10.わが家の珍客
「はい、これまでとしましょう」
「はぁ・・・っ、はぁ・・・っ、・・・ありがとうございました」
今朝はアルを講師に日課を消化しています。
「・・・あの、お嬢様」
「・・・はぁっ・・・なんで、しょうか・・・?」
まだ少し息が整いませんでしたが、アルが珍しく苦悩した顔で呼びかけてきたため、用件を問い返します。
まぁ、なんとなく言わんとしているとこに予想はつきますが。
「本日も、あれを
「ふぅ・・・えぇ。このような機会に、そうそう恵まれることでないのはわたくしでも分かります。活かさない手はありませんから」
「確かにそうかもしれませんが・・・」
アルの懸念も理解しているつもりではあります。
しかし、いつまで続くか分からないのですから、少しでもこの機に学べるものは学んでおきたいのです。
「・・・畏まりました。ですが、これまで通り私や他の護衛が近くで監督しているとき以外は、本当に、本っ当~~~に、近づいてはなりませんよ!?」
「念を押し過ぎです。はじめからその約束ですから、そこは
「お嬢様~~~~~っ!!?」
・・・アルが何をここまで騒いでいるかと申しますと、
「ソラっ」
「ぐぉうっ!」
わたくしの呼ぶ声に反応してこちらに駆けてきた、この白く、見え方によっては白銀に輝いて見える体躯とたてがみを持つ、四日ほど前からわが家の庭に居座る四足大型の魔物についてです。
「本日も、お願いしますね?」
「ぐぁーーーぉうっ!」
この子との出会いは今から五日前のことでした。
◆
「決してこいつを後ろに通すんじゃないぞ!! 何がなんでもお二人に指一本触れさせてはならん!」
「おうっ!」
「当然だっ!」
「意地でも通さん・・・っ」
魔界と呼ばれる領域。
そのごく浅い位置で、雄々しく声を上げる護衛の兵の方々がわたくしとフィリオを背に魔物と対峙しています。
―がぁぅああああっ!!!
相手取るのは身体の所々に浅からぬ裂傷を負ったアサルトレオー。
魔界内での生息数が多いのか、それとも縄張り争いが盛んなのか、魔物との遭遇そのものが低頻度である魔界との境目付近では比較的よく出会う魔物であり、そのため被害が最も多い魔物です。
魔界との境界付近は兵士の巡回経路となっており、本日はわたくしとフィリオが同伴させて頂いておりました。
わたくしは以前より時折同道させて頂いておりましたが、フィリオにとっては今回が魔界を通る巡回への初参加となります。
目的はクラウディアス家の者として、いざというときのために魔物に慣れておくこと。
と、こういったわけで。
こちら側にはあまり姿を現さない魔物と遭遇できたという意味では運良く、しかし初めての参加で魔界の空気に慣れるより早くエンカウントしてしまったという意味では運悪く、早々に目的を達成してしまいました。
わたくしたちのすぐ手前にも二名の護衛が付いているとはいえ、流石にフィリオもこの距離で魔物に
あぁ、わたくしにもこうして怯えている時期がありましたね・・・などと懐かしんでいないで、姉として少しでもフィリオを励ましてあげましょう。
「フィリオ、相手が恐いですか?」
「・・・ぅ、ぁ。は、はい・・・姉、さま・・・」
その答えを聞いて、わたくしは有無を言わさずフィリオの手を握ります。
「・・・ぁ」
こちらに向くその瞳をまっすぐに見つめ返しながらわたくしは続けます。
「恐いことを素直にそう口に出せるのは良いことですよ。それに、恐くてもしっかりと魔物との戦闘に目を向けていられるのも凄いことです。わたくしは、初めてここの魔物と遭遇したときはあまりにも恐ろしくて、ずっと目をつむって泣いていたのですから」
「え・・・姉さまが、ですか? し、信じられません・・・」
わたくしのかつての経験を聞かせた弟から、心底不思議そうな声が上がりました・・・普段どのように見られているのかとても気になる返しです。
「えっ!!? お嬢様が泣いて
「アル、少し黙ってください」
何故か護衛の片割れとして侍っている使用人が喧しいです。
ちなみに、もう一名はちゃんとした兵士の方です。
しかし色々なものを台無しにしつつ、今のアルの醜態を目にしたことでフィリオも少し冷静になれたようで(断じてわたくしの過去のお話のインパクトのせいではございませんとも、えぇ)、まぁ結果的には良かったということにしておきましょう。
―ガサガサガサガサっ
「「「っ!」」」
フィリオも一時よりは落ち着き、目の前のアサルトレオーも徐々に動きが鈍ってきて討伐も時間の問題と誰もが考えていた、そんなときでした。
近くの茂みが不意に揺れたのは。
―ぐるるぁおああああっ!!!
・・・そうして、こちらに向かいもう一頭のアサルトレオーが飛び付いてきたのです。
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