第71話 サハギン
夜が明けたけど眠い。
でも仕方ないので準備をして、宿屋の主人に謝罪とお礼の挨拶をしてから宿を出た。
もちろん後日、キースさんの方から正式に今回の件の賠償金が支払われるけど、コタロウの提案で宿代に色をつけて支払っておいた。
迷惑をかけたし、また来たいからね。
目を擦りながら湖の辺りまで来ると、サハギンさん達がすでに待っていた。ズラリと並んで、サーシャの父親で村長のサイモンが1歩前に出て頭を下げる。
「アルフレッド様、この度は娘を助けて下さり、さらに村も私達も助けて下さって、ありがとうございます」
「サイモンさん、僕はお爺様から領民を助けるように言われていますので、領民を助けるのは当然です。なので、気にしなくて良いですよ」
「いや、我々は・・・・・・」
サイモンさんが額を掻きながら苦笑いするとカルラが「まあ、そこはアル様なので」と笑う。
「それからアルで良いですよ。長い名前は慣れないので」
「分かりました。アル様」
そして、あのサーシャを庇ってくれた漁師おじさんに舟を借りて、サイモンさん達の案内でサハギンの村に来た。湖の中にある島の岩壁に空いた洞窟を抜けると、岩壁に囲まれた砂浜と、その奥に森が見える。
「これは素敵なところですね」
「そうですか? ありがとうございます」
「洞窟を通らないと来れないんですね?」
「はい、周囲を切り立った高い岩壁に囲まれていますので」
確かにこの高い岩壁に囲まれていれば安心だね。
村に来ると歓迎された。そこはサーシャに渡した食料のおかげかと思ったのだが、どうやら昨日の話をサーシャが得意げにしたらしい。
口々に褒められるのは、何か恥ずかしいね。
そして、とりあえずしばらくはこの村に滞在して、泳ぎを教わる事になった。講師はサイモンさんとサーシャだ。
僕らはみんな水着に着替えて、まずは水に入ることから習う。入れるようになったら、水に顔をつけて、さらに潜って、次に目を開けて、段々と水に慣れていく。
それに慣れたら泳ぎ方を教わった。足の打ち方、手の掻き方、さらに魔力を使って指の間に水掻きを作ると早く泳げた。
だいぶ泳げるようになったけど、タートルのいる湖の底まではまだ潜れない。
サイモンさんは水と一体になるのがコツと言ったけど、イメージが沸かないんだよね。
ここしばらくは慣れるように、街とは対岸の岸まで泳いで行って、その近くでホーンボアとファングディアの狩りをしてから、再びサイモンさんの村まで泳いで戻るを繰り返している。だけど、まだ長くは潜れない。
「やはりアル様達があの底まで潜ってタートルと戦うのは難しいかもしれないですね。我らにもっと力があれば」
「だけど、最近は魔獣を食べているから強くなっているんじゃないですか?」
「はい、多分強くなっていると思いますが、まだタートルの甲羅は破れないと思います」
僕とサイモンさんが「うーん」と悩んでいると、カルラが「進化したら良いんじゃないっすか?」と首を傾げた。
「進化ですか?」
「そうっす。たぶんかなり魔獣の肉も食べたし、アル様と主従契約すればサイモンさんは進化すると思うっす」
「そうなのですか?」
とサイモンさんは身を乗り出したが、僕は「ダメだよ」と首を横に振る。
「サイモンさんが望んで従者になってくれるなら分かるけど、進化と引き換えとかダメだよ」
「アル様、コタロウさんの父上のシュテンさんの村や、アラニャさんの母上のアラネアさんの村の話は聞きました。出来れば我らもアル様の従者にしてもらえないでしょうか?」
「構わないですけど、本当に良いのですか?」
「はい、村のみんなと後で従者にしてもらおうと話をしておりましたので」
そして、主従契約をする事になったのだが、もちろん不安があるのでコタロウを見た。
「アル兄ちゃん、サハギンさん達はたぶんメロウっていう、もっと人族に近い種族になるから服は必要だよ」
と言うので、カルラがひとっ飛びアラネアさんの村に行って水着を奪って来た。アラネアさん達はまた作るから良いと言ったらしいけど、申し訳ない。今度お詫びに何か送ろう。
それは置いといて、とりあえずサハギンさん達に水着を配り、それぞれ男性陣と女性陣に分かれて森に入ってもらい。コタロウ達とカルラ達に補助についてもらってから、僕はサイモンさんと主従契約を結んだ。
やっぱり光に包まれて、サイモンさん達はメロウと言う種族に進化した。男性も女性もかなり人族に近くなったので水着を着てもらう。
さらにサイモンさん達は魔力がかなり増えたので、コタロウが身体強化魔法を教えた。
その間にカルラはシュテンさんの村まで行って、タングステン製の槍を頼んで来た。とりあえず10本出来たらカルラの舎弟が届けてくれるらしい。
そして、ブランが『ディスチャージ』のやり方を教えると元々雷属性だった数人がマスターした。普通に羨ましい。
なんかさ、また僕は役に立ってないね?
そう思ってブラン達を見ていたら、アラニャが「アル様は役に立ってますよ」と微笑んだ。
うん、ありがとう、泣かないよ。
それから戦闘訓練などをして過ごして、タングステン製の槍が届いたので、サイモンさん達のタートル狩りが始まった。
10人の男達が毎日200匹近いタートルを狩って来る。残った男性と女性達はそれを端から解体して、肉と魔石はどんどん食べて、甲羅はマジックバックに詰めていく。
この肉や魔石、甲羅は僕らにも分けてくれるという事なので、後でシュテンさんとアラネアさんの村に送ろうと思うが、とりあえずカルラの舎弟が追加の槍を届けに来る度にあるだけ持たせた。
シュテンさんの村から新しい槍が届く度に狩りの人数も増えて、狩りの人数が50人を超えるとかなりタートル狩りが進む。そして、シュテンさんの村から甲羅の加工品と加工方法が送られてきた。
バングルやペンダント、日用品に加工された甲羅は綺麗だし、どうやら水耐性や幸運の効果があるそうだ。
さらにビックアントの外殻を外装用に加工した物も送られて来て、斧やノコギリ、カナヅチや釘、それから簡単な造りの家の図面が送られて来た。
さっそく狩りに行かない数人で、裏の森の奥の方の高台の木を切り出して、その場所に図面を見ながら木を組み合わせて建物を立てて見た。
さらにそこにビックアントの外殻を加工した物を釘で貼りつけていく。
なかなか立派な建物が出来たので、それを見ながらみんな満足気だ。
「良いですね」
「はい、素晴らしいです」
そこから僕らとサイモンさん達は手の空いている者をフル動員して、次々に家を建てていった。子供達も楽しげに物を運ぶお手伝いなどをしている。
今までは浜辺に長い枝を蔓で組んで葉っぱ乗せた家で、砂浜にそのまま寝ていたからね。だけど、こうなるともちろん家具も欲しい。
と言う事でとりあえず、タートルの肉、魔石と甲羅、それからファングディアの肉と皮を対価に、シュテンさんの村からファングディアの皮を加工した敷物と簡単な家具の図面を、アラネアさん達の村から布と替えの水着を送ってもらった。
数日で一気に生活水準が上がったね。
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