリアはこう見えて、若い頃は腕のいい医術師だったんだ。協会の爺様達に女性を理由に馬鹿にされ続けた結果ぶち切れてやめたんだけどな」
ダインさんがそう言ってエミリアさんに視線を送るとエミリアさんは頷く。
「それで困っていたところをコルバス叔父さんに拾ってもらって、商人をやっているんです」
「そうだったんですね」
僕が頷くと、ダインさんが頭を掻いた。
「だからイーハンの横暴なやり方が気に入らなくて、エミリアはアル様を利用しちまったんだ。すまねぇ」
「その事はもういいですよ。それに今回はこうして助けに来てくれたんですから」
僕が笑うとエミリアさんは「すみません」と頭を下げた。
エミリアさんに薬の作成をお願いして、ダインさんとエミリアさんがオランドさんの家に入って行くのを見送ると、カルラが僕の両肩を掴んだ。
「アル様」
「うん? どうかしたのカルラ?」
僕が首を傾げるとカルラは涙目になりながら「あんな量の蜜を……」と言った後で「浄化するっす」と言い出した。なぜか慌てたアラニャが「ダメ!」と言ってカルラを後ろから羽交い締めにして、止める。
うん?
「2人とも何やってんの?」
僕が首を傾げて取っ組み合っている2人を見ていると、2人ともこちらを見た後で、しょぼんというように肩を落として俯いた。
「エミリアさんから、ドリアードの蜜の作り方を聞いたっす」
「私達、知らなくて……」
「その、したっすよね?」
カルラがそう言って、2人とも上目遣いでこちらを見るので、僕は「してないよ」と答えた。
「「えっ?!」」
「ドロリスさんにはポールさんって想い人がいたから、今回は特別に手から吸い取ってもらったんだ。だから手を繋いだだけ」
僕がそう言うと「良かったっす」「良かったです」と2人が半べそで抱きついて来たが、カルラが「危険だから先にもらっとくっす」と言うと、アラニャが再び羽交い締めにして、そこから取っ組み合いが再開された。
僕はそんな2人を横目に見つつ、ブランを見た。
「ブラン、ロウカストはどうだった?」
「ウロスの街、近く、大量、放置、危険」
「そっか」
困ったね。
僕が頷くとブランは自分のマジックバックから小さな虫型の魔獣を取り出した。
うん?
「もしかしてロウカスト? ずいぶんと小さいね」
僕が言うとブランが「小さい、だけど、空見えない量、厄介」と言って眉間にシワを寄せた。
「それは、ウロスの街が心配だね」
僕がそういうとカルラが「ウロスの街には先にポーションと食料は置いて来たっす」と言う。
「カルラ、ありがとう。様子はどうだった?」
「残念っすけど、もう街として機能してないっす」
「そうなんだ……」
僕が言い淀むと、カルラが頭を掻いた。
「街壁は機能しているっすから、ロウカストは街の中までは入り込んでいないようっすけど、近くの森の中はロウカストでいっぱいっすから、残っているのが、街付きの貴族と数人の冒険者達ではあの街から逃げ出すのは無理っすね」
「となると、やっぱり疫病が治ったら、先にロウカストとウロスの街をなんとかしよう。そもそも疫病の元凶はスグノキとロウカストなんだ」
僕がそう言うと3人は「わかった」と頷いたが、その顔は険しい。
3人がこんな顔するなんて、かなり厳しいんだね。それはそうか、なにせ量が多いし、多分中には変異型や、闇落ちもいるだろうね。
「それから、今回はアラニャはお留守番だね」
「アル様……」
「ロウカストに付着している苔はアラニャには毒なんでしょ?」
「だけど、みんなだけでは辛いのではないですか?」
アラニャはそう言うが僕は首を振る。
「ダメだよ。アラニャに何かあってからでは遅いからね」
僕が頷くとカルラも「そうっすよ」と続いて、ブランも「そう、任せて」と笑う。
確かに厳しいかもしれないが、アラニャに毒なのがわかっていて連れて行くわけにはいかないよね?
僕らがそんな話をしていたらオランドさんの家からダインさんが出てきた。
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