第13話 ランクアップ試験 その二

「たまには戻って来るんだぞ!」

「何を言ってるんだい父さん。グレン、父さんは無視して好きにやっていいんだからね?自分自身の人生なんだから」


 そう送り出され僕は学校へと戻った。実家にいた時間は3日と少ない時間ではあったが、僕の考えは確かに変わっていた。

 このまま碌に成長もできないまま学校で後3年以上過ごしたところでそれはほとんど意味のないことだろう。それならば早めに冒険者となって経験を積んだ方がいいと。そんな考えを抱きつつあった。

 どうせ学校を卒業したところで、この僕が何か推薦されるような仕事場もないだろう。学校を卒業したところで、実家でのんびりと過ごすか、冒険者になるかの二択しかないのだ。


 もちろん、友人には相談したし、止められもした。だが、僕の中で学校に残るという選択肢は、日に日にその存在感を失い3ヶ月経った頃には僕の気持ちは完全に固まっていた。


 その頃には友人も僕を止めることもしなくなり、多少の心残りはあったけれども、退学届けを提出し学校を去った。僕を熱心に誘った校長も僕を止めるかとも思ったが、ただ一言「ああ」というだけでそれ以上は何もなかった。


 そして、僕は冒険者の世界に足を踏み入れたのだった。


 ◇


「よし全員揃ってるな」


 テルゾダンジョンを目の前にしてギルマスが点呼をとる。因みに受付嬢も一人いる。彼一人では目の届かないところもあるのだろう。今回参加するのは僕を含めて3人だ。


「よろしい、では最初は誰からいくか?因みに、合格率は早めに挑んだものの方が高いぞ?」

「じゃ、僕から行きます」

「ほほう?グレンが先か。では好きなタイミングで声をかけてくれ。計測を開始する」

「それじゃあ、10秒後に合図をお願いします」

「分かった。ではカーナ、カウントを」

「了解しました。10、9、8……」


 僕は再度気持ちを入れなおす。因みに今回僕達に課せられた課題は、30分でグレイトボア、グレイトウルフ、グレイトオーガをそれぞれ一体ずつの討伐。勿論ただ倒せればいいわけではなく、ポーションの使用は禁止されているし、一定以上のダメージを負えば失格となる。要は、いかに手際よく三匹を討伐できるかを試すということだ。


「…3、2、1、スタート!」


 それと同時に僕はダンジョンに駆け込んだ!…ということはなく、落ち着いて僕はダンジョンに侵入した。そこまで急ぐほど時間はシビアではないし、何より焦りは禁物だ。適当な倒し方をすれば合格は遠のいてしまう。


 ◇


(どうせなら、ギルマスを驚かせたいよなぁ)


 話には聞いていたし、準備はそこそこしてきたものの、それでも実際に入るのは初めてなこのテルゾダンジョン。しかし、これまで積み重ねてきた僕の知識は通用するようで、ものの五分で三体を一匹ずつ背後から打ち抜くことに成功した僕は二つ目のセーフポイントで戦利品を確認しながらそう考えていた。


(でもなあ、必要以上に狩ったところで意味ないんだよなあ。むしろケガする危険が高まるってだけだし、それにこいつらの牙やら毛皮やらが欲しいならまた後で潜ればいいだけだし)


 これ以上、戦闘をしたところでリスクはあれどリターンはない。それは分かったいたが、溢れ出る自分の力に酔いしれたい自分がいるのも確かだ。


(我慢、我慢だ。受験料も馬鹿にはならないんだ。貯蓄は多いわけじゃないだろう?)


 理性と本能の狭間でせめぎ合う。大いなる力は身を滅ぼすとは言うけれども、それは理性が働かなくなるほどの魅力がその力にあるからなのだろう。そう、僕は感じた。ちょっと気兼ねなくギフトを使えるようになっただけでこの調子だ。


 そんな妄想をして気をそらし、何とか物理的に不可能になるまで持ちこたえる。流石に残り五分ともなれば僕の本能もいくらか抑えがきくだろう。本能でこれ以上は無駄だと理解できればいいのだ。


(抑えるんだ僕。ここで失格になれば本末転倒だろう?それは僕の望むことじゃないんだ)


 10分後僕は本能に勝利を収め、ダンジョンの外でギルマスからの評価を待っていた。


「うむ。見事三匹ともスマートに倒したようだな。どうやって倒したかは定かではないが、ともかく合格だ。苦戦したのであれば、無傷ではいられないからな」


 少しばかり伸ばした、無精髭が気になるのか、顎を撫でながらの講評だった。


「それにしても時間がかかったな。これだけの手際で狩れるならあと五分ほどは早く終わりそうなものだが」

「確かに、討伐自体はものの五分で終わったんですが、セーフポイントで少しばかり休憩してたんですよ。剥ぎ取りもかなり慎重にしましたし、それにほら僕のギフトは大勢には向きませんから」

「なるほどな。嘘は言っておらんようだ」


 鋭い眼光が光る。一線から退いてだいぶ経つはずだが、目は衰えてはいないということだ。少なくともギルマスのギフトは看破するようなものではないし、これはギルマス自身の能力と言える。まあそうでもなければギルマスなんて慣れないのだろうが。こんなひよっこに騙されるようならギルマス失格だ。


「まあいい。それはそうとこの前言ってたよな?」

「何でしょう?」

「『次の機会でお願いします』って言ってたよな?どうせ暇なんだろ?少しつき合え」


 ああ、そういえばそんなこと言った気がするな。あれはその場しのぎの嘘のようなものだったが、まあ言ったことは事実だ。この場を切り抜けるだけならできなくもないが面倒ごとは早く終わらせたほうが良い。前回と同じことをするなら魔力いただき放題だしな。メリットがないわけでもない。


「分かりました。それじゃゴールドのプレートをもらってからでどうです?」

「いいだろう。受け取ったら修練所に来るんだぞ?とんずらこいたら許さんからな?」

「生憎、まだ死ぬつもりはありませんからね。すぐ行きますよ」


 と、そこまで言ってギルマスは満足したようだった。「うむ」なんて言いながらまた顎髭を撫でている。


「ではグレンさん。これを持ってギルドにお越しください。もしなくした場合はプレートをお渡しできませんのでご注意ください」

「どうも。それじゃまた後でお会いしましょう」


 受付嬢からハンコが押された受験票をもらいその場を後にする。受験票と言うと学校時代を思い出すが、この紙の呼び方をそれ以外に僕は知らない。


 後二人の冒険者を見届けなければならないのを考えると、少なくとも一時間は余裕がある。


(まあ流石に二回目だし、顔面からずっこけることはないよな)


 スキップをしながら僕はギルドを目指す。もちろん気分がルンルンだとか、天にも昇るような心持という訳ではない。

 あくまで自分の力の把握の一環としてスキップしたに過ぎない。


 しかしまあ浮ついた気持ちがないわけでもない。僕は確かに自分が成長しているのを感じていた。

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