閑話.侯爵家の人々?
1.バルトゥール
全く、最近の下男は礼儀というものを知らんのかっ!
というか、扉に細工して開かなくするとか普通に監禁じゃろが!?
おん? 儂が誰かじゃと?
何を言うておる。
儂はバルトゥール・レーニじゃぞ、レーニ前侯爵閣下様に決まっておろうが!
まぁそんなことより、あのクソ生意気な男は本当に侯爵家の使用人なのか。
息子に家督を譲り隠居したとはいえ、儂も貴族の縁戚であることには変わりないというに、アレはまるでこちらに敬意を払わん。
それどころか正面より衝突して来おる。
物理的にもじゃぞ、信じられるか?
何より!
あ奴のせいで儂の可愛い可愛い孫娘のリュミエールを構えんっ!!
儂はっ!
リュミエールを!
猫可愛がりたいから!!
この遠く離れたクラウディアス領にまで来たんじゃ!!!
それをあの忌々しい使用人めが、とことん邪魔しおって。
あぁ、腹が立って仕方がない!
しかし、今はそんなことよりリュミエールのことじゃっ!
やはりリュミエールは我が孫ながら可愛いのう。
更にはその可憐なる身の内には凛々しさすら同居させておって、もうず~~っと見ていられるのう。
いっそ極小の似姿を画家に発注して、目に入れておくというのはどうじゃっ?
儂はリュミエールなら目に入れても痛くないんじゃい!
ぬっ!?
そんなことを考えていたら、あれに見えるはリュミエールではないかっ!
・・・・・・最近飼い始めたデカイ魔物と素手で
儂、あれ、素直に恐いんじゃけど?
なしてリュミエールはあんなデカブツ相手に戦闘訓練なぞしておるんじゃ?
最近時々孫娘が何を考えとるのか分からんで、不安なのじゃが・・・・・・
2.エリーさん
私がここ、クラウディアス侯爵家にご奉公に来てから、もうそれなりに経つ。
最初にここで働かないか、って誘われたときは何の冗談かと思ったね。
何せ誘われた当時、私は冒険者やってる腕っぷしの強いただの小娘でしかなかったし、別に有名なわけでもなかったしね。
あの頃にはもうリュミエールお嬢様は立って歩けるようになっていて、旦那様が言うには娘のためにお屋敷で護衛もできる女性を探してた、とか。
・・・今でこそお屋敷で色々教えてもらってある程度はできるけど、誘われた頃の私は自慢じゃないけど家事の類なんざ一切合切できやしなかったんだからね?
護衛も、というよりか、護衛しかできなかったさ。
それでも何が気に入られたのか、旦那様にも奥様にも快く迎え入れて頂いた。
そこからは日々があっという間に感じたね。
リュミエールお嬢様は今よりもっと幼い頃から活動的であっちへフラフラ、こっちへタッタカ、じっとしていられない方でお屋敷の中ですら目を離せなかったし、何年かすると私含む何人かの護衛を撒いて馬車に轢かれかけたり、かと思えばお嬢様を馬車から守ったとかいう死にかけの男がお屋敷で治療を受けるようになり、そいつは身体も治りきらないうちから抜け出しては更にボロ雑巾になって帰ってきたり、回復した途端にお嬢様に付きまとい始めるわ・・・そいつの影響なのか何なのかお嬢様の無茶は頻度も程度も年を負うごとに悪化の一方で。
近頃じゃでっかい魔物を飼い始めて、あまつさえその魔物を相手にして徒手空拳での戦闘訓練なんてものまで始められる始末。
お嬢様はどこを、そして何を目指してるのやら・・・
あ、お嬢様。
街道に出没する盗賊の捕縛に付いてっちゃあダメですよ。
アルとソラがいるから大丈夫、じゃないですってちょっと!!?
3.???
「・・・」
ゆったりとした風が通りすぎていく。
ここは酷く平和だ。
「・・・・・・」
争いがないわけではないが、毎日、目が覚めていても寝ていても常に争いしかなかったあの場所に比べれば、それこそ天津国と冥府ほどにも差がある。
「・・・おい」
敗者の理に従い軍門に下ったが、生活は以前より遥かに良くなった。
「おいこら、
「・・・」
まったく・・・今の境遇を穏やかな気持ちで噛み締めているところだというのに、無粋な声をかけてくる者がいるな・・・
確か、アルフレドとか言ったか。
我輩を打ち負かした人間の子供に仕えているらしいが、裏で何かとコソコソやっておるようだ。
地下に謎の道を作ったり、壁を僅かずつ変形させたり、魔物の領域に頻繁に通ったり。
・・・本当に仕えているのか?
我輩の認識では仕えるというのは陰日向に主人を支え補うことを言うはずだが、最近は意味合いが変わってきたのだろうか。
長く生きていると、しばらく前まで通じていたはずの言葉の意味が分からなくなることも珍しくない。
単語の意味は分かるのだ。
いや、分かっていたはずなのだ。
それが文章として組立った途端に意味が通じなくなる。
いやしかし、此奴以外の者を見る限り、我輩の認識で間違っていないようにも思うのだが・・・
一度問うてみるか?
だがこの家でかわゆい
「あなた、人の言葉が分かるだけでなく話せもしますよね?」
「・・・」
・・・
「にゃ、にゃあ~・・・」
「貴様サイズの猫科がんな鳴き声出すわけありますかっ、器用に猫なで声出しおって! 大体いつも普通に大型獣相応の声で吠えているでしょう!?」
どうして此奴がそのことを知っている!
おかしい・・・!?
我輩はここに来てから一度も人の言葉を口になどしていないはず!
「いや、あなた初対面で思いっきり『ぐふぉあっ』って言ってますから。あれ普通の動物とか魔物とかが出す類の声じゃありませんでしたからね?」
「むぅ・・・」
よもや、その様なところからバレるとは。
「不覚・・・」
「つか、なんで話せない振りなんてしているのですか?」
「なに、昨今の人というのは話しが通じる同胞より、口を利けぬが従順な獣を可愛いと思うのだろう? 我輩も主人に末長く面倒を見てもらえるように、愛らしい
「少くとも自らを家畜呼ばわりする大型の魔物に可愛さを求めなければならないほど飢えた人間はここにはいませんよ」
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